今回の東田トモヒロさんの話題は「餅つき」。東田家の恒例行事についてアレコレ考察されています。餅つきはサーフィンや音楽と似ているって!?
幼い頃の餅つきの思い出
仰々しいタイトルでね、毎度のこととはいえのっけから失礼いたしましたが、はい、今回は「餅つき」についての考察をお届けしたいと思います。
幼い頃、年の瀬になりますと我が家では、家族総出による餅つきを恒例行事としていました。
日頃喧嘩ばかりしている僕と兄も、なんとなく微妙な距離感を保つ母と祖母も、アウトドアでの活躍の機会が稀なインドア派の父も、この日ばかりは一致団結して、いみじくも一つのことを成し遂げる空気、いわゆる一体感というものに高揚した記憶があります。
祖父が大工でしたから、「杵」は彼の手製のものを使っていました。そして「臼」は石材屋か何かで購入したらしき、信じれれないくらい重たい代物だった事を覚えています。
祖父は器用というか、昔の人ならばそれがスタンダードだったのかも知れませんが、なんでも手作りでこしらえる人でしたね。例えば、僕ら兄弟の遊び道具なんかもよく作ってくれたものです。駒や竹馬、竹とんぼは勿論のこと、逆上がりの練習をするための鉄棒とか、小刀や鉈など大掛かりなものから手の込んだものまで。
子ども時代にそんな祖父を傍で見ていたから、僕も暮らしというものに向き合うようになった昨今、多少のDIYをこなしたり楽しんだりする性質を自然と持てたのかもしれません。
ところで、僕が中学生になったくらいからすっかりやらなくなった我が家の餅つきでしたが、15年くらい前でしたか、自分の子どもを授かったあたりでね、僕が言い出しっぺとなり復活させたのです。オールドスクールともいうべき、あの輝ける「餅つき」をね。
餅つきはサーフィン、音楽にも通ずる!?
それまでの数十年間は、いわゆる「餅つき機」という大きな炊飯器のようなやつで母がほとんど一人で作っていました。無論アウトドアではなく、台所でね。彼女はそれを「餅つき」と呼んでいたのですが、なんとなくそこに違和感を感じざるを得ませんでした。誰もついてないよね、餅を……と。
確かに紛れもなく餅らしきものは出来上がるのですが、あの一体感を肌で感じたことのある人間にとっては、それではあまりにも味気ない。
餅は「人の手によってつく」ことに意味があるのではないかと思ったわけです。
神社の袂、湧水の水場。まさに井戸端会議が行われているあの場所で、タライに野菜や洗濯物などを持ち寄って洗い物をしていた婆さんたちが、高度経済成長を成し遂げた変わりゆく日本の暮らしの中で、いきなり現れた電気洗濯機という文明の産物に出会った時に、それはそれは驚きと感動を持って家庭に招き入れたことでしょう。
あるいは山に入って薪を拾い集め、うちに帰っては釜戸で火を起こし湯を沸かしてお茶を淹れていた爺さんの暮らしが、給湯器や電気ポットの出現によってどれだけ楽になったことか。
よく分かります。分かりますが、餅は、餅だけは「せめて、つこっ」って、思ったのですね、はい。適度な田舎であり、ありがたいことに広々とした庭があるという環境に恵まれている立場ですから、日本の文化保存のために一役を担うべきだと、危機意識を持って決意したわけです。
復活後、改めて実践してみて気が付いたことですが、餅つきはサーフィンと、そして音楽と共通するところがあると思われます、ずばりね。
杵、臼、そして餅米。これさえあればあとは人間の力と知恵でもって成立するそのシンプルさは、サーフボードと海と自分という波乗りの研ぎ澄まされたミニマルな世界観と似ています。
ギターとアンプさえがあれば、歌を歌う僕にとってライブが成立するのも同じ感覚で語れる。つまり餅つきは、これ以上ないほどに削ぎ落とされた、スマート極まりないアウトドア調理のベストスタイルの一つだと言えると思うのです。しかもそこはバーベキューなどと違って、祭り的な要素と、神事的とも言えるフィロソフィーも含まれている。
アウトドアなのか、神事なのか、美しき伝統
作業工程において掛け声などの発声がなされる様子や、自然と男女がそれぞれの役回りに勤しむフォーメーションの出現(例えば男性はよく餅をつき、女性は主には出来上がった餅をちぎって丸めるたり、つき手の補助をせっせとこなす的な)などがそれに当たります。
加えてこれは慣例的に日本中でそうしていることかと思いますが、最初についた餅の一番初めにちぎって丸めるものを「鏡餅」とする、美しき伝統。サイズも一般的なものより二回りくらい大きめに丸めてね、まずは神様に捧げるお餅をとり、それから自分たちの餅を丸める。こんな恭しい行為があるでしょうか。すなわち餅つきとは、神ごとでもあるのですっ!つってね。
そして何よりね、そんな素敵な行為を、次なる世代を担う子どもたちに体験させたかったというのが大きかったのかもしれません、餅つき再構築の動機としては。「あの感覚」をシェアしたかった。
だって間違いなく良い感じのワークですから、餅つきって。田植えや稲刈りの場面おいても同じことが言えるかもしれませんが、食を通して「自然に宿る神々を敬う心」を養えるありがたいオポチュニティだと思うのです。
東田流餅つき極意は、コネ6ツキ4
初めのうちは面倒くさそうにしながらもね、祖父母になった父と母も、いざやると決まれば非常に協力的でした。父なんか杵と臼をホームセンターで新調してきたりしてね。年寄りが張り切る舞台があるってのはこれまた良いものです。
餅つきの朝は早起きです。吐く息も白い霜の降りた庭先、移動式の簡易釜戸を二つ並べて火をおこし、お湯を沸かすところから始まります。薪ストーブや焚き火で、普段からある程度火の扱いに慣れさせているので、子どもたちに火の番を頼むこともあります。
お湯が沸いたら、餅米を仕込んだ蒸し器を二段重ねにして炊き始めます。炊き上がるまでに大体1時間弱。その間に何度か米の様子をチェックしますが、炊き上がった餅米をそのまま食べたいという衝動に駆られたものは、それぞれの茶碗を持ち出してきたりしてね、それもまた一興といったところでしょうか。
さて、いよいよふっくらと炊けた餅米を臼に運んでつき始めますが、僕らの場合は、まず杵どうしをぶつけ合うようにして、「こねる」作業から入ります。我流ですが、ここがとても重要なポイントだと思っています。コネコネするうちに、だんだんとお米同士が柔らかく密着し始めます。しっかり一塊になってきたところで初めて「つき」の作業へとエントリーするのです。
掛け声や呼吸を合わせてつくあの時間は、そうですね、つき手のコンセントレーションから伝わってくるちょっとした緊張感のせいでしょうか、なんとなく神聖なことのように思えるから不思議です。
今回僕はこの一連の流れに名前をつけました「コネ6ツキ4」とね。六割ぐらいはコネコネであらかた形造って、残り四割をツキツキするっていうね。まあこれはあくまでもイメージとして掲げた支柱で、実際のところコネもツキも五分五分といったところですが、コネコネの工程がいかに大事かってことを後世に伝えるためにね、あえてコネコネに比重を置いて命名してみました。後世って、何様のつもりでしょうか僕。
この餅つきを復活させたあと、米作りも始めましたのでね、田植え、稲刈り、餅つきとひと連なりの一年がかりの旅のようでもありますから、つき上がった餅を頬張った時の喜びは以前にも増してひとしおです。
手間暇かかること面倒なことに輝きがあるのかも
機械での餅つきを良しとしていた母も、「やっぱり手でついたお餅は美味しい。粘りが違う」と毎年毎年同じフレーズを感心するように呟いています。
今回は縁あって日本を旅しているフィンランド人の青年が参加してくれて、大活躍でしたね、力も強いし。190cmの長身から繰り出される「つき」のパワーは圧倒的でしたが、餅つきはフルパワーよりも八分くらいの力が適当なのかもなとも思いました。これはもしかしたら万事に共通することかもしれないけれど。
餅つきはちょっとしたアウトドアパーティー。帰省していた姪なども、こういう和気藹々とした時間があると、みんなにいっぺんに近況報告ができたりしてね、とても嬉しそうでした。
そしてある意味で主役でもある子どもたち。日々成長している彼らですから、それがどれくらいのものなのか、年に一度の餅つきで測れたりして面白い。彼らの杵を振り下ろす力が増しているんですよこれが、年を追うごとにね。
オールドスクールの復活は、この時代にあって、僕にとっても必然だったのかもしれません。改めて様々な学びを得ることが出来ましたもの。
多くのことを電気電力などのインフラに任せて生きるようになった僕らは、ある意味ではとても恵まれています。だって肉体への負荷も時間も節約できて、楽になっているはずですからね。しかし餅つきを復活させた今、しみじみと思いました。楽にはなったかも知れないけれど、同じくらいの量の喜びや感動もどこかに忘れてきてしまっていたかも知れないってね。
インフラに頼りすぎれば、そのエネルギーを購入するために更なる労働が必要になり、時間なんかどこにも残っていないじゃないかっていう元も子もないような状況を招きかねません。
面倒なことが多いはずの波乗りやキャンプが、これだけ多くの人々に好まれているのもうなづける話です。人生を楽しむには、便利さと不便さ、アナログとデジタルのバランスってのが肝心なのかも知れませんね、きっと。
皆さんの身の回りにも、もしかしたら何かしら残っているかもしれませんね、忘れえぬオールドスクールの輝きが。
今回のおすすめアウトドアミュージック
Big Thief の 「Change」
70年代アートロックの輝きと刺激的な現代感覚を併せ持つ感じ、まさにニュースクール。
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