目が見えないながらも、全国各地の美術館を訪ね歩き、アート作品の鑑賞を続けている、白鳥建二さん。目の見えない人がアートを鑑賞するとは、どういうことなのでしょうか。全盲の美術鑑賞者である白鳥さんと、彼を取り巻く人々の歩みを追ったドキュメンタリー映画「目の見えない白鳥さん、アートを見にいく」が、全国の劇場で順次公開されます。
この映画の原案となったのは、同作の共同監督の一人でもある、ノンフィクション作家の川内有緒さんの著書『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)。2022年 Yahoo!ニュース | 本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞したこの本の執筆と並行して、川内さんは旧知の映画監督の三好大輔さんとともに、白鳥さんを主人公にしたドキュメンタリー映画の制作に取り組んでいました。
白鳥さんのアート鑑賞法は、作品の前で周囲の人々と気さくな会話をしながら、それぞれがどんな風にその作品を捉えているのかを聞いて、自身の中でイメージを膨らませていくというもの。周囲の人々もまた、白鳥さんを交えて作品について話をしているうちに、自分一人では思いもよらなかった視点に気づき、それぞれが感じる作品の魅力を共有する面白さを味わうようになります。川内さんもまた、白鳥さんとのアート鑑賞体験から、この鑑賞法の面白さと奥深さを知った一人でした。
白鳥さんはまた、普段から持ち歩いているデジタルカメラで撮影した膨大な数の写真を、写真家として発表する試みにも取り組みはじめます。さらには、白鳥さん自身が「作品」の一部となって美術館で「展示」されるというチャレンジも。それらの顛末を、私たちは映画を通じて、興味津々で見守ることになります。
穏やかに流れる時間の中で繰り広げられる白鳥さんと周囲の人々のやりとりに、映画を通じて触れるうちに、私たち自身もまた、安易な思い込みや偏った見方によって自覚せずにいた、さまざまなものごとの別の側面に気づかされていきます。「見える」と「見えない」の間に、何か違いはあるのか。「健常」と「障害」の間を分け隔てているものの正体は何か。人が生きていく上での「幸せ」とは、何に宿るものなのか……。
どこに行き着くのかは誰にもわからないけれど、白鳥さんたちと同じ列車にひょいと飛び乗って、一緒にわいわいおしゃべりしながら、どこまでも旅してみたい。「目の見えない白鳥さん、アートを見にいく」は、観終えた後にそんな気持ちにさせられる、不思議な吸引力を持つ映画です。一部の映画館ではバリアフリー版(音声ガイド・日本語字幕)の上映も予定されているので、ぜひ足を運んでみてください。
「目の見えない白鳥さん、アートを見にいく」
原案:『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(川内有緒著、集英社インターナショナル)
監督:三好大輔 川内有緒
出演:白鳥建二(全盲の美術鑑賞者)、佐藤麻衣子(白鳥氏友人・アートエデュケーター)、川内有緒(作家)、森山純子(水戸芸術館現代美術センター)、ホシノマサハル(白鳥氏友人・NPOエイブルアートジャパン理事)、岡部兼芳(はじまりの美術館館長)他
製作・配給:株式会社アルプスピクチャーズ
映画公式サイト:https://shiratoriart.jp
2月16日(木)より全国劇場(東京都写真美術館ホールほか)にて順次公開
※文・山本高樹(著述家・編集者・写真家)