あたり一面が銀世界に覆われた雪山は、この時期だけの独特の美しさと厳しさがある。その魅力を味わうべく雪山登山に挑戦したいという人も少なくないが、雪山は普段以上に危険がつきもの。警察庁が発表した山岳遭難情報によると年末年始の遭難件数は40件、遭難者数は54人となっており、いずれも前年比より増加している。この件数と人数はそれぞれ、過去5年で最多だ(※)。
※ 警察庁「年末年始における山岳遭難に係る警察措置について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r5nenmatsunenshi.pdf
この現状ともない登山地図アプリ「ヤマップ」では、冬山遭難に関する勉強会を実施。こちらをもとに冬の山岳遭難の現状と、それを避けるための対策についてレポートしたい。
極上のパウダースノーがここに……世界中のスキーヤーが集まる日本のスキー場
なぜこの時期の山岳遭難が増えているのか? その一因として挙げられるのが、外国人スキーヤーの増加だ。最近は新型コロナウイルス対策の規制緩和によって訪日外国人が徐々に増えつつあるが、それはスキー場でも同様。ニセコや白馬村のようなつねに新雪が降り積もるエリアは世界的にも珍しく、パウダースノーの聖地として世界中のスキーヤーの憧れの場所となっている。
また外国人スキーヤーはスキー場以外のエリアを滑ってしまうことも多く、さらに雪崩などの危険性を知る天気予報の情報も不足していることが、遭難事故につながってしまうという。
「新雪を滑ることにより、スキーヤーは雲の上を滑っているような独特の浮遊感が味わえます。この醍醐味は一度味わうと中毒になってしまうんです」
こう語るのはバックカントリー歴10年というヤマップの石田礼さん。バックカントリーといえばスキー場外をスキー板ですべるレジャーだと認識されているケースが多いが、それは間違い。もともとは日本に100年近く前から存在する“山スキー”の文化が由来となっており、90年代にスノーボードで山を滑る人たちも現れたことから、彼らを総称してそう呼ばれているという。
とはいえスキー場外をすべるバックカントリースキーヤーは少なくなく、“バックカントリー遭難”と呼ばれる事故が増えているのもまた事実だ。
雪山遭難に合わないために押さえるべき3つのポイントとは?
「雪山遭難に合わないために必要なのは、とにかく念入りに準備することです」
こう語る石田さん。雪崩などの情報をチェックするのはもちろん重要だが、現地が発信している天気予想をチェックすると、より精度の高い情報を得ることができるという。さら雪山遭難に合わないための具体的な準備として押さえておきたいのは以下の3つだ。
- ソロを避ける
- 遭難保険に入る
- 登山届を出す
誰かが雪崩に巻き込まれても、仲間がいればなんらかの方法で助けることができる。その際に雪崩捜索のための三種の神器といわれているが「ビーコン」「ブローブ」「ショベル」。これらがあればビーコンで捜索し、ブローブで雪の中からの場所を特定、ショベルで掘って助け出すことが可能となるのだ。仲間内で誰か必ずこの道具を持っていくことが、命を守ることにつながる。
そして意外と忘れがちなのが「登山届を出す」こと。バックカントリーの場合は登山という認識を持っていないケースも多く、忘れがちだという。またスマホのGPS機能も重要で、ヤマップをダウンロードすれば、電波が届かない山中でも自分の居場所をGPS確認することが可能だ。
アプリを使えば手軽に登山届もオンラインでOK
登山届を出す際は、登山口に設置されている登山届ポストで専用の書類に登山計画を記入して提出したり、事前に郵送などで登山計画を警察に提出したりするなどの面倒な作業が必要だった。だがアプリなどを使えば、オンライン上で簡単に手続きを済ませることができるのだ。
ヤマップでは2023年2月現在、岩手県、群馬県、埼玉県、長野県、神奈川県、静岡県、岐阜県、鳥取県、島根県、大阪府、奈良県、山口県、大分県、熊本県に位置する入山口もしくは下山口に対応。アプリ内で提出すると、自動的に協定締結済みの自治体へ提出される仕組みとなっている。
念入りな事前準備とスマホアプリによる現代のテクノロジー、この2つをしっかり押さえて、冬の雪山遭難に備えたい。