みなさん、こんにちは。セーリングヨットSANTANAで世界一周中、前田家の麻裕です。
さて、旅の途中ですが今回は寄港地で出会ったすごい日本人として、ヨットレーサーの高柳俊成さんをご紹介したいと思います。
高柳さんの第一印象は、スポーツマン特有の爽やかさに加え、どことなく漂う落ち着いた禅の雰囲気。一体どんな人なのだろう…?出会った人の人生を知っていく過程はいつもドキドキです。
高柳さんは、シリコンバレー在住、リンゴのマークでお馴染み、あの巨大企業で半導体設計者として仕事をこなす傍ら、ILCAマスターズクラス(※)世界大会に出場し、トップレーサーと肩を並べる活躍をされています。
出会いの場所、メキシコの港町ラクルーズには、強化レッスンのため、1週間滞在されていました。
メキシコの小さな港町で、日本人ヨット乗りの大先輩、そしていつもお世話になっているiPhoneの中の人に会えるとは!人生何があるか分かりません(この記事をiPhoneで読んでくださっている読者の方もきっと多いはず)。
ハイスペック過ぎるお仕事も気になるところですが、今回はレーサーとしての高柳さんにフォーカスしていきたいと思います。
(※)international Laser Class Association (マスターズクラスは、35歳以上に参加資格あり。年齢によりさらに細かくクラスが分かれている)
ヨットレースの魅力とは?
日本でヨットと言えば、クルージングよりもレースの方が主流だと思います。
恥ずかしながら私自身は、このヨットレースに関して全くの無知だったので、ヨット乗りの大先輩、高柳さんに競技ヨットの魅力を教えてもらいました。
ヨットレースは、海上にあるマークを決められた順序で廻るという、ルール自体は至ってシンプルな競技。しかし、海上に決まったコースはなく、風、波、海流などあらゆる外的要因を考慮した上で、無限にあるコースの中から最適な一手を瞬時に選び取る頭脳戦で、「海上のチェス」と呼ばれているそう。
そして、レース当日の天候は蓋を開けてみなければ分からないため、運が働く要素も強く、たとえ世界チャンピオンであっても百戦百勝とはいかない難しさがあるのだとか。裏を返すと、どの選手にも勝つチャンスがあり、そこがヨットレースをより一層エキサイティングなものにしているようです。
また、高柳さんが参加されているILCAマスターズには、レジェンドと呼ばれる75歳以上(!)のレーサーが参加するクラスが存在し、他クラスのセーラーから絶大な尊敬を集めているのだとか。
クルージングではレジェンド級セーラー(前田家が出会った中で最高齢は、90代!)をよくお見かけするのですが、スピード感のあるレースの世界では若さの利があるものだと思っていました。
どうやらこれは完全に間違いで、経験、技術を活かした走りにシフトすることによって、年齢に合わせた戦い方ができるのがヨットレース。年齢に関係なく楽しめる生涯スポーツなのでした。
また、 巷には様々なヨットレースが存在しますが、高柳さんが参加されているレースでは、ILCA(旧レーザー)と呼ばれる一人乗りの小型ヨットが使用されています。
誕生から半世紀近くを経ても古さを感じさせない、名作家具のようにクラシックで美しい佇まいのヨットです。
愛艇が開く世界への扉
アメリカ在住歴の長い高柳さんですが、そもそも海外に目を向けるきっかけの一つにILCA(旧レーザー)との出会いがあったそうです。
学生時代には、ヨットレースでいつか世界大会に出場する夢を仲間と語っていたそうですが、その夢を数十年後に異国で叶えた経緯にはどんなものがあったのでしょうか。
高柳さんが、シリコンバレーに移住されたのは遡ること二十数年前。元々日本での会社員時代に駐在経験があったそうです。
その際に、現在の愛艇をコンテナに詰め込んで一緒に海を渡ってきたというから、これぞ本物の相棒という思い入れの強さを感じます。ご本人としては、愛艇が自分を海外へ連れて行ってくれたと感じているそうで、素敵なエピソードだと思いました。
ヨットにはアラジンが手に入れた魔法の絨毯のように、不思議な力があるのかもしれません。
アメリカ移住後は、しばらく本格的なレースからは遠ざかり、趣味として続けられていたそうですが、ある時一大決心の末、全米大会に参加したのだとか。そこで出会ったマスターズクラス世界チャンピオンの選手から、「次は世界大会で…」と声をかけられたことをきっかけに、世界大会出場という長年の夢の実現を意識するようになったといいます。
大きな決断のきっかけは、誰かの何気ない一言だったりしますが、やるか、やらないか、いつやるのか、決めるのは全て自分次第。
高柳さんはここで長年の夢をこれ以上先送りにしない決断をし、世界大会への挑戦が始まりました。
先に触れたように、ヨットレースは運が働く要素も強い競技ですが、長丁場のレースでは実力通りの結果に落ち着くそうで、努力は裏切らないという言葉通り、結果を出すには地道な取り組みが欠かせないようです。
フルタイムのお仕事をこなしながら練習時間を確保するのは並大抵の決意ではできないことですが、出社前後や週末を利用して1年間かけて準備を進め、迎えた2016年。メキシコ、ヌエボ・バジャルタで開催されたILCAマスターズ世界大会に出場されました。
自分の持てる力を出し切って、6日間に渡る全12レースを見事に完走して夢を叶えた高柳さんでしたが、この経験を通して、自分の挑戦はまだまだ続くことを確信されました。
※日々の練習、大会当日の様子は高柳さんのブログに綴られています。
その後、パンデミック後初の開催となった2022年。同じくメキシコで開催された世界大会では、総合11位という輝かしい成績を残し、世界のかっこいいレーサーの中でも着実に存在感を増しています。
レースである以上順位にはシビアですが、マスターズクラスでは選手同士がお互いをリスペクトする姿が素晴らしく、そこでの交流も楽しみになっているそうです。
同年代の選手が参加するため、毎回お馴染みの顔ぶれに出会うことも多く、世界大会はお互いの近況を確かめ合う同窓会のような雰囲気もあるのだとか。
大きさは違うけれど、高柳さんの愛艇も、私たちのSANTANAも、持ち主を海外に連れ出し、違う世界を見せてくれるきっかけになりました。
そこからどんな未来を選び取っていくのかは自分次第だと、挑戦を続ける高柳さんの姿から教えてもらった気がします。
私達はこれからSANTANAに乗ってどのような未来を拓いていけるのか。
高柳さんとはそもそものスペックが違い過ぎるけれど、挑戦を恐れず、私達なりの面白い人生にしたい!
4歳の娘と6歳の息子を連れて、セーリングヨットSANTANAで放浪中の4人家族。2022年3月、カリフォルニアを出航。寄り道をしながらゆっくりと世界一周を目指します。海の上でサステナブルな暮らしを模索中。
Instagram:@svsantanajp
YouTube:https://www.youtube.com/@sailingsantana