海に潜って初めてわかる、生き物たちの美しい姿と生態。それを写真で誰にでも知らしめてくれるのが、水中カメラマンです。堀口和重さんは2022年12月、オランダのネイチャーフォトコンテスト「Nature Photographer Of The Year 2022」で水中部門グランプリを受賞した、その道のトップランナー。今回から定期的に水中写真の魅力についてお届けします。
水中カメラマン堀口和重の「美しき海の世界」第8回
山口県の青海島を離れて車で次に向かったのは、鹿児島県。いつもお世話になっている、鹿児島市のダイビングショップさんに2日間滞在させてもらい、そこから鹿児島空港へ移動しました。
次の撮影地は沖永良部島。巨大生物と群れの撮影に行ってきました。
自然豊かな沖永良部島へ
鹿児島空港から飛行機で約1時間30分で到着しました。
沖永良部は周囲は約60km、人口は約1万3000人の離島です。車に乗って道路から辺りを見渡すと、さとうきび畑が広がっていました。島内の観光地は自然豊かな場所が多く、鍾乳洞の昇竜洞や絶景の田皆峠など島の見どころは沢山あります。
ザトウクジラを求めて
以前からある生物の撮影依頼がきていました。その生物とは誰もが知る大型の海洋哺乳類のクジラです。
冬から春先にかけて沖縄から鹿児島の離島の広い範囲に、数多くのザトウクジラが繁殖と子育てをするために集まります。そのため、沖永良部島の周辺でもザトウクジラが毎年、見られているのです。
クジラ以外にも撮影したい生き物がいたので、沖永良部島で2種類の生き物を撮影しようと意気込んでいたのですが…。なかなか厳しい状況となってしまいました。
島の周りを船上からクジラを探します。
滞在日数4日間、そのうちクジラ撮影のために3日間、船を出してもらいました。初日は海況が悪く、午前中ひたすらクジラを探しますが見つからずに午後は中止となりました。
2日目も海況はあまり変わらず撮影は午前中で断念。
3日目は風がやみ海況は回復しましたが、肝心のクジラは夕方に姿を見かけたぐらいで、今回のクジラの撮影は失敗に終わりました。
自然カメラマンの仕事は運任せな部分もあるので、撮影できなかったということもよくあることなのです。自費で取材している場合、交通費・滞在費・撮影費という経費がすべて無駄になってしまうので、今回は厳しい結果となりました。
最終日は別の生物の撮影があったので、気持ちを切り替えることにしました。
ギンガメアジのトルネードとは
クジラの撮影は失敗しましたが、気持ち切り替えて臨んだのがギンガメアジの群れの撮影。沖永良部の名物と言ってもいい魚の群れです。
ギンガメアジとは熱帯や亜熱帯に生息するアジ科の仲間です。全長は60㎝前後。ルアー釣りでも人気の魚であり、南方では食用にされています。
そのギンガメアジが沖永良部では巨大な群れをなして泳いでいるのです。繁殖時期になると数百匹のギンガメアジが大きな群れを作り、グルグルと回遊します。群れを作るのは繁殖行動や敵から狙われにくいなどの様々な理由があると言われています。
沖永良部では毎年ギンガメアジの群れが観察されていて、私も10年ほど前に沖永良部のギンガメアジの群れが凄いと耳にしたことがありました。その群れが数年前からパッタリと姿を消してしまったのですが、ここ1年〜2年ぐらいでまた群れが戻ってきたのです。
撮影のために海へ入ると沖永良部島は透明度がとても高く、遠くからでもギンガメアジが群れていることがわかります。群れは浅い場所だと水深10m前後に現れます。深い場所では30m前後でも見られます。群れの形は帯状や縦に積み上げられたタワーのような形をしていて、不規則に変化していきます。
クジラの撮影は惨敗でしたが、ギンガメアジの撮影は無事に終えることができました。今回のように自然カメラマンの取材は、現地に行っても狙っていた被写体の撮影ができないことが多々あります。そんな中でも気持ちを切り替えていかないと良い撮影はできないのです。
次は鹿児島本土に戻り、離島とは違う海の撮影に臨みます。
今回までの撮影径路
START→伊豆(大瀬崎)→沖縄(石垣島・黒島・竹富島)→伊豆(赤沢)→山口(青海島)→千葉(波左間)→山口(青海島)→鹿児島(沖永良部)
撮影協力:むがむがダイビング