就寝設備はキャンピングカーの要
食事をしたり調理をしたりデスクワークをしたり、キャンピングカーでの過ごし方はたくさんありますが、その本質は「車内に就寝設備を備えること」といえるでしょう。
車内で無理なく夜を過ごせるという特徴があってこそ、ホテル不要の気ままな旅や、家の代わりにクルマで暮らす“バンライフ”を実現してくれます。
車中泊が「我慢」や「忍耐」の時間になってしまうと外出を楽しめませんし、疲労が溜まった状態での運転は危険でもあります。防災目的で考えたときにも、就寝設備はもっとも重視すべき項目です。
キャンピングカーには、常設ベッドやバンクベッド、二段ベッドなどいろいろな種類のベッドがあります。普段はあまり意識しませんが、実は最重要装備であるベッドについて、ユーザー目線で長所や短所を解説します。
キャンピングカーのベッド基準
特種用途自動車として8ナンバーを取得する場合は、就寝設備についても基準があります。
まず、乗車定員の3分の1人以上(乗車定員2人以下の場合は1人以上)の大人が就寝できる就寝設備を有すること。
ここで言う就寝設備とは、大人1人につき長さ180cm以上、幅50cm以上の水平面を指します。穴や隙間のない連続した平面を要するので、標準の運転席や助手席をリクライニングしただけでは基準を満たしません。
上方向の基準もあり、ベッド面から上に50cm以上の空間(部分的に30cm以上の空間)が必要とされます。
ベッドメイクした状態で上記のようになれば、格納式や折りたたみ式、脱着式であっても構いません。
ほかに子ども用ベッドの基準など細かいルールがあり、この制限の中で各社が知恵を絞ってベッドをレイアウトしています。ビルダーの腕の見せどころでもあります。
最上位に位置する「常設ベッド」
キャブコンやバスコンなどの大型キャンピングカーの多くは常設ダブルベッド(または通路を挟んだツインベッド)を備えます。スペースに余裕がないと実現しないため、もっとも贅沢な形といえます。
メリットはなんといっても「朝晩のセッティングが不要」であること。眠くなったらなんの準備も要らず、すぐに横になれるのは常設ベッド最大の利点です。
たとえば家族の誰かが先に就寝しても、残った人はダイネットでそのままくつろぐことができるなど、就寝・起床時間が異なる複数人で使うときにも便利です。
固定式のベッドは多少の重量があっても構わないため、家庭用と遜色ないスプリングや、大判・厚手のマットレスも使えます。
読書灯や間接照明を備えるモデルもあり、ホテルのような快適空間を演出できます。「自宅よりもよく眠れる」と話す人もいますが、それも納得です。
ちょっと面白いものでは、寝台列車のコンパートメントのような「常設二段ベッド」もあります。ダブルベッドほど面積を必要とせず、比較的コンパクトなバンコンなどでも設置できることからスペースの有効活用が実現します。
ただし、車高を二分割する形になるため、目の前に迫る天井や天板が少し気になるかもしれません。同乗者と完全にベッドを分けられるというメリットはあるため、開放感と天秤にかけることになるでしょう。
秘密基地のような「バンクベッド」
キャブコンを象徴するもうひとつのベッド、運転席上部に張り出したバンクベッド。2名ほどが使える就寝設備として就寝定員にカウントするモデルが多くあります。
奥へ行くにつれ低くなる天井はやや圧迫感がありますが、秘密基地のようなおこもり感もあり、慣れれば気にならないという声が多数。
一方でハシゴの上り下りが大変だったり、室温調整が難しかったりして、まったく使わず荷物置き場になっているという体験談も。
子ども用に、と考える人もいますが、危なくて結局使えなかったという声もあり、年齢や性格をしっかり考慮したいところです。あくまでサブベッドとして考えておくのがおすすめです。
仮にベッドとして使わなくても、大容量の収納スペースに転用できるのは魅力ではあります。欧米車などでは、必要なときだけ天井部からベッドが降りてくるプルダウン式もあります。
バンコンの定番「フロアベッド/ダイネットベッド」
常設ベッドに対し、普段はダイネットなどで座席として使っている部分を展開してベッドに作り替えるフロアベッド/ダイネットベッド。バンコンでお馴染みのスタイルです。
分類に迷うところではありますが、座席を使わず上に重ねるようにベッドキットを載せるタイプや、家具を支えに浮かせたロフトベッドと呼ばれるタイプもあります。
いずれも最大のメリットはスペースを有効活用できることで、コンパクトな商用バンや軽自動車をキャンピングカーとして利用できるのは、この仕組みのおかげです。
限られた車内空間を、シーンに応じてリビングとして、キッチンとして、ベッドルームとして、と何役にも兼用できます。
一方のデメリットは、毎回のシート展開が大変だったり、補助マットなどを別途積まなければならなかったりすることです。
一般的な手順としては、テーブル・ヘッドレスト・シートベルトなどの付属品を外す、座席を所定の位置までスライドさせる、背面をフルフラットになるまでリクライニングする、空いたスペースに補助マットをセットする、といった流れでベッドを用意します。
クルマのシートは意外に重く、またパズルのようにマットを組み合わせて平面を作るモデルも多く、最初は設営に苦戦するかもしれません。
荷物を邪魔にならないところへ移し、同乗者は車外で待機しなければならない場合もあります。雨天だったりすると少し大変ですね。
常設ベッドを設置するほどのスペースはない、けれど毎回のベッドメイクを省力化したい、という人には横向きベンチシートやコの字型シートという選択肢(8ナンバー車の場合)もあります。
フラットな座面が縦方向に伸びているため、シートアレンジをしなくてもそのまま横になれたり、ワンタッチでベッド化できたりします。
もとから板状のため、構造がシンプルなのも長所です。シート下を荷物入れとして使える場合もあります。
前向きシートをリクライニングしてベッドに組み替えるモデルでは、どうしても可動部に凹凸ができたり、隙間を補助マットで埋めるケースも多いですが、ベンチシートではそれもほとんどありません。
逆に横向きベンチシートのデメリットは、走行中の座席としての使い勝手が悪いこと。
横向き乗車そのものが身体を支えにくいうえに、シートベルトもホールド感に乏しい二点式だったりします。身体の曲線にフィットする通常の座席に比べると乗り心地はかなり悪く、走行中は大人でも身体がずり落ちることも。
基本的には「後部座席にあまり人を乗せない人」におすすめのモデルとなります。応用バージョンとして、横向きベンチシートから展開する二段ベッドもありますよ。
アウトドア派にはユニークな「車上泊」
ポップアップルーフの中で就寝したり、ルーフテントを建てたり、最近注目の「車上泊」スタイル。
小さなクルマでも広々とした就寝スペースが得られることや、普段は体験できない高い目線から広がる景色は「別世界」とも呼ばれる魅力です。
ポップアップルーフには、短辺を支点に屋根が斜めに持ち上がる一般的なタイプや、屋根全体が水平に持ち上がるエレベーティングルーフ、長辺を支点に立体的なテントが立ち上がるユニークな横開きタイプなどがあります。
壁にあたるサイドスクリーンの部分をオープン、クローズ、メッシュとアレンジできたり、テント内に本格的な照明があるモデルも多数。
一定の防風性能や防雨性能はありますが、密閉された車内よりは屋外にいる感覚が強くなります。万人向けというよりは、普段から「外の気配を感じながらテントで寝るのが好き」という上級者向けに分類されるでしょう。
ボディーをカットして車両と一体化させるポップアップルーフに対し、屋根の上に展開するルーフテントも各社から販売されています。車内からの移動はできませんが、比較的安価なのが魅力です。
どちらも屋根の高さまで上り下りできる身体能力が必要となり、また旅行後にはよく乾燥させるなどのメンテナンスが必要となります。
ベッド選びは定員よりもサイズに注目
キャンピングカーの仕様表では「就寝定員○名」とスペックが表示されていますが、決して過信せず、必ず実車でサイズを確認することをおすすめします。
というのも、就寝定員はあくまで制度上の基準を満たす数値であって、「快適に寝られる」という保証ではないからです。
たとえば商用バンの窓部分を拡張するなどして、横方向にベッドを取っているモデル。
要件上は前述のとおり大人1人180cmの長さを確保すればよく、もし身長170cmなら数値の上では十分に横になれるように思います。しかしここに盲点が。
立っているときには170cmでも、横になると甲が伸びるぶん身体が長くなります。また、通常は枕を使いますから、頭から壁まである程度のマージンが必要です。
現に私は、ハイエースに横向きに取ったベッドで寝られなかった経験があります。身体は収まりますが、少し動けば頭や足がぶつかる状態に。
車幅いっぱいの横方向のベッドでは「足だけベッド枠から出す」といった逃げ道がなく、窮屈な姿勢を強いられることも。
つかえる、ぶつかる、落ちそうになるといった身体感覚は意外とストレスになり、眠りが浅くなる原因にもなります。子ども用として考えている場合も、必ず試乗車や展示車でサイズを確認することをおすすめします。
どんなベッドがおすすめ?
車内に十分な余裕があれば、常設ベッドの便利さ、快適さ、気楽さに勝るものはありません。
「パートナーとベッドが別れていたほうがいいか」など、普段のライフスタイルに合わせてダブルや二段など形を選ぶとよいでしょう。
ベッド下部が収納庫になっている場合は、ペット用スペースをオーダーメイドするケースも見かけます。
では、常設ベッドを設置するほどの余裕がない場合にはどうするか。
私は「ベッドメイクの手間は可能な限り軽減したほうがいい」と考えています。面倒、手入れが大変、家族に不評といった小さな不便は、積もり積もって「使わなくなる」ことにつながるためです。
ショールームに出かけたら、ぜひシートアレンジを実際にやってみてください。スタッフが軽々やっているように見えても、意外に腕力が必要だったり、手順が多かったり……。
後部座席に人が乗らないことを前提に、もとからベッドの形状に近い横向きベンチシートを選んだり、乗車定員をあえて減らしたり、ダイネットを作らない「お座敷スタイル」にしたりも一案です。
私も経験がありますが、ポップアップルーフをやめたり、二段ベッドを一段にして就寝定員を減らしたりといったスリムアップは、登録ナンバーとの折り合いさえつけば効果的です。
ついつい「足し算」をしてしまいがちなキャンピングカー。いらない機能を削いでいくという「引き算」の考え方はベッドの選択にも有効だと考えます。