日本が誇る“食いしん坊”雑誌『dancyu』とタッグを組んで、アウトドア料理の達人をめざす「BE-PAL×dancyu “美味しいアウトドア達人”への道」。3回目となる今回は、両編集長が「焚き火とつまみ」について語り合い、お酒に合うつまみを作ります。
薪の上に五徳というスタイルがかっこいい
植野 じつはこの企画が始まる前から、焚き火に憧れていたんです。なぜ人はこんなに焚き火にひかれるんですかね。
沢木 癒されますし、飽きないですよね。
植野 半日くらい、じーっと見ていても大丈夫な気がします。
沢木 人間には「火を好むDNAが入っている」ってよく言われますけど、たしかに火は食べ物をおいしくしてくれるし、動物から身を守ってくれます。
植野 焚き火を見て、逃げるか寄っていくか。人間と動物の差ってそこですよね。ところで、今はキャンプ場といえば、焚き火ができるのがあたりまえなんですか。
沢木 はい。昔と違って、直火ではなく焚き火台を使いましょうという風潮になったので、たいていのキャンプ場でできます。しかも、最近は焚き火台の種類が多いんですよ。
植野 この焚き火台(ペトロマックスの「ファイヤーボール」)もかっこいいですね。
沢木 これは最近人気のソーサー型ですが、熱効率を上げるために空気を循環させるタイプがあったり、ソロ用の小さなタイプがあったり、いろいろです。
植野 どういう焚き火台がいいですか。
沢木 目的別に選ぶのがいいと思います。火を眺めたいのか、料理をしたいのか。
植野 僕みたいに両方楽しみたい人はどうすればいいんでしょう(笑)。
沢木 プラスオンできる焚き火台がいいかもしれませんね。たとえば、この「ファイヤーボール」は、火床が大きいので薪を寝かせることができて、その上に五徳(グリル)を置いて料理ができるんです。
植野 なるほど。薪と薪の間に五徳を渡しかけることができますね。
沢木 火加減のちょうどよいところに置けるんです。渓流の河原みたいなワイルドなところだったら、五徳だけを持っていって直火で調理することもできます。
植野 そもそも直火ってよくないんですか。
沢木 昔は土の中の微生物に影響があるとよく言われましたが、今はそれよりも地面に焦げ跡ができてしまうことや火の始末がしにくいことが問題になっています。キャンプ場のように多くの人が入れ替わりやってくるところだと、やっぱり焚き火台が安全で、地面もきれいに保てます。
植野 この焚き火台なら灰になるまできれいに燃やしきれますね。
沢木 はい。でも今のキャンプ場なら炭置き場に捨てることもできます。
植野 それはちょっともったいない。僕なら家の火鉢に使うか、水の浄化に使うかな。
植野 薪はどんなものがいいですか。
沢木 値段は高いですが、ナラやクヌギなどの広葉樹は火持ちがするので、料理に使いやすいですよね。そのかわり火はつきにくいので、最初は針葉樹に火をつけておいて、おき火でゆっくり料理したくなったら広葉樹をくべるというのもおすすめです。
植野 キャンプ場で売っているのはどういう薪が多いですか。
沢木 国産の杉が多いです。国産の間伐材を使えば、日本の森も守っていけます。
植野 守るということは手をつけないってことじゃなくて、ちゃんと使って循環させようということですよね。
沢木 はい。原生林だったら手を入れなくてもいいでしょうけど、日本に原生林はほとんどありません。人の手が入ったあとに放置されている森は、手入れをしないと荒廃します。
植野 必要に応じて間伐したり、下草を刈ったり。
沢木 そうですね。今は地元産の間伐材を使った薪を売り出しているところが増えてきて、よいことだと思います。ふるさと納税でも人気です。
植野 ちょうどおき火になってきました。
沢木 薪を長持ちさせたければ、ちょっと湿らせておくこともできます。自分で工夫している感じがいいですよね。
植野 火を扱えるっていうのは、人としてかなり上級な感じがしますね。
沢木 火加減は料理の基本でもありますし。
植野 現代は便利になって、何もしなくても機械が全部やってくれることが多いですけど、火は人が面倒を見ないとちゃんとしてくれない。火というものには、なにか人として必要なものが詰まっている感じがしますね。
焚き火に突っ込める料理器具が増えてきた
植野 焚き火ではみなさんどんなものを作っているんですか。
沢木 ダッチオーブンが人気ですが、それ以外にも直接火に突っ込めるフライパンや鍋が増えてきました。木製の取っ手がなくてぜんぶ鉄でできているとか、自分で木を削って取っ手の穴に差しこんで使うとか。
植野 焚き火はプリミティブな熱源ですが、道具が進化しているからいろんなことができるんですね。焼いたり煮たり蒸したり。
沢木 あと、燻(いぶ)すのも。2泊3日くらいする人はベーコンをじっくり煙に当てて、ナチュラルな燻製もできます。
植野 僕らも燻されていい香りがしてきましたね(笑)。あと、焚き火って夜のほうがきれいに見えると思うんですけど、ほかに適した時間帯はありますか。
沢木 朝いちばんに残り火を復活させるのも楽しいですよね。肌寒いときにまずコーヒーを淹れて、次に朝食を作って……みたいな。
植野 おしゃれです。女子は落ちますよ(笑)。夜の残りものを温めるとか、パンと目玉焼きを焼くとか。
沢木 もうそれだけでおいしい。
植野 おじさんも落ちる! ほかに焚き火の使い方はありますか。僕は何かをアルミホイルに包んでポンと入れたくなっちゃう。
沢木 いいですよね。新じゃがとか玉ねぎとか。
植野 いいですね、玉ねぎ。半分に切ってオリーブオイルをかけて包んで焼くと、外側から二番目がいちばんおいしいんですよ。
焚き火が最高のつまみ
植野 なによりも、そもそも焚き火ってつまみですよね。
沢木 たしかに。見ているだけで、お酒いけますからね。
植野 これからつまみを作るんですけど、もうつまみいらないですね(笑)。見た目の揺らぎもつまみだし、香りもつまみ、チリチリチリっていう音もつまみ。五感で感じるつまみです。スペイン人の友だちは、夜酒を飲むときにテレビに焚き火を映しています。
沢木 欧米には暖炉の火の前でくつろぐ習慣があるんでしょうね。日本だと暖炉はなかなか作れませんが、そのかわり焚き火がある。
植野 焚き火の炎を見つめながら酒を飲むっていうのは、今の世の中の最高の贅沢ですよね。銀座の高級バーで飲むよりも贅沢。
沢木 夜景より癒されます。高層ビルの夜景は支配感というか、やったぞという感じじゃないですか。もうちょっと純粋な癒しがある。
植野 「どや」みたいな上から目線ではなく、下からでもなく、本当にフラットな目線になれますよね。
植野編集長のつまみ1「ちょっとアジアっぽいスパイスナッツ」
焚き火の炎を見つめながら酒を飲む、そこに美味しいおつまみがあったらもう最高! そんな欲望を、植野編集長がササッとかなえてくれた。レシピはWeb版dancyuにて公開されています。本記事最下部のリンクからアクセス可能です。ぜひ御覧ください。
植野 アウトドアのつまみのルールを僕なりに考えました。簡単にできることと身近な材料でできること。あと、肉と魚は使わない。メイン料理はたいてい肉や魚だから、つまみも肉や魚だと疲れるじゃないですか。
今日はたまたまバナナチップですが、ポテチでもせんべいでもOKです。できれば、甘いものとしょっぱいもの、もしくは甘いものと辛いものを組み合わせるといいですね。味が深くなります。
コツを言ってしまうと、バターとカレー粉と醤油があれば、たいがいのもなんとかなります。バターのこくとうまみは甘い味と辛い味をうまくつないでくれます。カレー粉は食欲をそそります。カレー粉は火が入ると少し香りが落ちるので、最後にちょっと追いカレーをして、二段使いをしたほうがフレッシュな香りがたちます。
キャンプってみなさんカレーをよく作ると思いますが、ルーだけでなく、カレー粉も持っていったほうが絶対いいですよ。意外ですが、カレーの香りってけっこう焼酎にも合うんです。酒のつまみには落花生の皮の苦みもあったほうがいいですね。
植野編集長のつまみ2「酒飲みのためのやさしいディップ」
植野 おつまみの自分なりのルールをもうひとつ。体にやさしいものも作る。キャンプって冷たいビールなどを飲みすぎて疲れちゃうし、酒のつまみってどうしても強いものが多くなるので、逃げ場がほしいですよね。
これは味もそんな強くつけません。オリーブオイルが全体をうまく融合してくれます。
小腹がすいたら、焼いたバゲットにのせてもOK。酒のつまみとして、もう少しアクセントがほしいときは、さっきのナッツといっしょに食べてください。
植野編集長のつまみ3「あんときのエノキ」
植野 油は、ごま油でもオリーブオイルでもいいんですが、香りが強すぎないものがいいですね。
焼酎を飲んでいたらそれも入れて、酒の香りでうまみをつけます。飲んでいる酒を入れるというのが相性がいいんです。醤油は味つけというよりも、香りつけ程度でOK。白ご飯にかけてもおいしいですよ。
対談に持ち込んだBE-PAL編集部員の愛用品・おすすめ品
テンティピ/サファイヤ 9CP
スウェーデンのワンポールテント。素材は熱に強いポリコットン(ポリエステルとコットンの混紡)なので、焚き火キャンプに最適。天井にベンチレーション(空気穴)と煙突用の穴が付いているので、内部で焚き火をしたり、薪ストーブを焚いたりしてもOK。価格は269,500円。
シマノ/アイスボックス 30L PRO
釣り具で有名なシマノが満を持して開発したアウトドアモデル。6面の極厚真空パネルと発泡ウレタンを使用し、氷の保持期間は最大10日という保冷力を誇る。蓋は長辺の両側から開閉でき、パカッとはずすこともできる。クーラーをひっくり返さずに外側からワンアクションで水抜きできる水栓付き。価格は55,000円。
シマノ/アイスボックス 30L PRO
https://lifestyle.shimano.com/icebox/
サーモス/保冷炭酸飲料ボトル FJK1000
従来の真空断熱ボトルは炭酸飲料が不可だったが、せん本体に圧力開放穴を設けることで、蓋を少し回すと圧力が逃げるため、炭酸飲料を入れられるようになった。焼酎のソーダ割りを作るなど、アウトドアのバーカウンターに欠かせないアイテム。オープン価格。
サーモス/保冷炭酸飲料ボトル FJK1000
https://www.thermos.jp/product/detail/fjk-1000.html
DIYしたキャンプギアも雰囲気アップにつながる!
鍋敷やミニテーブルは、表面に布を貼ってニスで塗り固めておしゃれにカスタマイズ。
※構成/大塚 真(DECO) 撮影/三浦孝明
Web版dancyuも合わせてお楽しみください
Web版のdancyuでも、両編集長の対談記事を掲載しています。dancyuでは植野編集長のレシピを詳しく解説していますので、本記事と合わせてご覧ください。
BE-PAL×dancyu “美味しいアウトドア達人”への道
※記事中の価格は、すべて2023年4月4日現在のものです。