春爛漫。だが、まだまだ雪はある
いや〜、今シーズンも様々な雪山を滑り、こちらBE-PALネットでもその模様を語らせていただきましたが……来ましたね、最後の最後にハイライトってやつが。その舞台はやはり日本の宝、北の大地北海道でした。
ここのところ北海道では主に夏場と冬場、年に複数回のライブツアーを行っています。今回の冬の旅は、立春もとうに過ぎた3月の上旬でした。暦の上では春の旅とも言えなくもありません。
とは言え3月の北海道はまだまだ白銀の世界が広がっています。ハイシーズンと比較すればパウダースノーに出会える確率は下がるものの、ローカルのスキーヤーやスノーボーダーからは折に触れて、外国人ビジターによるトラフィックジャムが過ぎたこの頃が好きだという声も聞かれたりします。
そんな時期だからこそ僕は、今回の旅でゲレンデではなく、あえてバックカントリーを滑ることに的を絞ってみました。しかもこちらも自身初の試みなのですが、山歩きができるスプリットボードにチャレンジしたのです。
スプリットボードとはなにか?
まずはバックカントリーについて簡単に解説しますね、僕の知る範囲で。
一般的にバックカントリーは、スキー場など管理または整備されたエリア以外でスキーやスノーボードをすること、と定義されているようです。基本的にリフトなどの動力機械を使わないので、自分の力で登って、自然のままの地形を滑ることになります。場合によっては未開のパウダースノーをも堪能できる。
圧倒的な美しさが保たれた大自然の中に身をおくことになりますので、日常ではなかなか味わえない特別な感覚に浸れます。それこそがバックカントリーの最大の魅力かもしれません。
そして僕は今回スノーボードを真っ二つに割ってスキーのように歩くことができる、「スプリットボード」で山を登りました。
スプリットボードはスキーには存在しないジャンルです。だってスキーをスプリットしたら板が四枚という意味の分からない状況になってしまいますしね。
今回僕が選んだのは、アメリカはユタ州に本拠地があるスノーボードブランド、「カーディフ」のスプリットボードでした。グラフィックもシルエットもうっとりするようなとても素晴らしいボードです。友人が輸入販売をしていますので、貴重な一本をお借りしてね、胸を躍らせながらも気を引き締めつつ北海道の山に入りました。
カーディフ
https://cardiffsnow.jp/
スカイウォーキングのような軽快な滑らかさ
僕にも数える程ではありますが、これまでバックカントリーの経験はいくらかありました。その時はいつもスノーシューを履いて歩き、スノーボードは背中に担いだバックパックに括り付けてというオーソドックスなスノーボーダーズバックカントリースタイルでしたね。
これももちろん悪くなかったのですが、スプリットボードでの歩きの軽快さには実に驚かされました。なだらかな斜面であれば、スイスイと雲の上を歩くような気分で足を運ぶことが出来ます。
まるでスカイウォーキングです。足の裏から伝わる感覚も、スノーシューのそれよりも滑らかで気持ちがいい。そしてボードを担いでいませんからね、背中への荷重も随分と身軽ですね、うん。
この時ばかりはなんとなくスキーヤー気分を味わうことが出来ました。少し高い目線からクールに周りを眺めると言いいますか。スノーボーダーって基本的にスキーヤーよりも低姿勢で過ごしますからね。まあそこが良いところでもありますが。
初スプリットの行き先は黒岳
初日は過去に何度か訪れたことにある、黒岳という山にトライしました。まずはゴンドラとリフトを乗り継ぎ、標高1984mの7合目までアプローチ。そしていよいよ7合目からスプリットボードをセッティングして歩き始めます。ここからはまさに未体験ゾーンです。
リフトを降りたところで、スノーボードのデッキの上下二箇所にあるフックを外して二分割します。そして二本になったスノーボードのボトムの面に、滑り止め用のシールを貼ります。
この時、シールと板の間に空気の隙間が入らないように、ストックなどでならしたり、場合によってはシールの上からさらに滑り止めのワックスを塗ったりするのも重要な事だと知りました。外したビンディングも、スキーのようになったそれぞれの板に付け替えます。そして改めてバックパックの中に水や行動食、ビーコン、ショベルなどの装備を確認して、いよいよ出発です。
ただ僕にはもうひとつ、「クランポン」というスペシャルな道具を用意してもらいました。これは登山靴に装着するアイゼンに当たるもので、氷や氷化した雪の上を歩く際に強力なストッパーとして活躍してくれる優れもの。僕にとってはいざという時の命綱となるはず。なんせスプリット初心者ですからね、念には念を入れて。
頂上は達せず……でも大満足の一本
麓から山に入った途端、その空気感は一変しました。スキー場の喧騒は次第に遠のき、風が静かに山肌を渡る音が聴こえてきます。木々が落とす影と雪面の反射光。モノトーンの世界だけに佇む静寂と安らぎは、形容しがたい満足感を与えてくれ、自然と笑みがこぼれます。
とかかっこいい言っちゃっても、初心者であることは如何ともしがたい。情景に浸りつつもね、しっかりと呼吸は乱れてまいります、歩みを進めるにつれてね。
歩き始めてしばらくすると、黒岳の頂上、いわゆるひとつのピークが見えてきました。この日はもうほんと、春のような暖かさでね、シェルばかりかインナーのフリースまでも脱ぎたくなるほどでしたよ。気がつけばファーストレイヤーは汗で滲んでいました。
頂上に近づくにつれて斜度がきつくなってきます。そうなるとスプリットボードの場合は、スノーシューのように縦のラインで直登することが困難になってきますので、急斜面はジグザグなラインを描いて歩きます。
慣れている仲間達についていくのはかなりハードでしたが、後半に差し掛かってきたあたりでは、みんな僕のペースに合わせてくれましたのでね、焦ることなく落ち着いて登り続けることができました。
少し歩いては休み、またゆっくりと歩を進めてと言った具合に。標高がさらに上がってくると、ほんの10歩動いただけでも呼吸が乱れてしまうことに気が付きました。
そこでこの日は無理にピークまでは行かず、頂上手前のショルダー辺りの平らな地点でスプリットを脱ぐことにしました。きつさよりも楽しさが先行しますので、ついつい上を目指したくなるのですが、自分でも気がつかないうちにかなり体力を消耗しているなんて事もありますのでね。
リスクを回避する上では、何より冷静さが要求されます。夜はライブも控えていましたしね。
およそ二時間半をかけて黒岳の勇ましい斜面を歩きました。頂上には辿り着けなかったものの、僕は十分この日の登山の感触に満足していましたし、気分はまさに爽快そのものでした。
強い風や吹雪などにさらされることもなく、とても穏やかな雪山登山でした。好条件に恵まれたのは、今思えば本当にラッキーだったのかも知れません。
ハイクした地点から、遠く大雪山連峰の尾根を眺めたり、歩んできた道と木立を見降ろしたりしました。その美しい風景は、ここまで歩んできた者だけに与えられた、大自然からのギフトです。ああマジで素晴らしかった。
さていよいよボードを元の一本に戻して滑り降ります。真っ平らな場所ではないので、板を斜面に流したりしないように細心の注意を払いつつ、滑るための身だしなみを整えます。
氷雪に近い硬い斜面でしたが、自らの足で歩んできた道を滑る感動は、決してゲレンデでは味わうことが出来ませんのでね、また違った種類の気持ち良さがそこには待っていました。
海でたった一本の素晴らしい波に出逢う感覚に近いものがありましたね、ジーンとくるあの感じ。
さらなるチャレンジ、仲間たちと前十勝へ
それから2日後、僕はもう一度バックカントリーにチャレンジしました。そして今度は、ゴンドラにもリフトにも乗らない山にアプローチしてみたいと強く思ったのです。
そこで黒岳を登った友人らに加えて、ライブ会場で出逢った仲間達と前十勝という山を登りました。そこにはアイヌ音楽のミュージシャンのOKIさんも来てくれてね、最高のメンツが揃いました。
「白銀荘」という温泉施設の脇にある駐車場でセットして、そこから登り始めます。周りにスキー場などはありません。これこそまさにやってみたかったスタイルです。
まずは多少のアップダウンのある細い林道を縦列で歩き、そこを抜けてゆっくりとオープンバーンの裾野まで、緩斜面を約1時間かけてアプローチ。そしてそこからさらに上を目指します。
ピークは大変な岩場なので近づけませんが、その手前、麓から見て右手前方に見える大きな岩の近くの、やや平らになってるっぽい地点を目指すことになりました。
前十勝ではあの「クランポン」が僕の登山を救ってくれました。黒岳以上に氷雪化した山肌は、僕の場合シールだけではなかなかその斜面をうまく捉えることができなくて、何度もトレースからズレて横滑りを繰り返したり、しまいにはバランスを崩してコケたりしてね。
一度は10メートルほど斜面をズルズルと落ちてしまいました(ちょっとした滑落)が、この時はさすがに少し焦りましたね。あーおっかねー。
落ち着きを取り戻したところで、我が命綱であるクランポンを装着して再び歩き始めます。それからは急な斜面も、驚くほどガッチリ安定して歩くことができました。もしもバックカントリーの為の全ての道具を自前で揃えるとしたら、僕はスプリットボードよりも先に、クランポンを買うでしょうね。名前もなんか可愛いし。
歩き始めた時には曇っていた空も次第に明るくなり、目標としていた地点に到達する頃には、すっかり青い空が現れました。向い側に太陽に照らされた富良野岳が、その雄大な姿を現していました。あの大きな沢の美しい輝きは、今でも瞼に焼きついています。
滑り降りてみると場所によってはちょっとしたパウダーも残っていて、そのフィーリングはもう最高でした。
そして一緒にセッションした仲間のことをこれほど親密に感じることが出来たという喜びも、一つの大きな収穫でしたね。どうやら僕は今回のバックカントリーで、ゲレンデのセッションとは比べようがないほどの一体感を味わったようです。旅の仲間たちに心から感謝したいと思います。
とても貴重な体験でしたが、それも全て、山のことを熟知している友人たちのガイダンスのおかげだったと痛感しています。
バックカントリーをみなさんも是非っ!!ていつものように呼びかけたいところですが、ここはやはり安全第一ですのでね。滑落や雪崩、急な悪天候やそれらによって起こる低体温、あるいは遭難などの大きなリスクと隣り合わせのバックカントリーですから、装備やご自身の経験の充実のみならず、良き仲間やガイドさんなどとの信頼関係の中で楽しまれることをお勧めします。
僕もこれからはバックカントリーのことを意識してね、日々の体づくりを心がけようと思っています。
今回のおすすめアウトドアミュージック
The Black Crowesの 「Descending」
ピークに登りつめいよいよ滑ろうかという時に、心の中でこの曲のイントロが流れてきました。
東田トモヒロNEWS
SURF & SAUSE 東田トモヒロとケンチャンソースの旅 四国編
サーフミュージックとオーガニックライフ探究の旅を続ける2人の
四国/徳島〜高知ツアー開催が決定!
阿波藍文化が育んだ世界三大祭り“阿波踊り”はじめ、戦時中ドイツ兵捕虜との交流から交響曲第9アジア初演の地となるなど日本における大切なダンス&ミュージックの歴史文化を紡いできた徳島の風土と、故郷熊本を拠点に全国各地のヒトモノコト自然の繋がりの大切さをサーフミュージックに乗せて世に伝える東田トモヒロのブルース&ソウルミュージックの協奏。
そして、阿波藍はじめ様々な文化を育んできた吉野川が繋ぐ阿波の山の幸海の幸AWAFOODと、世界各地の食文化との出逢いから生み出されたけんちゃんソースの共創。
■4月6日(木曜日)
会場:テイクサンド
〒775-0501 徳島県海部郡海陽町宍喰浦松原219-1
電話: 080-7303-2925
Open 17:00
Live 18:00
Close 21:30 (20:30 LO.)
Charge ¥2,500(1フード付)
■4月7日(金曜日)
会場:はりまやライト
〒780-0833 高知県高知市南はりまや町1丁目2-20
電話: 088-802-6130
start 20:00
¥2500(with1drink)
■4月8日(土曜日)
会場:トレーラーハウス with SO-AN
高知県いの町1031-1
T.B.A
■4月9日(日曜日)
会場:Laki Lani on the Beach with Kurumi Arimoto
高知県四万十市平野 平野サーフビーチ
予約、問い合わせ
tel 090-5272-1608
facebook page https://www.facebook.com/lakilanionthebeach/
サブスクリプションコミュニティTSC(Tomo Surf Club)
シンガーソングライター東田トモヒロとつくる、持続可能な音楽のコミュニティです。
月額制のサブスクリプションで、独自の配信ライブや、インターネットラジオ配信等いくつかのオリジナルコンテンツを用意して、みなさんとコミュニケーションを図っています。ぜひご参加ください。
https://community.camp-fire.jp/projects/view/338326