鉄道旅は楽しい。身軽な装備で行けば、もっと楽しめる! 今回はバックパッキングで鹿児島を旅したライターのレポートをご紹介!
いざ九州の南端へGO!
ライター 櫻井 卓さん
弊誌のほか、旅関連の雑誌、WEBなどでも執筆する登山&旅好きライター。趣味は国内外の国立公園巡りで、なかでもアメリカのヨセミテ国立公園は何度も通うお気に入りの場所。
今回訪れた開聞岳、池田湖、指宿温泉などは霧島錦江湾国立公園の一部。別名・南薩とも呼ばれ、きんかん、そら豆、カツオ、黒豚など特産品も数多い。
DAY 1
ローカル線でまったり移動後は開聞岳を独り占めキャンプ
基本はテント泊登山装備を流用。この旅でプラスしたのは、サブザック、パーゴワークスの焚き火台ニンジャファイアースタンド ソロ、そして折りたたみ椅子。
前々から開聞岳は気になっていたのだ。標高924mなのに百名山に選ばれているこの山。「キツイ」「最高の景色」「2回目はいいかな……」などなど、その感想は分かれる。ならば自分の目と足で確かめるしかない。
目指すは九州の南端。どちらにせよ長い旅程になる。それならいっそのこと、と選んだのがローカル線でののんびり旅。そうなると当然荷物は最小限。バックパックひとつだ。
車窓から美しい海を眺めながらのんびりと進む。鹿児島中央駅で指宿枕崎線に乗り込み、開聞岳最寄りの開聞駅を目指していたんだけれど……。途中にある西大山駅は本州最南端のJRの駅! それに惹かれてついつい途中下車。ホームからはドドンとそびえる開聞岳。SNSにアップするのか、若い女性のグループやカップルの姿も多い。
ところが! 途中下車したせいで、次の電車は2時間後。でも電車がないなら歩けば良いのだ。歩き旅との組み合わせができるのもバックパッカーの特権。開聞岳を望みながら、畑の中を歩いていく。ちょうど菜の花が咲き始めた季節だ。
到着したのは、開聞岳の麓にある「かいもん山麓ふれあい公園」。このキャンプ場が超当たり! 開聞岳が眼前に迫る広々としたフリーサイトを、なんとこの日は独占。さっそくテントを張ったら、焚き火をおこし、薩摩といえば! の黒豚を使ったしゃぶしゃぶ鍋を作る。もちろん、お供は近くのスーパーで買い込んだ鹿児島芋焼酎各種。焚き火と美味い酒。そして目の前にそびえる開聞岳。いうことなしの組み合わせなのだ。
羽田空港からビューッと2時間ほどで鹿児島空港へ到着。そこからバスに乗り換えて、鹿児島中央駅へ向かう。
日本最南端のJR駅に到着!
ふらりと下りたのは、西大山駅。駅の前にはお土産屋さんがあって、そこでは最南端駅到着記念カードなども購入できる。開聞岳撮影ポイントとしても有名。
13:00 開聞岳を眺めながらローカル歩き旅
ローカル鉄道旅あるあるだけど、電車の本数はかなり少ない。でもバックパック旅なら多少の歩きは楽しみのうち。人々の暮らしを横目に2駅くらい余裕で歩けちゃう。
16:00 開聞岳の麓のキャンプ場で名物黒豚しゃぶしゃぶ鍋
近くにスーパーがあるので、買い出しはそこで。コテージやシャワーなども完備している。フリーサイトは1泊930円。土・日・祝日などは1870円。
かいもん山麓
ふれあい公園
住所:鹿児島県指宿市開聞十町2626
電話:0993(32)5566
定休日:火曜定休(GW・夏休み・年末年始のぞく)
DAY 2
360度オープンビューの開聞岳の頂を目指すのだ!
翌日はメインイベントの開聞岳登山。公園の事務所にはコインロッカーがあるので、荷物を預けて身軽になって歩きだす。
出だしは、樹林帯。なるほど。「キツイ」という人がいるのもわかるっちゃわかる。でも、開聞岳の見せ場は七合目からだ。そのあたりから岩場が続いて、そこから頂上までは眼下に海を見下ろしながらの爽快な登り。辿り着いた頂上も360度見渡せるパノラマビューのご褒美付きだ。たしかに、ほぼ0mからのスタートだから標高差で考えればキツイといえばキツイ。けど、この景色は他ではなかなか出会えないスペシャル感がある。
下山後は、温泉! ということで、鰻温泉へ向かうことに。最寄りの山川駅に着くと、そこで衝撃の事実。近くまで行くバスがないのだ……。歩くか……と思ったけど累積標高差1800mを歩いてきた体にはちとキツイ。大人の必殺技タクシーを使うことにする。距離にして2㎞ちょい。許してください。
鰻温泉は西郷隆盛も愛した場所。良い感じに鄙びた雰囲気で、ぐるっと歩き回っても10分程度。ぜひやってほしいのが〝スメ〟体験。温泉の蒸気を利用した天然の蒸しかまどが開放されていて、食材を持ち込めば様々な蒸し料理を作れるのだ。集落を見渡すとあちらこちらに蒸気があがっていて、そのそばに寄り添うように民家がある。そうか、Myスメ! うらやまし!
登山口はキャンプ場直結!
宿泊地のキャンプ場は、開聞岳登山道のすぐ脇にあるから、多少の寝坊も問題なし! 往復のコースタイムは約6時間。
登り始めから七合目あたりまでは樹林帯の中を歩く。地面が砕けた火山岩なので、ちょっと滑りやすい。足周りはしっかりと。
11:00 樹林帯を抜けると嘘のような風景が待っていた
七合目を過ぎると、これまでの樹林帯が嘘のようなオーシャンビュー! 登山中にこれだけ綺麗に海が見える場所ってなかなかない。山頂の景色も素晴らしいのひと言。登りはキツイがご褒美も豪華なのだ。
16:00 天然蒸気で蒸し料理 鰻温泉で“スメ”体験
鰻温泉には「スメ」と呼ばれる、温泉の蒸気を利用したカマドがある。観光客向けのスメ広場で卵とサツマイモを蒸してみたら激ウマ! テーブルもあり、蒸したその場で食べられる。
16:30 西郷どんも愛した静かな温泉地
鰻温泉は西郷隆盛が湯治に訪れた場所。入浴料は大人200円という安さ。近くには鰻池という火山湖がある。
区営 鰻温泉
住所:鹿児島県指宿市山川成川6517
電話:0993(35)0814
営業時間:8:00〜20:00
定休日:毎月第1月曜定休
DAY 3
登山で疲れた体を砂むし温泉で癒やす!
3日目。帰る前にどうしても寄りたい場所があった。それは池田湖。イッシーといえばピンとくる人もいるかもしれない。そう! 昭和に一世を風靡したUMA(未確認生物)。そのイッシーが目撃されたのがこの池田湖なのだ。昭和をひきずるオジサンひとり、イッシー捜索を続けたけど、菜の花に囲まれて湖面をぼーっと眺める姿は、よくよく考えれば不審者のそれだ。
旅の締めは最初から決めていた。指宿名物・砂むし温泉。世界的にも珍しい、海岸に自然湧出する温泉を利用したもので、今回お邪魔したのは現在、唯一日帰りで入れる「砂むし会館 砂楽」。浴衣に着替えたら、目の前にある砂浜へゴー。ごろんと横になった上からやさしく砂をかけられる。程よい熱さと砂による圧迫が、心拍を適度に上げ、10分もしないうちに汗がぶわぁ〜。砂から脱出後は、海岸を吹き抜ける風も心地良く、スッキリサッパリ。温泉もセットになっているので、再びスッキリ。こ、これは癖になる。
それにしても充実しすぎた2泊3日だった。帰りの電車では、夕陽に染まる鹿児島湾を眺めながら、すでに次のバックパック旅計画を考えていた。こんどは日本最北のJR駅を目指すなんてのも楽しいかもしれない。
10:00 昭和世代にはタマらん!UMAイッシーを求めて……
訪れた2月上旬はちょうど菜の花の季節。池田湖越しの開聞岳も美しい。イッシーという未確認生物が目撃されたことでも有名。
池田湖へは開聞駅近くのバス停から。持参した折りたたみ椅子がバス待ちでも活躍中。
ご当地カフェ発見!!
鹿児島発の「ダンケンコーヒー」。美味しいコーヒーとホットサンド、スイーツなどを楽しめる人気スポットだ。
15:00 砂浜を掘ればアラ不思議!ほっかほかの砂むし温泉
砂むし会館 砂楽
住所:鹿児島県指宿市湯の浜5-25-18
電話:0993(23)3900
営業時間:8:30〜20:30
定休日:年中無休
波打ち際での体験は天候の良い大潮の干潮時で、砂の状態が良いときのみ可能。全天候型も隣接しているので、条件が合わないときはそちらで体験できる。
今回利用した指宿枕崎線。車窓からは菜の花畑や海岸なども見え、約2時間の列車旅も退屈しない。
ローカル鉄道旅DATA
◦行き先 開聞岳、池田湖、指宿温泉など◦旅程 2泊3日
◦アクセス 羽田空港から鹿児島空港まで約2時間。その後、鹿児島中央駅から開聞駅まで約2時間。
◦キャンプ地 かいもん山麓ふれあい公園
◦予算 航空券代のほかにかかったのは、電車・バス・タクシーの運賃、キャンプ場、食費など合わせて約2万円。
※構成/櫻井 卓 撮影/小倉雄一郎
(BE-PAL 2023年4月号より)