なかなか解決の道筋が見えない荒廃竹林問題。ボランティア頼みの整備も限界に来ている。竹林にもう一度経済価値を! 切り札として浮上したアイデアがあの食材のメンマだ。純国産メンマプロジェクト代表の日高榮治さんに話を聞いた。
長さ2mの幼竹も、節を切り取れば柔らかくておいしいメンマになります。ただ蹴とばして折るのはもったいない
本州以南の各地で問題になっているのが荒廃竹林問題だ。かつて人家の裏山に植えられていた竹は、筍や生活素材として利用されなくなったことから放置され、今では周辺農地や山林を飲み込む勢いになっている。
増えすぎた竹は台風や大雪が直撃すると道路や鉄道、電線に倒れかかり、社会生活まで寸断する。勢いづくと空き家なども数年のうちに覆い尽くしてしまう。暗く見通しが利かない竹林が増えるのを喜んでいるのは、不法投棄の場所を探している不心得者とイノシシくらいだ。
荒れた竹林を整備する活動には補助金も投入されているが、主に作業を担っているのは地域のボランティア。高齢化がさらに進むこの先、善意だのみの取り組みだけで竹林はコントロールし続けられるのだろうか。
皮付き筍が売れなくなっている。手間を厭う時代のカギは加工品
コミュニティービジネスの視点から、この荒廃竹林問題の解決を模索してきたのが、純国産メンマプロジェクト代表の日高榮治さん(76歳)だ。
──メンマとは、ラーメンにのっているあのメンマですよね。
「そうです。ただ、ラーメンでおなじみのメンマは99%が輸入品で、原料も中国南部や台湾に生えているマチクという種類です。この筍は生のうちは独特のにおいがあります。それを加熱し、発酵・塩蔵することで食べやすい状態にしたものがメンマです。ラーメン屋さんは、それを塩抜きし、それぞれのレシピに沿って味付けしています。
私たちが開発を始めたメンマはモウソウチクを中心にマダケやハチクも原料にしますが、筍ではなく、もう少し大きくなった長さ1.5~2mの幼竹で作っているのが特徴です」
──メンマを作り始めたきっかけはなんですか。
「ご存じのように、竹林の荒廃が全国的な問題になっています。私が住むこの糸島も同様です。昔は筍がよいお金になりました。青竹も竹竿やカゴなどの編み物に盛んに使われていましたが、どちらも昭和40年代ごろを境に利用されなくなっていきます。
昭和38年から筍の輸入が始まりました。筍相場は一気に下がり、竹林を持っている農家の意欲が薄れました。このころから合成樹脂などの化学素材が普及し始め、竹材の需要も急減していきます。昔はこの糸島あたりには竹屋が10軒くらいあり、うちの親戚もその1軒でしたが、廃業が相次ぎました。それに追い打ちをかけたのが高齢過疎化です」
──日高さんが竹林の問題を意識するようになったのはいつぐらいからですか。
「会社を53歳で早期定年退職し、故郷の糸島へ帰ってきたのが55歳のときでした。今から20年ちょっと前ですね。すでに竹林は荒れていました。地域活動の一環で仲間とコミュニティービジネスの研究を始めたとき、大きな課題のひとつとして挙がったのがこの竹の問題でした。
最初は粉砕機でチップやパウダーにして肥料にしていました。竹は糖やたんぱく質を豊富に含むので栄養価が高く、発酵しやすいんですよ。でも、農業資材はすでに世の中にたくさん出回っています。似たような成分を持つ安い商品と比較されるので、いくら良質でも欲しい値段をつけにくい。次に注目したのが竹ぬか床でした」
──ぬか漬けのぬかの代わりに竹パウダーを使うのですか?
「はい。すごくおいしいぬか漬けができます。竹パウダーは水を吸っても米ぬかのようにべたつきません。保水性が高いので、通気状態が維持されるのです。
竹ぬか床用の竹パウダーは好評で今も売れ行きはよいのですが、年間4〜5tほどの竹の活用にしかなりません。竹はとても硬いので、機械にかけて粉にする際もエネルギーをたくさん使います。もうひとつの課題は、生えている竹の一部をなんとかしているにすぎないということでした。つまり伐って運び出す片づけ作業の延長なのです。
竹は毎年地面から生えてきます。この入り口もコントロールし、ちゃんと経済にも結びつく方法にしなければ竹林整備は継続できないと感じました」
──筍の段階でなんとかするということですか。
「じつはそれもまた難しくて。日本の筍の流通量は現在約20万t。そのうち90%が輸入品です。数年前までは25万tありましたが、みるみる減っています。理由は人口減少のせいもありますが、自分で茹でてあく抜きまでして食べる人が減っていることも関係しています。
筍を茹でるには大きな鍋が必要ですし、ごみとして出る皮も大量。若い人はなかなかやりたがりません。私たちも時期にはあちこちに筍をおすそ分けするのですが、喜んでもらえるのは最初の1本くらいですよ。出盛りになると、茹でたものならもらってもいいけれど…といわれてしまいます(笑)」
──直売所でも、今は茹でたもののほうが売れるそうですね。
「手間をかけることをなにかと厭う時代になってしまいました。筍の市場価格がいちばん高いのは京都です。ほかの産地は京都より早く出荷しようと促成栽培などに力を入れていますが、皮付き筍自体の消費離れが起きているわけです。有名産地でもない普通の地域では、いくら筍の販売に力を入れても竹林問題解決の有効な決め手にならないと思いました」
──それで、筍より大きくなった幼竹に目をつけたと。
「筍はいちいち掘らんといかんでしょう。重労働なんです。利用の目的は竹の増加を抑えることなので、なるべく手間はかけたくない。竹林整備でよくやるのは、1~2mに伸びた幼竹のときに蹴とばしたり、へし折ったりする方法です。土から掘るのは大変ですが、地上に出て伸びたものを倒すのは簡単です。
一方、マダケやハチクは、どの地域でも地上から40〜50㎝伸びたところで採取して食べてきました。けれども、モウソウチクは必ず地面に出る前の若いものを掘る。違いはなんだろうと調べてみたんですがわからない。誰に聞いても、昔からそういうものだという。
調べていくうち、モウソウチクの新竹の先端だけを集め、穂先筍という名で利用している地域があることも知りました。伸びあがっても食べられないわけではなかったことがわかりました。
自分たちで食べてみてわかったのは、モウソウチクはマダケやハチクより節が硬くなるのが早いことです。すぐに硬くなるので、土の中にあるうちに掘らないと食べられない。
でも、硬いのは節だけなんです。地上に1mくらい伸びあがった幼竹も、節を取り除き、残った筒状の部分を茹でて塩漬けすれば、食べられることに気づいたのです。さくさく歯切れが良く、苦みもありません」
──大発見ですね。
「じゃあ、どれくらいの長さまで食べられるのか実験をしてみました。最初は1mで収穫したのですが、もっと歯ごたえがあってもよいという意見が出て1.5mにしました。だいぶしっかりした食感になりましたが、小籠包や餃子の具など刻んで使う場合はもう少し歯ごたえが求められるというので、基準を2mまで伸ばしてみました。
地上寄り20㎝と、身の入りが少ない穂先から20㎝のところ、そして節を切り落とすと、全部食べられることがわかりました。上のほうは柔らかく、下へ行くほど厚く歯ごたえがあります。部位ごとに用途を変えればさまざまな商品展開も可能です」
──興味深い事実ですが、にわかには信じがたいですね。
「理解してもらうまで苦労しました。メンマへの活用を一緒にやりたいという人が現われても、現場から電話がかかってくるんです。竹林整備をしているまわりのおじさんたち全員から、そんなものが食べられるわけがないと笑われたが、ほんとうに買い取ってくれるのかと」