──歩留まりはどうですか。
「筍は1本あたり約1㎏。幼竹だと使える部分が1.6mほど、10㎏くらいの重さになります。ざっと10倍になるわけです。長野県の天竜川流域で活動している私たちの仲間は、去年800㎏の幼竹を収穫しました。味付けメンマの加工は委託ですが、全量売りきって400万円の売り上げがあったそうです。
ただ蹴とばしていた幼竹が、ひと手間かけるとこれだけのお金に変わるわけです。筍産地でも、旬が過ぎると調整のため伸びたものは竹になる前に折って捨てています。今年はもう100本へし折ったなんて豪語している人もいますが、なんともったいないことだと思いますね。蹴とばせば折れるほどですから、女性や高齢者でも楽に収穫ができます」
──ポイントは味付けメンマにまで加工するということですか。
「付加価値をいかに高めるかを考えると、それがベストです。パック商品に加工すれば年間を通して販売できます。実際、直売所ではよく売れています。自分であまり料理をしない時代ならではのニーズにも合致しているんだろうなと思います」
──幼竹で作られた国産メンマを、ラーメン屋さんなどはどう見ていますか。
「使っている店はけっこう増えています。大手中華チェーン店でも国産メンマに切り替えているところがあります。どのお店も自分のところの特徴を出したいと思っているので、注目度自体は非常にあります。
日本には毎年約3万tのメンマが輸入されており、ほとんどはラーメン需要。それがすべて国産になればすごい市場が生まれます(笑)。少しずつ認知されてきたとは感じていますが、勝負はこれからです。九州あたりのちょっとしたラーメンチェーン店でも、年間25tのメンマを使うそうです。逆にいうと25tを安定して納入できなければ取引はできないということなんですよ」
──ネックは供給体制ですか。
「糸島の生産量は去年で40tでした。今年は倍増が目標です。東京で開かれたラーメン産業展で“来年は100tを目指しています”と発表したら、ようやく引き合いが来はじめました」
社会を良くするアイデアだからノウハウは囲い込まずに公開
──収穫から加工、販売までノウハウを公開しています。もったいないと思いませんか。
「純国産メンマはまったく新しい商品です。マーケットを広げるには、自分たちで囲い込むよりもみんなで取り組むほうがいいと考えています。
もうひとつの理由は、荒廃竹林問題は全国規模の社会問題だから。少しでも管理のモチベーションを高めるにはノウハウの共有が大事だと思っています。
純国産メンマプロジェクトには、35府県61団体が参加しています。これは公式の数字で、実際は200近い活動組織とつながっています。持ち回りで純国産メンマサミットも開催しています。昨年の淡路島では300人もの参加者がありました。
これだけの広がりになっているのは、情報をオープンにしているからだと思います。今後も新しく得た知見はどんどん公表していくつもりです」
誰でもカンタン、おいしくできる塩漬けメンマの作り方
マチクを原料とする輸入メンマは発酵食品のイメージが強い。モウソウチクなどの幼竹を使う純国産メンマづくりも当初は発酵法式を試みたが、紆余曲折を経て今は塩蔵だけの処理に。現在推奨しているのは、茹でた幼竹を熱いうちに対30%の塩で桶に漬け込む方法だ。
ポイントは茹であがった幼竹を塩に漬けるまで40度C以下に冷やさないこと。塩分濃度や作業時の温度が低いと、雑菌が増えて幼竹を変質させてしまう可能性が高い。前述の環境なら微生物が付着していても活動することができない。茹で時間は幼竹の部位で異なる。穂先に近い柔らかい部分はそのまま節を残し30分。それより下は、節の部分を切り落として60分。蓋付き容器に塩とともに入れたあとは……(下の写真に続く)
❶重石をかけ、冷暗所で保管する。塩分濃度が高いと1日のうちに水が容器内に上がるので変色や変質も防げる。使うときは取り出し
❷流水で完全に塩を抜いてから調理する。火力乾燥機があれば、塩漬けしたものをさらに干してもよい。部位ごとに食感が異なり、穂先メンマ
❸は柔らかいうえに姿がよいのでラーメンのトッピングをはじめさまざまな料理に展開が可能。根元寄りの厚くやや硬い部位はスライスして角切りにすると歯ごたえの良い中華素材になる。
日高榮治流 竹林整備を持続させる3つの秘策
1 やりがいの持ち出しにならないよう経済に結びつける努力を
竹林はもともとお金を生んだ場所。経済問題を棚上げしたままの復元整備は続かない。脱ボランティアを目指していこう。
2 筍という食材を、家庭の中にもう一度取り戻そう
消費者の筍離れも竹林が荒廃した要因。皮付き筍の魅力をもう一度社会に伝えないと、メンマの認知度も上がらない。
3 最後の製品加工は無添加にこだわりたい
荒廃竹林の幼竹はオーガニック食材。メンマとしての活用にはエシカルな物語性もある。なので味付けなどもなるべく無添加で。
※構成/鹿熊 勤 撮影/藤田修平 写真提供/純国産メンマプロジェクト
(BE-PAL 2023年4月号より)