山の自然を愛し、登山道を整備することで環境保全に貢献するトレイルランナーたちがいる。
草が伸びて藪になっていたり、足元がぬかるんでいたり、倒木で通過するのも困難だったりして不便で危険だった登山道が次に訪れた時にはしっかり整備され、快適に利用できる道になっていたなど、誰しも一度はそんな経験があるのではないだろうか。
今回は、あれからもトレイルワークス(登山道の整備活動)として奥多摩の山に通い続けていた「トレイルの守りびと」たちが、山の環境保全のために奥多摩の国立公園内で初めて挑戦した活動についてご紹介したい。
登山道って誰が整備しているの?遊びっぱなしにしない、トレイルの守りびと(2021年6月掲載)
ぼくらトレイルランナーが自然との共生のために
「トレイルの守りびと」とは、山を愛する仲間たちがトレイルランニング大会を通じて、登山道を整備するという大切なことを教わり、自分達が歩き走り回っている登山道に何か恩返しがしたいと考え、登山道を守る活動をおこなっている人たちのことだ。
今回ご紹介する「トレイルの守りびと」は日本山岳耐久レース実行委員会のメンバー8名。彼らが山奥に向かった理由は、秩父多摩甲斐国立公園内の登山道整備に着手する許可がいよいよ東京都から下りたからだ。
2022年に強く降る雨の中で開催されたトレイルランニング大会「日本山岳耐久レース(ハセツネCup)」の開催により奥多摩の登山道にダメージを残したことがとても気になり「ぼくらトレイルランナーが自然との共生のために何ができるのか」と考え、活動の場所と賛同する仲間の輪を以前より更に拡げていた。
しかし国立公園内での規模の大きな作業は自然公園法により厳しく制限されており安易に出来るものではない、これには所轄する官公庁との打合せや許可が必要になるので、これまでは今回のような作業を避けていた経緯があった。しかし何度か話し合いを続けるうちに遂に実現することとなった。
目標は約30段の木柵階段を設置すること
2022年暮れも押し迫るころに彼らが目指したのは、東京・御前山(1,405m)でおこなう約30段の木柵階段の設置。長い年月をかけて雨水や踏圧により侵食された土壌を復活させ、場所によっては侵食により50センチ以上の段差がある登山道を、子供やシニアも安心して通過できるルートに改善することが目的だ。
作業に使用する材料は地権者の許可をとっているため登山道の周辺から調達。階段のステップ部に使用する丸太は直径20センチ以上、長さは1,5メートル以上ありとても重い。これらを切り出し運び出すだけでも重労働。数人掛かりで斜面を移動させ、所定の位置に設置。路床のかさ上げ資材として多量の枝を集めて敷き詰め、仕上げに土を被せる。
整備費用はトレイルランニング大会の予算から充てられ、関係者の協力を得ながら2ヶ月間に渡り計画を進めてきた。そして、数十キロに及ぶ重い機材を背負い、2時間ほど登山道を歩いて往復しながら、2日間の作業を経て木柵階段を完成させた。
国立公園の環境保全活動に今後も期待
このようなボランティア団体によるトレイル整備の活動は、秩父多摩甲斐国立公園の奥多摩エリア内では初めての取り組みとなったとのこと。東京都環境局の職員や東京都レンジャーも視察に訪れ、トレイルランナーたちの環境保全への取り組みに期待を寄せたという。
参加者の一人、松本さんは「登山道脇の植生回復に多少なりとも役立つこの活動が、何年かして実感できることを楽しみにしている」と語った。ここに集まったトレイルランナーたちは「トレイルの守りびと」として、今後も自然との共生のために活動を続けていく決意を新たにしたに違いない。
登山道は自然を愛する人々が整備している、遊びっぱなしにせず、トレイルの守りびととして、今後も自然の魅力を維持しながら利用できる道として、誰でも環境保全に貢献することができるだろう。