雨がうっとおしいいまの時季、無理せず読書を楽しもう。編集部が推す2冊をご紹介!
BOOK 01
『酔いどれクライマー 永田東一郎物語 80年代 ある東大生の輝き』
憎めない先輩の型破り人生痛快なノンフィクション!
藤原章生著
山と溪谷社
¥1,980
永田東一郎。名前を聞いてもまったくピンとこない。しかし、登山の歴史をつぶさに繙けば、「幻の滝」ドウドウセン大滝(谷川連峰の赤谷川にある)の全容を初めて明らかにした東大生として、K7初登頂のリーダーとして登場する。それでも一般的には無名のクライマー、無冠の将とでもいおうか。だが本書は、永田氏の登山家としての顔よりも人間性に迫った人生劇場だ。
著者は永田氏の高校山岳部の後輩。社会人になってからも交流は続いたが、新聞記者として海外赴任する著者とは疎遠になってしまう。拠点を日本に戻したころ、久しぶりに会った友人から永田氏が病気で亡くなっていたことを知らされる。死後12年も経っていた──。
誰しも型破りな先輩や友人がひとりは思い浮かぶはず。著者にとっては忘れられない先輩が強烈な個性を放っていた永田東一郎だ。
どんな生い立ちだったのか、なぜ山をぱったりやめてしまったのか。空白の時間を埋めるように早生した亡き先輩の姿を追う。しぐさや口調、立ち姿まで、憎めない人間・永田東一郎が著者の筆致によって浮かび上がってくる。読み手にとっては見ず知らずのクライマーだがその人生を視点に、人格形成につながる’70年代末から’80年代という昭和真っ直中の世相も描かれる。
BOOK 02
『哺乳類のフィールドサイン 観察ガイド 増補改訂版』
足跡や糞を頼りに探偵気分で動物探し
熊谷さとし著
安田 守写真
文一総合出版
¥2、200
12年振りに改訂された本書は、身近なフィールドに残る野生動物たちの痕跡「フィールドサイン」を読み解くガイドブック。足跡、糞、巣、食べ跡といったものから探偵のように持ち主を探る。キツネ、タヌキ、ツキノワグマ、カモシカ、ヌートリア……一体何者なのか?
本書では前足後ろ足や巣など貴重な写真が豊富に掲載されている。例えば排泄物。人間ならば隠したいものだが、見てくれといわんばかりの場所に糞を見かけることがある。あれは彼らの存在主張でもあるという。たとえ姿がなくとも痕跡から推理し、暮らしぶりを想像するのは楽しい。さっそく見つけに出かけてみては。
BOOK 03
『村の社会学――日本の伝統的な人づきあいに学ぶ』
村社会は古くさい? 村の知恵が今を救う
鳥越皓之著
ちくま書房
¥902
田舎移住を考えたときに浮かぶのは地域のコミュニティーに溶け込めるかという心配。本書はいわゆる村社会を総合的に捉え、自然環境や風土とともに育まれた人づきあいや村の成り立ちを探る。「村」という響きには排他的で個より全を重んじる空気感などマイナスな印象が強い。だが村コミュニティーの実際は各人が“つとめ”を果たし、子供を育み、弱者を助ける知恵の宝庫だと著者はいう。それは日本社会が抱える問題の解決策では? 未来を切り開くヒントは村にあるかも。
BOOK 04
『あのとき僕は シェルパ斉藤の青春記』
シェルパになる前、斉藤少年の青い春
斉藤政喜著
しなのき書房
¥1、650
本誌ビーパルで30年以上に亘り執筆を続ける著者の青春時代を綴ったエッセイ。長野で過ごした少年期から始まり、中学、高校、浪人、大学と“シェルパ斉藤”になるまでと、その後の半生を振り返る。当時の若者みんながそうだったように著者もフォークソングや映画、ギターに熱中。下駄を履いた硬派なバンカラだったというから、ちょっと想像がつかない(スミマセン!)。そして、高校3年の冬、大きな転機が訪れることになる──。今年62歳になる著者の青春が眩しい。
※構成/須藤ナオミ
(BE-PAL 2023年5月号より)