横浜市泉区・戸塚区を拠点に生態調査や里山保全活動を行なっている“ご近所生きもの観察案内人”の相川健志さん。今回は、多様な種類がいる「ヤゴ」について案内します。
身近な水辺に暮らす「ヤンマの子」
庭にスイレン鉢などを置いてメダカを飼っていて、いつの間にかメダカがいなくなってしまったことがありませんか。もしかすると、ギンヤンマなどのヤゴの仕業かもしれません。
ヤゴはトンボの幼虫です。トンボのことを一般に「ヤンマ」ともいいます。「ヤンマの子」が縮まって「ヤゴ」と呼ばれるようになったともいわれています。
多くのトンボは、秋から冬にかけて水辺に卵を生みます。そして、春になると卵からヤゴがかえり、活動をスタートさせます。ヤゴは肉食で、ミミズやミジンコをはじめ、上記のメダカやオタマジャクシなども食べます。
そんなヤゴが暮らすのは、身近な水辺。田んぼや川、公園の池や学校のプールなど、さまざまな場所で目にすることができます。
では、どんなトンボのヤゴが、どんな環境でくらしているか見ていきましょう。
田んぼ、水路、谷戸のせせらぎ、ため池に暮らす仲間
こうした場所にいるのは、比較的ポピュラーなトンボのヤゴです。
ギンヤンマのヤゴ
水草のはえる池などの止水域にいます。伸縮する顎が特徴で、魚の稚魚なども捕らえて食べます。ちなみに、我が家の池に入ってきてメダカを全部食べたのがギンヤンマのヤゴでした。
オオシオカラトンボのヤゴ
オオシオカラトンボは林縁部などの薄暗い場所、シオカラトンボは日の当たる明るい場所を好み、棲み分けをしています。田んぼやそれにつながる泥底の浅い流れの緩い水路などにいます。
ハグロトンボのヤゴ
長い尻尾のような鰓(外鰓)が3枚あるのが特徴。流れのある岸際の植物、流れに覆い被さって水につかっている植物にしがみついています。ハグロトンボのヤゴは羽化するとしばらく林内などの薄暗い場所で過ごし、また川沿いへ戻ってきます。
イトトンボの仲間
日本には20数種類のイトトンボの仲間がいて、池や沼、田んぼなどの湿地に生息しています。
下の写真のクロイトトンボ属のヤゴは、外鰓の3つの黒点が特徴です。
オニヤンマの仲間
日本最大級のトンボであるオニヤンマ。そのヤゴも立派な体格を誇ります。オニヤンマのヤゴは、小川の砂の中に潜っています。成虫になるまで2~3年かかります。
なお、オニヤンマもヤンマも同じトンボですが、仲間ではありません。オニヤンマ科のトンボは左右の複眼が1点だけで接しているのに対し、ヤンマ科のトンボは左右の複眼がしっかりと接しています。他にも、体の大きさなどに違いがあります。
オニヤンマと同様、大型のヤマサナエ。そのヤゴは、体が細かい毛に覆われ、サナエトンボの仲間に特徴的な触角をしています。
開放的な大きな池、流れの緩やかな比較的大きな河川などの深場にいるヤゴ
こうした場所に暮らすのは、ウチワヤンマやタイワンウチワヤンマ、オオヤマトンボのヤゴです。なかなか観ることができないヤゴですが、羽化が近づくと、岸際によってくるのでその時期を狙うと観察できます。
なお、コオニヤンマもウチワヤンマ(タイワンウチワヤンマ)もヤンマとつきますが、ヤンマの仲間ではなく、サナエトンボの仲間です。
ウチワヤンマのヤゴ
特徴的な触角の形をしているウチワヤンマのヤゴ。その名の通り、成虫は尾の方がうちわのように広がっています。
タイワンウチワヤンマ
ウチワヤンマのヤゴと比べると、扁平で幅が広く短いです。
オオヤマトンボ
ギザギザの顎で獲物を捕らえるオオヤマトンボのヤゴ。その顔はエイリアンのような怖さ!?
ムカシトンボ
山間部の渓流域にすむムカシトンボ。成虫になるまで5~8年かかります。
擬態や擬死が上手なヤゴ
コオニヤンマのヤゴは、体が平たく、落ち葉の中などに潜って擬態しています。
一方、コシボソヤンマのヤゴは、体を反らしてじっと死んだふりをします。
トンボだけどトンボじゃない!
名前にトンボと付きますが、ヘビトンボ、ツノトンボはトンボではありません。ヘビトンボはヘビトンボ亜目ヘビトンボ科、ツノトンボは脈翅目ツノトンボ科の昆虫です。
ヘビトンボの仲間は幼虫も成虫も肉食で、噛まれるとけっこう痛いです。ヤマトクロスジヘビトンボの幼虫は、林縁の薄暗いせせらぎ、その際など、湿った場所の石や倒木の下などにいます。
ツノトンボ仲間の成虫には長い触角があります。
駆け足で紹介しましたが、ヤゴといっても多士済々な顔ぶれがいるのをお分かりいただけたでしょうか。身近な水辺などでヤゴやその成虫(トンボ)の姿を探してみてください。