著述家、編集者、写真家・山本高樹のタイ辛旨縦断紀行②
無数の寺院が今も残るかつての王都、チェンマイ
チェンラーイでの数日間にわたる取材を終えた僕は、バスで180キロほど南下し、チェンマイの街にやってきました。ラーンナー・タイ王国の都として栄えた歴史を持つこの街は、国内外から大勢の観光客が訪れる、タイでも随一の人気を誇る街でした。
ただ、2020年から始まったコロナ禍の影響で、チェンマイの観光産業は、チェンラーイ以上に深刻なダメージを受けていたようです。以前から何度も取材に訪れていたレストランやカフェ、ショップ、ホテルやゲストハウスなどのうち、かなりの物件が廃業してしまっていました。それだけ観光産業への依存度が高かったということなのでしょう。僕も少し切ない気分になりながら、街を日々歩き回りました。
チェンマイの街には、なんと100を超える数の大小の寺院があるそうで、確かに歩いていると、常に視界のどこかしらには、寺院の尖塔や屋根の姿が入ってきます。個人的に好きなのは、旧市街の中心部にある、ワット・パンタオという寺院。ほどよい大きさのお堂の佇まいも良い感じですが、中に祀られている金色の仏像も荘厳で落ち着きのあるお姿で、その前に坐って、ずっと眺めていたい気分になります。
チェンマイの行きつけの店で、朝ごはん
チェンマイに滞在する時は、旧市街の東にあるターペー門の近くにいつも宿を取ります。取材に出かける際に都合のいい位置にあるのと、食事や買い物をすぐ近くですませられるので、便利なのです(とにかく毎日の取材がハードなので、それ以外のことではできるだけ力をセーブしたくて……)。朝ごはんは、時間がない時は前の日にセブンイレブンで買っておいたパンとジュースですませることもありますが、少し余裕のある時は、ターペー門から南に10分ほど歩いたところにある、なじみの食堂に行きます。
コレアン・ボートヌードルという名のこの店は、朝の7時頃にはもう営業していて、店の端に置かれた小舟の上にしつられられた調理場で、店主のおじさんが黙々と麺をゆでています。朝の光が差し込む中、立ち昇る湯気を前に腕をふるうおじさんの姿をぼんやり眺めていると、自分の注文した麺が運ばれてきます。
看板メニューのボートヌードル(クイッティアオ・ルア)は、豚もしくは牛の血を混ぜて作ったコクのあるほんのりピリ辛のスープ(ナムトック)に、ゆでた米麺と、薄切り肉やつみれが入っています。朝ごはんにさっとすすると、身体が温まって、今日も何とか取材を頑張ろう、という力が湧いてくる気がします。
困った時には、パッタイを選べば間違いなし
チェンマイでの取材中は、朝から夕方までずっと出歩いていて、徒歩やレンタサイクルでひたすらあちこちを巡ります。途中、どこかでおひるごはんを食べるにも、ここらへんで食べとくか、と適当なタイミングで店を決めることが多いのですが、どこで食べてもそんなに外さないタイ料理といえば、パッタイではないかと。米麺と卵と具材を甘じょっぱい味付けで炒めたこの料理に、今まで何度助けてもらったことか……。この日食べたパッタイは、肉や魚介は使われておらず、炒めた麺を薄焼き卵でくるんだ、ちょっと小洒落たパッタイでした。
チェンマイでの取材の日々は、まだもう少し続きます。
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取材協力:
『地球の歩き方タイ 2024〜2025』
(地球の歩き方 2023年6月8日発売)