火星を目印にしてかに座とプレセペ星団を見つけよう
先月半ば、ふたご座のポルックス&カストル兄弟にランデブーしていた火星は、その後すぐにかに座の領域に入りました。6月初頭には、かにの甲羅の中にいます。
ちなみに、かに座は一番明るい星が4等星と明るい星座ではありません。かにの形も地味かもしれません。しかし、小さな四角形をしているので、空が暗いとき、ふたご座としし座の間に目を凝らせば見つかるかもしれない星座です。
かに座の四角の中には、プレセペ星団という有名な星団があります。「M44」とも呼ばれます。プレセペ星団もさほど明るくなく、街明かりの中では見つけにくいです。とはいえ、火星が来訪する6月2日と3日は、かに座とプレセペ星団を見つけるいいチャンスなのです。
プレセペ星団を見るのにおすすめなのは双眼鏡です。星団を囲む甲羅の星も視野に入り、その中で火星が輝く様子が見られるでしょう。
ただし、この時期は薄明終了が20時半過ぎと遅く、その頃にはかに座は西の低空に下がってしまいます。さらに、満月も近いため、見える星の数はかなり少ないと予想されます。
低倍率の望遠鏡なら火星とプレセペ星団の中心部が同じ視野に入るでしょう。双眼鏡では見えないような、星団の暗い星がとらえられます。ふだんは見つけにくい星団ですが、火星を目印にすれば確実に視野に入れられるでしょう。
かに座は黄道12星座ですが、1等星を有するふたご座としし座の間に挟まれて、存在感が薄いのは否めません。また、プレセペ星団の星たちは6等星以下の星ばかりなので、おうし座のプレアデス星団(すばる)と比べられると、やはりどうしても目立ちません。
ボヤッとしたプレセペ星団が天文学の学生には有名な理由
とはいえ、プレセペ星団は天文界では紀元前から知られた歴史ある、かつ重要な星団です。種類としては、プレアデス星団と同じ散開星団です。
散開星団とは、同じ時期に誕生した星々が集まっているところです。
恒星は宇宙のガスが集まったところから生まれますが、それは1つだけポツンと生まれるのではなく、いくつもまとまって生まれます。その星たちが自身の明るさや太陽風のような力でガスを吹き払うことで星々が見えてくるのです。プレアデス星団は写真だと周りが青くぼんやりとしていますが、それはガスがまだ残っているからです。
プレセペ星団から生まれた星は、同時に生まれたことがわかっています。同じ星団から生まれても、生まれたときの重さによって寿命の長さや明るさ、色などが違ってきます。一方、星が1か所に固まっているため、地球からの距離は全て同じと見なせます。
同じガスから生まれた星たちが、その後どのように進化していくのか。大きさによって光度や寿命はどのように変わるのかなどを調べるのに、プレセペ星団の星たちはちょうどいいサンプルになります。そのためか、プレセペ星団は大学の初等あたりの教科書にもよく出てくる印象があります。星を学ぶ人たちの間では存在感のある大事な星団です。
プレセペ星団は、紀元前にラテン地域の一部で「飼い葉桶」と呼ばれていたこともあります。飼い葉桶って何のことかおわかりですか?ロバのエサにする藁などが入った桶のことです。プレセペ星団を挟んで南北にある2つの星を、飼い葉を食べるロバに見立てたようです。暗い場所に行った際には、かに座の中にロバを探してみてください。
古代中国では、もっと不吉な呼び方をされていました。かに座が象る四角は、「死者の魂」を意味する「鬼」(き)あるいは「鬼宿」(きしゅく)と呼ばれていました。ボヤッとしたところが死者の体を離れた魂を想起させたようです。
地味だけど謎多きところがかに座の魅力
では、なぜ今はかに座なのでしょうか。ギリシア神話が生まれるより前の古代メソポタミアの時代から、かに座はありました。
ギリシア神話の中には、勇者ヘルクレスを退治しようと襲いかかったうみへびに、かにが応援に駆けつけるというエピソードがあります。しかし、かにはハサミを振りかざす間もなく、ヘルクレスに踏み潰されてしまったのです。どうやら、かにはうみへびの友だちだったようです。うみへび座も古代メソポタミア時代から「へび」として認められていた星座です。ふたりは旧友なのかもしれません……。
このようにかに座は黄道12星座であり、古来注目されてきたプレセペ星団を宿しているにもかかわらず、どうも由来はよくわからず、謎です。もしかしたらそこがかに座のいいところなのかもしれません。
もうひとつ、かに座の話題を。もうすぐ夏至がやってきます。
夏至の日の太陽の通り道を「北回帰線」といいますが、英語ではTropic of Cancerと言います。Tropicはここから転じて「熱帯の」という意味もありますが、本来は「回転する」「向きを変える」を意味するギリシア語に由来します。Cancerがかに座です。
夏至になると、それまで黄道上をじりじりと天の北極に向かって進んでいた太陽が、向きを変えて天の南極へ進むようになります。このような太陽の「転向」が起こる夏至点が、2,3千年前は、かに座の中にありました。現在、夏至の日の太陽はふたご座の足の先あたりですが、それでも北回帰線はTropic of Cancerと呼ばれています。
ふだんあまり目立たないかに座ですが、火星が接近する6月はプレセペ星団といっしょに見つけるチャンスです。どうぞお楽しみください!
構成/佐藤恵菜