5月20-21日、豊かな自然に恵まれ、30年以上、環境教育のネットワークづくりに取り組んできた清里を舞台に今年も「清里オーガニックキャンプ」が開催された。
オーガニックというと食のイメージが強いが、”本質的”という意味もあるそう。ワークショップ特化型イベントとうたうだけあり、会場には楽しく参加できて、暮らしに役立つワークショップが30以上用意されていた。
2023年のテーマは竹
2回目となる今年は、「地球と遊ぶ、くらしと遊ぶ」がテーマで清里育ちの竹で会場を装飾。
すさまじい生命力と競争力で全国各地の放置竹林による”竹害”が問題となっているが、一方で、竹は日本の文化に根ざし、日本人の暮らしを支えてきた植物でもある。
会場では清里育ちの竹を使ったプログラムを用意しており、あらためて日々の暮らしに役立つ頼もしい素材だと知らせた。
「my七味作りと清里の竹で作る七味入れ」(竹おかん)
千葉在住の手仕事好きユニット「竹おかん」のおふたりのワークショップは、薬研でゴリゴリ挽いた薬味をブレンドする七味作りと、竹の七味入れ作り。
竹筒に小さな穴をあけ、クロモジの蓋と竹ひごの栓を作って七味入れに。本体となる竹筒や竹ひごはあらかじめ用意しておいてくれるので、それにあわせて栓や蓋を削るのがメイン。
わずかに楕円となっている竹やクロモジの断面をよく見てあわせ、乾いて縮むことを考えながら少しずつ削っていく。クロモジと青竹を削るたびに漂う香りに癒やされる。
生薬などを挽いたりすりつぶしたりする伝統器具、薬研を使って乾燥させた薬味を細かくすりつぶす。
腕だけでなく、少し腰を浮かして体重をかけるようにゴリゴリ。
唐辛子1:クロモジ1:胡麻1をベースに加えていくが、だんだん味と香りの方向性がわからなくなってくるので、竹おかんに味見してもらいながら仕上げていった。
できたオリジナル七味を竹の七味入れに入れて持ちかえるわけだが、竹の七味入れは決して完全に密閉しているわけではないし、しばらくの間は竹の水分により湿気やすい。それでも挽き立ての七味は鮮烈で、しばらくの間はほんのり竹の香りがする。市販の七味とは違った自分好みのまろやかな辛みもたまらない。
「狩猟の世界を体験しよう」というワークショップで竹おかんが手に入れた軍鶏を蒸し焼きにして、七味とともに味わうという試食会も。
清冽な七味の香りが、軍鶏の淡泊ながらしっかりした味わいを引き立てていることがよくわかった。
「コーヒードリッパー、ミラクル野の花かご、星のオーナメント」(竹音/ハチタケ舎)
ハチタケ舎(八ヶ岳竹細工部)と竹音(たけのね)は、竹を細く割り、薄くはいだ竹ひごを使ったクラフトを用意。
ハチタケ舎によるワークショップはキャンプサイトを彩るオーナメントと花かご作り。
星のオーナメントはどこか北欧風。クリスマスに向けて少しずつ作りためるといいかも。7本の竹ひごで作る花かごは野の草花がよく似合う。
神奈川をベースに竹細工ワークショップを行う「竹音」を主宰する戸崎さんに教えてもらいながらコーヒードリッパー作りに挑戦。
6本の竹を放射状にまとめた12本の柱を軸に、2本の細くて長い竹ひご交互に通していく。一番底になる数段は竹が暴れやすく、テクニックが必要なので戸崎さんが整え、型を外したところから編み進める。単純な作業だけれど余計な力が入ると形が崩れてしまうし、ぴっちり詰めないとグスグスになる。そのさじ加減が難しい。
柱となる竹を2枚にはいで太目の竹を挟みこむように内側に折る。内側に折った竹は、横方向に伸びる細い竹の間を通していくが、もたもたしていると竹が乾いて割れたり折れたりする。それに指先で引っ張るので結構大変。
最後に飛び出した竹ひごやズレを整えてもらって完成だ。
技術が必要なところはすべて手伝ってくれるので、初めての竹クラフトでもそれなりのものを作れた。
もしやコーヒードリッパーを浅くして、シェラカップや小型クッカーに入るザルを作れるのでは?と相談したところ、竹カゴは浅いほど技術が必要だし、より細い竹ひごが必要なのだとか。竹細工はそう甘くはない。
「morinocoナイフでオリジナル竹とんぼづくり」(谷口吾郎with morinocoナイフプロジェクト)
岐阜で森や木に関わる生き方を目指す人の専門学校「森林文化アカデミー」と関市が共同開発した子ども向けナイフ「morinocoナイフ」を使って竹とんぼつくり。
地元である岐阜から持ってきた竹を削って遊ぶ。八ヶ岳の竹ではないけれど、作り方を知ればどこでだって工夫しながら遊び道具を作れるのだ。
自然の恵みを利用するワークショップ
八ヶ岳山麓をはじめとする里山で手に入る恵みは竹だけではない。もみの木やシカ、野菜など幅広いし、こうした豊かな自然を用いて活動する商店もそろっている。
「シカ角を切って作るアイテムワークショップ」(しかつの屋from 罠シェアリング協会)
狩猟クラフト工房「しかつの屋」は、シカの角を切ったり穴をあけたりしてオリジナルアイテムを作るワークショップを開催。
シカ角クラフトにはまり、2日連続で参加した少年。2日目となる日曜は、ちょっぴりレベルアップ。インストラクターの首にかかっていたシカ笛を作ることにしたそう。
角を切ったら中心に穴をあけ、その穴と垂直にも穴をあける。
電動ドリルを使うが、大人が補助するので落ち着いて作業すれば子どもでも安全に扱える。削りかすが穴の中にたまらない抜き方、なぜ笛が鳴るのかを教えてもらいながら作業が進むのも興味深い。
最後にツノの中でくるっと回って空気が出るよう、吹き口に細いリードのような板を差し込む。いい音が出るまで板の厚みを整える。
試行錯誤の末、完成したシカツノ笛。ピーッという音色が響いたときの感激はひとしお。
「森の癒やしと恵みを暮らしへ〜モミのある生活」(公益財団法人キープ協会環境教育事業部)
清里開拓の父と称されるポール・ラッシュによって創設された「公益財団法人キープ協会」は、モミやヒノキなどを使ったエアフレッシュナー作りを提案。
香りの効果を教わり、作ったエアフレッシュナーは持ち帰りOK。時間とともに香りが変わるのも楽しい。
「最高の森を飲んで体感」(e-sic with QINO SODA)
爽やかな香りを放ち、近年は精油としても使われているクロモジだけど、精油を取り出す際にうまれる大量の精製水が使われないまま廃棄されているそう。
石川・金沢の学生団体「e-sic」は地元のスパークリングソーダ「QINO SODA」をPR。白山のクロモジから生まれた蒸留水と伏流水から作られており、クロモジらしい爽やかでどこか柑橘の香りが広がる。森遊びのあとやサウナ後にぴったりで、森の循環にも関与できるというわけ。
「モーラナイフ クラフト工房&焚火カフェ・クッキング教室」(長野修平 with UPI)
モーラナイフのアンバサダー、長野修平さんは昨年に続き、ナイフと火をテーマにしたワークショップを開催。
夕食は代名詞でもある焚き火ベーコンを使った北欧風料理を焚き火で調理していく。小ぶりだけど特製ベーコンを1塊丸ごと使える贅沢なワークショップだ。
ミートボールと清里で採れた野菜たちを、北欧生まれ「ダーラム」の脚付きグリドルでじっくりグリル。ベーコンは火にかける前に細かく刻んでミートボールに混ぜ込んでも、ベーコンでミートボールを挟んで食べてもどちらでもよし。
焼き上がったミートボールには、本場のリンゴンベリーソースの代わりに、ブルーベリーやラズベリーなど4種のベリーを火にかけた甘酸っぱいソースをたっぷりかけて食べる。
その隣では白樺を自由に切って、好きな道具に仕上げるグリーンウッドワークのワークショップが開かれていた。
モーラナイフのカービングナイフやアックスをはじめ、長野さん秘蔵のハンドドリルやノコギリも使用OK。道具の選び方や使い方のコツはもちろん、作りたいモノを伝えれば木の特製とともに削り方のヒントも教えてくれる。
自宅では削りかすが飛び散るし、音が気になって取り組みにくいグリーンウッドワークだが、キャンプ場なら気兼ねなく作業できるのがいい。
ほかではできない大物作り
大がかりな工具が必要なクラフトは、やってみたくてもその世界に飛び込むには勇気がいる。ワークショップでその世界の入り口を体験すれば、続けられるかどうかわかるかも。
「熱した鉄を叩いて作る!鍛冶体験ワークショップ」(koki Blacksmith)
職人の指導のもと、鍛冶体験。
頭をくるっとまわした鉄製ペグやねじねじ鉄製S字フック、鉄板に刻印するネームタグ、ステンレスの表面に模様をつけるマシュマロスティックの4つから選べる、土曜だけのスペシャルなプログラムだ。
この日、参加者がトライしていたのはS字フック作り。
熱々の炭火に入れてはたたいたり、ねじったりして仕上げていく。なかなか高レベルな作業が続くが、できたフックは世界でひとつだけのモノ。
「手づくりの家入門」(竹内友一)
北杜市在住、長野さんの知人でもあるタイニーハウスビルダー・竹内さんは、軽トラと廃材を持ち込みみんなで小屋作り。
軽トラの荷台に枠が作られていて、参加者みんなでどんな風に壁や屋根を作るか考えながら板やトタンを打ち付けていく。
窓を残してどう板を貼るか、屋根は縦に板が伸びるのか、横方向に貼るのか。そんなことを相談しあいながら少しずつ形になっていく。
夜は雲に覆われ、「星見里の会」による星空観察は思うようにできなかったが、風もなく日中は穏やかに晴れ渡った2日間。
ちょっと気取った感のある”オーガニック”という言葉だが、イベントは自由で大人も子どもも本気で遊ぶ姿が印象的だった。
それに会場で楽しんで終わりというものではなく、ワークショップで得た知恵と作品は日々の暮らしに役立つものばかり。
最近は日用品から食材、キャンプ道具までなんでも数百円で手に入るが、竹を削るのも、木を割る、鉄を叩くのも大変な作業だし技術が必要だ。
「清里オーガニックキャンプ」の多彩なワークショップはちょっと手こずるものもあるけれど、遊びながらその価値を実感できる。暮らしの本質に触れる「清里オーガニックキャンプ」、次回の開催も楽しみにしたい。
【問】清里オーガニックキャンプ2023 https://camp.hi-life.jp
フリーランスのライター、編集者。主なテーマはアウトドア、旅行で、ときどきキャンピングカーや料理の記事を書いています。https://twitter.com/utahiro7