海に潜って初めてわかる、生き物たちの美しい姿と生態。それを写真で誰にでも知らしめてくれるのが、水中カメラマンです。堀口和重さんは2022年12月、オランダのネイチャーフォトコンテスト「Nature Photographer Of The Year 2022」で水中部門グランプリを受賞した、その道のトップランナー。今回は幻の深海魚といわれる、リュウグウノツカイとの邂逅をお届けします。
水中カメラマン堀口和重の「美しき海の世界」第11回 鹿児島にリュウグノツカイが出現
南さつま・大当海岸
前回、掲載した大隅半島・佐多町を離れ、次の撮影地へ向かいました。
今回の撮影地は鹿児島県・薩摩半島側の南さつまにある大当海岸です。
東シナ海に面している南さつまの海は、以前に紹介した錦江湾や佐多とは、また違う雰囲気の海です。大当海岸には形状が少し変わっているシコロサンゴの仲間がとても多く、地元の人たちには有名な場所です。
この大当海岸のシコロサンゴの群生は国内最大級の面積を誇ります。
夜の海のイベント「ホーリーナイト」
大当海岸は今の時期、生き物たちの繁殖行動も面白いのですが、こちらは次の記事で紹介したいと思います。
今回、大当海岸に訪れた目的は水中撮影のほかに、イベントの開催でした。
5月の中旬から下旬になると、太平洋側を流れている黒潮が本州側に接近してきます。
すると黒潮の支流が南さつまの大当海岸に近寄ってくるのです。
黒潮の支流が大当海岸に近寄ってくると、外洋で生活する珍しいプランクトン達との遭遇率が確率が上がるのです。
夜にライトを海中に設置すると、光に誘き寄せられた集光性のあるプランクトンが集まります。
その集まってきたプランクトンを撮影してもらうイベントを毎年3月・5月・10月の合計3回、ダイビングショップさんの協力の元、開催しています。
ちなみにイベントの名前はホーリーナイト。私の名前(堀口)とかけています(笑)
プレイベントで深海魚出現!
イベントの前日は毎回、下見も兼ねて撮影をしています。
下見をしたその日は、海中の透視度がとてもよく、黒潮の支流が大当海岸に入ってきているのだと、日中からわかりました。
日が暮れてから1時間後にライトを海中に設置して30分が経過すると、ライトの周りには変わった生き物が続々と登場します。
次から次に現れるプランクトンを撮影していると、ライトに近寄る生き物がいました。
最初は棒のような物で何かわかりませんでしたが、近くでよーく確認すると、なんとリュウグウノツカイの幼魚だったのです。
以前にも石垣島の撮影記事で、1センチくらいのリュウグウノツカイを紹介しました。
水中カメラマン堀口和重が行く!八重山諸島で捉えた、マンタとプランクトン
大当海岸で登場したリュウグノツカイの全長は約7センチ前後でした。石垣島で撮影した個体よりも大きかったのです。
撮影しているとリュウグウノツカイは水面付近へとゆっくり上昇して行き、姿を消しました。
大当でリュウグノツカイの幼魚が海中で見られたのは初のようなので、とても嬉しい出会いでした。
不思議な生物たちの魅力
ホーリーナイトのイベント中には、リュウグウノツカイ以外にも珍しい生き物や不思議な生物がたくさん登場しました。出会った生き物たちをご紹介していきます。
多かったのは、外洋に生息するアカイカの仲間。イカの目の感度はとても良く近くにいるアミの仲間をうまくキャッチしていました。
地球の生き物には見えないような変わった姿をしているのは、フィロゾーマ幼生というウチワエビの仲間の幼生です。
クラゲライダーという通称名で呼ばれ、アマクサクラゲに乗って移動しています。
オキナガレエビ。プランクトンとして流されながら生活しているエビの仲間です。撮影した個体は腹部に卵を抱えています。
種類がわからないテナガタコ科の仲間もライトに寄ってきました。
通常タコは水底にいる生き物なのですが、なぜか中層に浮いていました。
ただひとつ残念なことは、イベントの本番にリュウグウノツカイが現れなかったことです。それでもイベントに参加していただいた方々には沢山のプランクトンを撮影していただけました。ホーリーナイトのイベントは鹿児島以外でも全国で何箇所か開催しているので、変わった生き物が撮影できたら、また紹介して行く予定です。
次回も引き続き、鹿児島で撮影した生き物達を紹介して行きたいと思います。
今回までの撮影径路
START→伊豆(大瀬崎)→沖縄(石垣島・黒島・竹富島)→伊豆(赤沢)→山口(青海島)→千葉(波左間)→山口(青海島)→鹿児島(沖永良部)→鹿児島(桜島)→伊豆→鹿児島県(南大隅町・南さつま)
撮影協力:ダイビングショップSB