自転車で広がるアウトドアの楽しみにはどんなものがあるだろう。美しい景色と出会いに感動し、なによりも自力で行くという行為そのものへの達成感……。誰もが挑戦できて、喜びもひとしおの自転車を使った冒険について、自転車で世界を旅した経験をもつ旅行作家の石田ゆうすけ氏が語る。
最も手軽にできる“大冒険”
さあ、自転車の季節だ!
寒くもなく暑くもない、ペダルを漕ぐのにぴったりの季節。
最も手軽にできる“大冒険”じゃないかなと思う。だって、自分の力と、自分の意思で、見知らぬ世界を、自由にぐんぐんと進んでいくのだから。
“大冒険”が大げさだと思うなら、自宅から走りだしてみるといい。5㎞でも10㎞でも構わない。ただし、自分の生活圏から一歩外に出ること。するとそこから先は、“別世界”になる。ペダルを回すごとに見知らぬ世界が広がり、大海原に乗り出すような気持ちになれる。
自転車をたたんで電車や飛行機で運び、現地で組み立てて走る“輪行”もいい。駅や空港を出て走り始めると、いきなり別世界だ。自分が住む街とは明らかににおいが違う。全身を外にさらして移動する自転車だから、空気の違いを敏感に嗅ぎ取れる。新緑がしたたり、野の花が咲き乱れる今の時季、あるいは紅葉の時季など、季節が変わるときは、空気のにおいも濃くなり、大自然のダイナミックな移り変わりを全身で感じるだろう。
おまけに銀輪旅は出会いだらけなのだ。荷を着けた自転車は人の興味を引くらしい。「どこから来たの?」から簡単に会話が始まる。
さらにはきわめて運動効率のいい乗り物だから、恐ろしく腹が減り、メシが異様にウマくなる。運動していることを口実に罪悪感なくたらふく食べられる。ああ、なんという幸せだろう!
そう、あらゆるものから解放してくれる究極の旅マシーン。体を使って、ひたすら前進し、風を感じて、流れる景色を堪能し、激ウマめしを好きなだけかっくらい、自由を謳歌する。そんな“大冒険”に、さあ飛び出そう!
旅行作家/エッセイスト 石田ゆうすけ
※撮影/三浦孝明
(BE-PAL 2023年6月号より)