「草木を友にすればさびしいひまもない」といった植物学者・牧野富太郎。植物観察の魅力のひとつは、この言葉のとおりどこでも楽しめること。
初心者が植物と遊ぶコツを、草遊び上級者に聞いてみました!
教えてくれた人
のんさん
「365日野草生活」をキャッチフレーズに活動する野草愛好家。多摩川をフィールドにして年に数十回の観察会を催行。ツイッター@365nitiyasouで発信中。
きうちともゆきさん
大学で植物を学んで以来、観察をライフワークに。「よく似てるけどちょっと違う植物」を見極めるのが好き。ツイッター@Qty828で観察ガイドを頒布中。
面白そうな草をを五感で感じ取って覚える!
「植物を近所で楽しむコツが知りたい……。しかも、あんまり難しくない感じで……!」
そんなカジハラのわがままに応えてくれたのは、東京周辺で観察会を行なう2人の植物愛好家。のんさんときうちさんだ。
カ:何をどうしたら植物を楽しめるかもわからない初心者なんですけど、こんな私でも観察ってできるものでしょうか……?
き:できるよ! 本州でよく見られる植物を網羅したハンディ図鑑と、ちょっと詳しい図鑑の2種があれば、都市近郊の草木はだいたい調べられます。私のおすすめの図鑑は……。
の:待った〜! 私は名前を最初に覚えるよりも、先に草木と遊んだほうがいいと思ってます。名前を調べて写真を撮ると、みんなそれで満足しちゃう。そして、すぐに忘れちゃうから。
き・カ:確かに!
の:だから、まずは面白そうな草木を見つけて五感で感じ取る。自分で勝手に名前をつけたりする。そのうちに、ほかの植物からお近づきになった草花が浮かび上がるようになります。
き:「この草知ってる!」となったら、今度こそ図鑑の出番。多くの図鑑は、巻頭のパートで葉の付き方や花の咲く順番などの見分け方のポイントや用語の解説をしています。それを知ってから草木を見ると、まるで違って見えますよ!
Idea 1
フィールドは全地球! 草木があればどこでもOK
公園
草原
林
き「草木にネームプレートの付けられた公園は図鑑で調べやすいし、林や河川敷の草原は調べ尽くせない遊び場に。最初はあちこち出かけるより自分のフィールドを持つことをおすすめします」
Idea 2
「ご当地図鑑」で観察デビュー!
の「私が最初の1冊におすすめするのは、そのフィールドに生えているものだけを紹介したご当地図鑑。市町村や公園がつくった図鑑は、掲載種が絞られていて調べやすいです」
多摩川の草を100種紹介した『多摩川の草と友だちになろう』。イラストで典型的な姿を見せる。
Idea 3
「網羅図鑑」で見つけ「詳細図鑑」で迫る
き「都市近郊は外来種や園芸種が入り交じり、在来種を中心にした図鑑では見当さえつかないことも。掲載種数が多くて花の時期や色から名前を調べられる図鑑で名前を知り、より詳しい図鑑で再度調べるとお目当ての草に迫りやすいです」
きうちさんが、「ひとまず名前を知るならコレ!」と推すのは『新 散歩の花図鑑623種』(岩槻秀明/新星出版社)。「名前がわかったらコレ」。『山に咲く花』『野に咲く花』(門田裕一、永田芳男、畔上能力、林弥栄、平野隆久/山と溪谷社)
外来&園芸種も載ってるといい
「写真で検索できるGoogleレンズはまだ精度が低い。過信せず見当をつける程度にとどめ図鑑を引きたい」
Idea 4
特徴は触って体でつかむ
カジハラ、茎の断面が四角形のカキドオシにびっくり!
の「毒草もあるから、なんでも触ってとはいえないけれど、触れられるのが現場の良さ。色形や感触が伴うと、名前も覚えやすくなりますよ!」
アカメガシワ
の「芽が赤いこの木はアカメガシワ。体を表わす名前の草木は結構多い」。この赤みは表面についた粒子の色で、こすると取れる。
常緑樹
落葉樹
き「みんな葉がある夏は落葉樹か常緑樹か見分けにくい。そんなときは葉を触ると、常緑樹は厚く、落葉樹は薄い傾向が!」
ノイバラ
の「感触の記憶は強く残る。なかでもチクチクの印象は強烈。園芸バラの原種のノイバラ、触って確かめてみて」
Idea 5
花があったらじ~っくり見る
の「花は植物を見分ける大きな手がかり。小さな花でもルーペで見れば、構造がよく見える。近縁種との共通点を見つけられたら、同定もしやすくなりますよ」
風媒花
の「一見、実のようにも見えるこれは満開のヘラオオバコの花。花びらを持たない花は、風で花粉を飛ばす風媒花が多い」
虫媒花
の「小さくても花びらのある花は、虫に花粉を運んでもらう虫媒花。よく見ると花の構造に虫に花粉をつける工夫あり!」
Idea 6
目立つ草花から覚える
き「野山を歩いていると色形が変わった植物が目につく。『目立つヤツ』を最初に覚えると、今度は『目立つヤツに似たヤツ』にも目がいくようになります!」
カジハラが牧野植物園で出会ったユキモチソウ。テンナンショウ属の美麗種。
「ユキモチソウに似てるけど不気味」とカジハラが驚いた同属のウラシマソウ。
Idea 7
草花遊びで生態をチェック
の「牧野博士が名づけたオオイヌノフグリ。ふたつ並ぶ実を犬のふぐり(睾丸)に見たてたとか。この花には、雄しべの花粉が雌しべについた瞬間、花が外れる性質が。ぜひ試してみて!」
オオイヌノフグリ
↓
Idea 8
「少しの違い」をしつこく見る
き「一見同じに見えるこれらの木、何が違うかわかる? この2本はコナラとミズナラ。よく見ると、葉柄(葉と枝をつなぐ部位)の長さが異なる。しつこく見れば違いに気づくはず!」
コナラ
ミズナラ
Idea 9
においを嗅いで覚える
き「む! この辺り、爽やかなにおいがするのに気づいた? これは柑橘の仲間のコクサギ。こうしてにおいで木の存在を知ることもある。こっちのキャラメルっぽいのはカツラ。木にもにおいがあるんです」
Idea 10
食べられる草にも挑戦
の「『食べる』は強い動機になるから食べられる草から覚えるのもいい。でも、食べられる草に似た毒草もあるし、よく知られた山菜でも、アレルギーが出ることも。最初は詳しい人と歩くといいですね」
ハマダイコン
イタドリ
イタドリは、日本各地で食べられてきた野草。地域によってはお店で売られることも。
ノビル
漢字で書けば野蒜。「蒜」はネギ類の古語で、つまり野原のネギの意。さっとゆがいて酢味噌で美味しい。
ハルジオン
の「ハルジオンの花芽を湯通しして味噌で和えると、フキ味噌のような風味に。キク科の香りもあって美味!」
Idea 11
「形のルール」で見極める
カラムシ(右)、ヤブマオ(左)
の「近縁なカラムシとヤブマオ。姿形はそっくりだけど、全然違うところが……答えは葉の出方! ヤブマオは同じ場所から葉を出す対生、カラムシは互い違いに葉を出す互生。種ごとにルールがあるんです」
カラムシとヤブマオは表皮の繊維が衣類に使われた。少々の力では切れない!
※構成/藤原祥弘 撮影/矢島慎一
(BE-PAL 2023年6月号より)