今日飲むビールがCO2削減に寄与するビールだとしたら。ひと味違ったビールタイムが楽しめるかもしれない。
パタゴニアが発売する「ロング・ルート」は、そんなうれしいクラフトビールだ。
パタゴニアが造るラガーとは?
パタゴニアは、故郷である地球を救うためにスタートした食品コレクション「パタゴニア プロビジョンズ」から、2016年のペールエールを皮切りに、ウィット(ベルジャンホワイト)、IPA、ヘイジーIPAとリリースしてきた。今回、第5弾にして初のラガータイプだ。
ラガーといえば、世界中でもっとも愛され、飲まれているビール。日本の大手メーカーが生産する多くもこのスタイルだ。
スッキリした飲み口と喉ごしで私たちにも馴染み深い。そのラガーの中にもいくつかタイプがあり、「ロング・ルート・ラガー」はドイツ・ミュンヘン地方発祥の明るい色をした「ヘレス」というスタイルだ。アルコール度は4.2%と低めで、爽快に飲めるところは、まさに夏向き。
長〜い根の原材料カーンザが環境負荷軽減のカギ
特徴は原材料にある。ビールの主原料は麦(大麦や小麦)。これに加えてパタゴニアのビールにはカーンザという新種の穀物が使用されている。
耳慣れない植物名だろう。小麦の仲間の一種で、長い根を持つ多年生だ。環境負荷を減らす穀物として、40年ほど前から研究、開発されてきた。
大麦や小麦は一年生であるため、毎年、畑を耕して作付けする必要がある。この耕す=耕起という作業が、実は畑にとってあまりいいことではないらしい。耕起は言い換えれば表土を傷つけているに等しいからだ。現代農業における大麦や小麦は農薬や肥料も大量に要する。
その点、カーンザは多年生。一度作付けすれば、毎年耕す必要はない。栽培コストが大幅に減らせる上、従来の小麦ほど生長に水を必要としない。さらに、大気中の炭素を小麦より多く吸収できるという。
最大で地中3.6メートルまで伸びる長い根は、収穫後にも残って炭素を土に封じ込める。また、分解した後は地中の微生物たちの栄養になる。カーンザの栽培は環境負荷を下げるだけでなく、長期的に土壌の健康の維持にも寄与すると見込まれる。
カーンザの栽培品種化は、パタゴニアがパートナーシップを結ぶアメリカ・カンザス州のランド・インスティテュートで研究、開発されてきた。現在、アメリカの国内外で生産面積を増やし、生産量を高めている。
これで「ロング・ルート」はペールエール、ウィット、IPA、ヘイジーIPA、ラガーと代表的なスタイルがそろった。定番のペールエールの他、最近のクラフトビール界と同じくヘイジーIPAの人気が高いという。
ビール以外の活用は?カーンザのこれから
ところで今後、カーンザはビール以外にどのように活用されていくのだろうか。
パタゴニア プロビジョンズの大野由紀恵さんは、「小麦とはひと味違う、カーンザのスパイシーな風味が楽しめます」と話す。
ビールに関しては、原材料のカーンザを日本に輸入して醸造したほうが環境負荷は抑えられるが、国内では有機で造れるブルワリーはまだ限られるという。
ビールにも炭酸ガスが溶け込んでいて、飲めば身体に取り込むわけだが、その原料になる穀物の根が土中の炭素を取り込んでいる……様子を想像しながらロング・ルートをゆるゆる飲んでみましょうか。