サンライズ・サンセット・ツーリンング・ラリー、略してSSTRにゲスト出演してもらいたいと、冒険ライダーの風間深志さんに頼まれた。
SSTRは風間さんが発案したオートバイのイベントで、参加者は各自が定めた東海岸のスタート地点から日の出以降に愛車を走らせて、能登半島の千里浜をめざす。全国各地から独自のルートを決めてスタートしたライダーたちが、長い1日の終わりに夕陽が沈む千里浜に集結する感動的なイベントである(詳しくはこちらのサイトhttps://sstr.jp/)。
最初の年は130台、2年目は503台、3年目は903台と倍々に参加台数が増え、11年目となる2023年は1万2000台ものオートバイが参加するという。これまでは週末のイベントだったが、ゴールの集中を避ける意味でも今年は5月20日から28日まで分散して開催。その期間、毎日ゲストを招いてトークショーを開く企画を立てたそうで、23日火曜日の夕方に千里浜へ来てくれないか、とのことだった。
僕は二つ返事で引き受けた。どうせならゲスト出演するだけでなく、SSTRに参加したい。
僕は50ccのスーパーカブに乗るライダーでもある。最小排気量のオートバイで完走したいし、驚異の低燃費を誇るスーパーカブなら1万2000台中、最もガソリンを消費せずに完走を果たしたライダーにもなれると思う。
片道約280kmの道のりをスーパーカブで走る
僕がスタート地点に定めた場所は、長良川の河口近くにある伊勢湾台風殉難の碑だ。そこは千里浜までの距離が最短の東海岸であるだけでなく、長良川の河口堰にも近い。ちょうど1年前に野田さんを追悼する長良川のカヌーツーリングをしていて、そのときのゴールが長良川の河口堰である(「折りたたみ式カヌーを担いで長良川へ!優雅な大人の2泊3日リバーツーリング」)。1年前の旅を継続することにもなるのだ。
そしてスタート地点が定まったことで新たな目標を立てた。伊勢湾台風殉難の碑から千里浜までの距離は約280km。うまくいけば無給油で完走できるかもしれない。
わがスーパーカブのタンク容量はわずか3.4リットルしかないが、リッター83kmを超えれば、無給油でゴールできる。
SSTRで最長走行距離は1,000kmを超えるが、3.4リットルの無給油完走もそれに匹敵する名誉な記録になると思う。
スーパーカブが注目を浴びた本当の理由
参加者は事務局から送られるゼッケンのステッカーをオートバイの前と両側に貼る必要がある。そのステッカーは遠目にもわかりやすく、同じステッカーを貼った仲間と連帯感も生まれる。僕もルールに従って事務局から送られてきたゼッケンをスーパーカブに貼って参加したが、道の駅で出会ったSSTRの参加者たちに「すごいですね」と驚かれた。
50ccでの参加を讃えているのかと思いきや、そうではなかった。彼らのオートバイに貼られたゼッケンの番号は黒なのに、僕のゼッケンは赤なのだ。
赤数字はSSTRに10年連続で参加したライダーのみに配られる「栄光の赤ゼッケン」とのこと(全参加者の0.5%程度しかいない希少なゼッケンだと、ゴール後に知った)。
事務局がゲスト出演者に気を利かせて赤ゼッケンを用意してくれたのだろうが、それをスーパーカブにつけている僕をSSTRの超ベテランライダーだと思い込んだらしい。
「いえ、じつは初参加です」と弁明したが、道の駅などでSSTRライダーと出会うたびに羨望と好奇の視線を浴び、こそばゆい気分を味わった。
オリジナルのエコチャレンジを駆使して千里浜へ!
無給油完走のために燃費を向上させようと、スーパーカブのアクセルはあまり開かずにスローなエコランに徹した。
それ以外にも、前方の信号が赤の場合は信号で止まらずに済むように手前からアクセルを緩めて惰性で走って、青になるタイミングに合わせる。赤信号に引っかかった場合は、キーを回してエンジンを切り、青信号に合わせてエンジンをかけ、発進の瞬間はアクセルを開きつつ両足で地面を後方に蹴って走り出す。セルフ式のアイドリングストップと、人力のハイブリッド走行も駆使したオリジナルのエコチャレンジを試みた。
その結末は……、BE-PAL8月号の『シェルパ斉藤の旅の自由型』を読んでもらいたい。
天気に恵まれたおかげで、夕陽が海原を照らす千里浜に到着することができて、感動のゴールを味わった。
そしてゴール直後に風間さんと特設ステージに立ってSSTR初参加の感想を語った。
オートバイの旅の記憶、そしてライダーたちと過ごした夜
翌日の午前中も、千里浜のSSTRカフェでミニトークを開催した。
地球を歩いて旅するバックパッカーの僕だけど、旅の原点はオートバイにある。大学を休学してオーストラリアをオートバイで旅した話やスーパーカブで全国の巡礼地を巡った話など、オートバイに関する旅を語った。
午後から夕方にかけては次々とゴールするSSTRライダーをゲートで迎え、そのあと宿泊予定のゲストハウスへ向かった。
能登半島の七尾市にオープンした「ゲストハウスきち」である。女性が広島で開業していたゲストハウスだったが、結婚を機に能登半島へ移住し、古民家をリノベーションして新生「ゲストハウスきち」を4日前にオープンさせた。
オーナーの浅川夫婦はふたりともライダーだ。SSTRの開催に合わせてオープンしたそうで、この日の宿泊者は僕を含めて5人全員がSSTRの参加者だった。
広い和室が食堂兼談話室になっている。浅川夫妻も加わってみんなで飲み語らい、オートバイ談義や旅の話に花が咲いた。
自由度の高いSSTRならではの出会い
「ゲストハウスきち」に泊まった翌日、僕はSSTRをスタートさせた桑名市に向かってスーパーカブを走らせた。八ヶ岳山麓の自宅からスーパーカブを運んだ軽商用車のホンダ/N-VANを桑名市内の駐車場にとめたままなのだ(駐車場予約サイトで見つけた1日300円の空き地である)。
SSTRでは琵琶湖経由で海沿いの国道8号を走ったが、帰路は内陸部のルートを選んだ。富山県の高岡市から国道156号に入って、世界遺産に登録されている合掌造り集落の五箇山や白川郷を通るルートである。
SSTRは連日開催されているため、白川郷の道の駅では多くのSSTRライダーと出会ったが、そのひとりにオートバイ好き芸人であるノッチがいた。
彼も僕と同じくSSTRのゲスト出演者である。SSTRはどの道を走るか、自己判断で自由にルートを決められることにもおもしろさがあるが、前日のゲストと当日のゲストが道の駅でばったり会うのは、レアなケースといえるだろう。
時刻は午後3時。ここから千里浜までは下道でほぼ100km。スーパーカブの僕なら日没に間に合わないかもしれないが、大型バイクで高速道路を走れるライダーなら余裕である。
大型バイクで走り去るノッチたちを見送ったあと、彼らと反対方向へ向けてスーパーカブをゆっくり走らせた。