旅の原点はオートバイだった! シェルパ斉藤、ラリーで能登をめざす
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    2023.07.06

    旅の原点はオートバイだった! シェルパ斉藤、ラリーで能登をめざす

    サンライズ・サンセット・ツーリンング・ラリー、略してSSTRにゲスト出演してもらいたいと、冒険ライダーの風間深志さんに頼まれた。

    SSTRは風間さんが発案したオートバイのイベントで、参加者は各自が定めた東海岸のスタート地点から日の出以降に愛車を走らせて、能登半島の千里浜をめざす。全国各地から独自のルートを決めてスタートしたライダーたちが、長い1日の終わりに夕陽が沈む千里浜に集結する感動的なイベントである(詳しくはこちらのサイトhttps://sstr.jp/)。

    最初の年は130台、2年目は503台、3年目は903台と倍々に参加台数が増え、11年目となる2023年は1万2000台ものオートバイが参加するという。これまでは週末のイベントだったが、ゴールの集中を避ける意味でも今年は520日から28日まで分散して開催。その期間、毎日ゲストを招いてトークショーを開く企画を立てたそうで、23日火曜日の夕方に千里浜へ来てくれないか、とのことだった。

    僕は二つ返事で引き受けた。どうせならゲスト出演するだけでなく、SSTRに参加したい。

    僕は50ccのスーパーカブに乗るライダーでもある。最小排気量のオートバイで完走したいし、驚異の低燃費を誇るスーパーカブなら1万2000台中、最もガソリンを消費せずに完走を果たしたライダーにもなれると思う。

    片道約280kmの道のりをスーパーカブで走る

    わが愛車は2008年にスーパーカブ誕生50周年を記念して発売された、その名も『50周年スペシャル』。特別カラーのグラファイトブラックと、50YEARを記したゴールドのエンブレムがプチ自慢になっている。

    僕がスタート地点に定めた場所は、長良川の河口近くにある伊勢湾台風殉難の碑だ。そこは千里浜までの距離が最短の東海岸であるだけでなく、長良川の河口堰にも近い。ちょうど1年前に野田さんを追悼する長良川のカヌーツーリングをしていて、そのときのゴールが長良川の河口堰である(「折りたたみ式カヌーを担いで長良川へ!優雅な大人の2泊3日リバーツーリング」)。1年前の旅を継続することにもなるのだ。

    そしてスタート地点が定まったことで新たな目標を立てた。伊勢湾台風殉難の碑から千里浜までの距離は約280km。うまくいけば無給油で完走できるかもしれない。

    わがスーパーカブのタンク容量はわずか3.4リットルしかないが、リッター83kmを超えれば、無給油でゴールできる。

    SSTRで最長走行距離は1,000kmを超えるが、3.4リットルの無給油完走もそれに匹敵する名誉な記録になると思う。

    スーパーカブが注目を浴びた本当の理由

    スタート地点に選んだ伊勢湾台風殉難の碑。日の出とともにスタートするSSTRライダーが多いそうだが、前夜の雨が残っていたため、僕は5時半にスタートした。

    参加者は事務局から送られるゼッケンのステッカーをオートバイの前と両側に貼る必要がある。そのステッカーは遠目にもわかりやすく、同じステッカーを貼った仲間と連帯感も生まれる。僕もルールに従って事務局から送られてきたゼッケンをスーパーカブに貼って参加したが、道の駅で出会ったSSTRの参加者たちに「すごいですね」と驚かれた。

    50ccでの参加を讃えているのかと思いきや、そうではなかった。彼らのオートバイに貼られたゼッケンの番号は黒なのに、僕のゼッケンは赤なのだ。

    赤数字はSSTR10年連続で参加したライダーのみに配られる「栄光の赤ゼッケン」とのこと(全参加者の0.5%程度しかいない希少なゼッケンだと、ゴール後に知った)。

    事務局がゲスト出演者に気を利かせて赤ゼッケンを用意してくれたのだろうが、それをスーパーカブにつけている僕をSSTRの超ベテランライダーだと思い込んだらしい。

    「いえ、じつは初参加です」と弁明したが、道の駅などでSSTRライダーと出会うたびに羨望と好奇の視線を浴び、こそばゆい気分を味わった。

    このステッカーが「栄光の赤ゼッケン」だ。スーパーカブの前方には貼れるスペースがないので、黒いアクリル板をカットして、ネジ留めした。

    オリジナルのエコチャレンジを駆使して千里浜へ!

    道の駅や高速道路のPAやSAに立ち寄って「立ち寄りポイント」を15ポイント以上獲得することと、SSTR運営委員会が選出した各都道府県の「指定道の駅」に立ち寄ることも完走の条件。道の駅が2ポイント、「指定道の駅」が3ポイント加算されるので、高速道路を走らない僕の場合は道の駅に6か所、「指定道の駅」に1か所立ち寄れば完走条件をクリアできる

    無給油完走のために燃費を向上させようと、スーパーカブのアクセルはあまり開かずにスローなエコランに徹した。

    それ以外にも、前方の信号が赤の場合は信号で止まらずに済むように手前からアクセルを緩めて惰性で走って、青になるタイミングに合わせる。赤信号に引っかかった場合は、キーを回してエンジンを切り、青信号に合わせてエンジンをかけ、発進の瞬間はアクセルを開きつつ両足で地面を後方に蹴って走り出す。セルフ式のアイドリングストップと、人力のハイブリッド走行も駆使したオリジナルのエコチャレンジを試みた。

    その結末は……、BE-PAL8月号の『シェルパ斉藤の旅の自由型』を読んでもらいたい。

    天気に恵まれたおかげで、夕陽が海原を照らす千里浜に到着することができて、感動のゴールを味わった。

    そしてゴール直後に風間さんと特設ステージに立ってSSTR初参加の感想を語った。

    クルマやオートバイが走行できるなぎさドライブウエイを駆ける。気分はダカールラリーのライダーだ。(写真提供/SSTR運営委員会)

    日没前にフィニッシュゲートをくぐってゴールすることができた。わがスーパーカブを誇らしく思う。

    ゴール直後、特設ステージで風間さんとトークショー。SSTRの魅力とともに、スーパーカブでも楽しめることを日没まで語った。(写真提供/SSTR運営委員会)

    SSTRの参加者はスタートの報告や道の駅などの立ち寄り報告をスマホで送らねばならない。スマホを持っていない僕は特例として、各ポイントの風景を撮影した画像をゴール後に見せるアナログ方式で容認してもらい、完走のバッジをゲットした。

    オートバイの旅の記憶、そしてライダーたちと過ごした夜

    翌日の午前中も、千里浜のSSTRカフェでミニトークを開催した。

    地球を歩いて旅するバックパッカーの僕だけど、旅の原点はオートバイにある。大学を休学してオーストラリアをオートバイで旅した話やスーパーカブで全国の巡礼地を巡った話など、オートバイに関する旅を語った。

    オーストラリアをオートバイで旅したときの写真。その後、歩く旅に夢中になるなんて思いもしなかった23歳の青い春。

    西国33か所や九州88か所、北海道88か所霊場など、スーパーカブで日本全国の巡礼地を旅した。このときのスーパーカブはインジェクションではなく、キャブレターだった。

    午後から夕方にかけては次々とゴールするSSTRライダーをゲートで迎え、そのあと宿泊予定のゲストハウスへ向かった。

    能登半島の七尾市にオープンした「ゲストハウスきち」である。女性が広島で開業していたゲストハウスだったが、結婚を機に能登半島へ移住し、古民家をリノベーションして新生「ゲストハウスきち」を4日前にオープンさせた。

    オーナーの浅川夫婦はふたりともライダーだ。SSTRの開催に合わせてオープンしたそうで、この日の宿泊者は僕を含めて5人全員がSSTRの参加者だった。

    広い和室が食堂兼談話室になっている。浅川夫妻も加わってみんなで飲み語らい、オートバイ談義や旅の話に花が咲いた。

    中央でピースサインをしている女性が宿主の浅川まゆみさん。左端に立つ男性が夫の英輔さん。「きち」はみんなの基地であり、吉が舞い込む宿にしたいからとのこと。能登半島を旅するライダーに愛される宿になっていくはずだ。

    寝室も2段ベッドではなく、畳の部屋。談話室兼食堂も和室で寛げる。

    自由度の高いSSTRならではの出会い

    「ゲストハウスきち」に泊まった翌日、僕はSSTRをスタートさせた桑名市に向かってスーパーカブを走らせた。八ヶ岳山麓の自宅からスーパーカブを運んだ軽商用車のホンダ/N-VANを桑名市内の駐車場にとめたままなのだ(駐車場予約サイトで見つけた1300円の空き地である)。

    SSTRでは琵琶湖経由で海沿いの国道8号を走ったが、帰路は内陸部のルートを選んだ。富山県の高岡市から国道156号に入って、世界遺産に登録されている合掌造り集落の五箇山や白川郷を通るルートである。

    五箇山の合掌造り集落を見物して、帰路の旅をのんびりと楽しんだ。

    SSTRは連日開催されているため、白川郷の道の駅では多くのSSTRライダーと出会ったが、そのひとりにオートバイ好き芸人であるノッチがいた。

    彼も僕と同じくSSTRのゲスト出演者である。SSTRはどの道を走るか、自己判断で自由にルートを決められることにもおもしろさがあるが、前日のゲストと当日のゲストが道の駅でばったり会うのは、レアなケースといえるだろう。

    時刻は午後3時。ここから千里浜までは下道でほぼ100km。スーパーカブの僕なら日没に間に合わないかもしれないが、大型バイクで高速道路を走れるライダーなら余裕である。

    大型バイクで走り去るノッチたちを見送ったあと、彼らと反対方向へ向けてスーパーカブをゆっくり走らせた。

    道の駅、白川郷のオートバイ置き場はSSTRの参加者たちが続々とやってきた。赤ゼッケンのスーパーカブに驚くライダーもいた。

    ノッチさんはBS11で放送されている『大人のバイク時間MOTORISE』の番組撮影を兼ねたSSTR参加だった。

     

    シェルパ斉藤
    私が書きました!
    紀行作家・バックパッカー
    シェルパ斉藤
    1961年生まれ。揚子江の川旅を掲載してもらおうと編集長へ送った手紙がきっかけで『BE-PAL』誌上でデビュー。その後、1990年に東海自然歩道を踏破する紀行文を連載して人気作家に。1995年に八ヶ岳の麓に移住 し、自らの手で家を作り、火を中心とした自己完結型の田舎暮らしを楽しむ。『BE-PAL』で「シェルパ斉藤の旅の自由型」を連載中。『シェルパ斉藤の行きあたりばっ旅』ほか著書多数。歩く旅を1冊にまとめた『シェルパ斉藤の遊歩見聞録』(小学館)には、山、島、村、東海自然歩道などの旅や、犬と歩いたロングトレイルの旅を収録。

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