いざという時のために、愛犬との避難準備とトレーニングをしておきたい!
2023年6月初頭、台風2号による記録的な大雨が降ったのを覚えていらっしゃる人も多いかと思います。災害救助犬であるコアとハンドラー(指導手)の私が暮らす地域でも、近くを流れる川の水位がかなり上がりました。コアと散歩をした時にその様子を見て、不安を覚えるほどでした。
気象庁の発表によると、この夏の降雨量はほぼ平年並みの見込みとのこと。でも、7月から10月にかけては台風の発生・上陸の数が最も多い“台風シーズン”。いざという時に慌てないよう、犬と一緒に行う避難について考えてみたいと思います。
2019年10月の台風19号でコアと私が経験したこと
記録的な大雨により2019年に大きな被害を出した台風19号。当時、私たち家族が暮らす荒川流域でも堤防が決壊する恐れがありました。
危険が予想されるなか、私とコアは雨が小降りの明るいうちに車に貴重品を積んで、高台にある友人の家に避難しました。その夜、私のスマホには、安全を確認する家族からの電話や、犬仲間からのメッセージがひっきりなしにありました。
私たちの住むところは、荒川が氾濫した場合は5〜10メートルの浸水域。自宅にいたら危険でした。数年前までは「荒川にはスーパー堤防があるから安全」と皆が思っていましたが、ここ数年は線状降水帯の発生など想定以上の豪雨による災害が起こるようになりました。
ただ、地震と違い、大雨や台風による水害はニュースや天気予報などをチェックして事前に避難することができます。私たちは道路が冠水したり暗くなったりする前に準備し行動していたので、安全に避難することができました。予報が出ている時は、早めに避難することが大事だと強く思いました。
知っておきたい「同行避難」と「同伴避難」の違い
私とコアは避難所ではなく、友人宅にお世話になりました。避難したその夜、犬仲間のひとりから涙声で「市のホームページで調べたら “同行避難”が可能って書いてあったから、犬と一緒に避難所に行ったけれど、犬は屋外に繋いでくれと言われた」と、戸惑いの電話がありました。
ペットの避難には「同行避難」と「同伴避難」があります。「同行避難」とは災害時に飼い主がペットを連れて一緒に避難することで、避難所の居室にペットが入れるかどうかは自治体や避難所が判断します。一方の「同伴避難」は、避難所のなかでペットと一緒に過ごすことができます。
私達の居住する自治体では同行避難を推進していますが、ペットは居室には入れず、避難所敷地内の屋外に設置された専用スペース(例として学校の場合は校庭など)で飼養することになります。
お住いの自治体や近くの避難所の災害時のペットの対応がどうなっているのか、心構えとしても、事前に自治体のホームページなどで確認しておくとよいと思います。
避難時に、犬に必要なものをリストアップ
私の経験から、愛犬のために揃えておきたいものを書き出してみました。
・クレート(キャリーケース)
・迷子札、マイクロチップ
・食器、飲料水、フード各5日分以上(缶詰は保存期間も長く水分も摂れます)
・常備薬、救急セット
・トイレ用品
・カラー&リード(ハーネス)
・タオル(できれば多めに)
・おもちゃなど愛犬が大好きなもの
・犬と家族が一緒に映った写真(万が一離れ離れになった時に自分の犬だと証明するため)
クレートトレーニングをしておきましょう
多くの避難所で犬はクレートに入っている時間が長くなります。ストレスの多い避難生活を少しでも安心して過ごせるよう、クレートがリラックスして落ち着ける場所=安全地帯になるように、クレートトレーニングをしておきましょう。
・クレートは大きすぎず、小さすぎない適正なサイズを選びたいもの。犬が中でくるりと方向転換でき、伏せた時に身体を不自然に曲げずにゆったり休めるサイズがお奨めです。
・クレートは静かで快適な温度の場所に置き、ふかふかのベッドや飼い主さんの匂いのついた衣類を入れて、快適な空間になるように工夫しましょう。
・最初は扉を閉めないで、大好きなフードをクレートの中であげたり、クレートの中でおもちゃで遊んであげたりして、クレートに良い印象を持ってもらいましょう。
・馴れてきたら犬がおやつを食べたりおもちゃで遊んでいる時にそっと扉を閉めて、犬が出たいと思う前に扉を開けることを繰り返して、少しずつ長くクレートに入っていられるように練習します。
信頼できるドッグトレーナーに教えてもらうのもお奨め。飼い主さんも犬も失敗なく楽しくトレーニングできると思います。
不安な時だからこそ、愛犬の心と身体のケアが大切
避難生活は大きな環境の変化に、人間でもとてもストレスがかかります。状況を理解できない犬はさらにストレスを感じることでしょう。ふだんから愛犬の苦手なことや大好きなことを把握して、少しでもストレスを和らげられるようにしてあげたいですね。
犬の様子を見ながら、お気に入りのおもちゃで遊んであげたり、飼い主さんの匂いのするものをクレートに入れてあげたり、外が見えないようにクレートに布をかけてあげたりしてみてください。また、犬は舐める行動で落ち着くと言われています。ペースト状のフードを知育玩具に、なければクレートに塗りつけて舐めてもらうのもいいかもしれません。
犬は飼い主さんの心情にも敏感なので、犬が落ち着けるように飼い主さんは平常心で犬と接してあげてください。普段から、知らない人や知らない場所、物音などにも馴らしておいたり、飼い主さんの声かけで落ち着けるように訓練しておくと良いと思います。
同伴避難ができない場合の対策を日頃から考えておくことが大事
2019年の台風19号のとき、
水害が心配な地域では、あらかじめ高台や立体のコインパーキングなどをチェックしておくのもよいでしょう。車での避難で小さいお子さんもいらっしゃる場合は、ペットと車中泊組とお子さんと避難所組に、大人が二手に別れて避難すると良いと思います。
犬との避難の事前練習として車中泊をしてみませんか?
台風19号の予報を見て、私は近所の犬仲間に早め早めの避難を勧めましたが、事前に避難した人はあまりいませんでした。「今まで大丈夫だった」「避難がめんどう」「持ち家が心配」などといった理由でした。
それを聞きながら、私とコアが躊躇なく避難できたのは、ふだんから災害救助犬訓練や実働時に車中泊をしたり、趣味でキャンプをしているからだと思い当たりました。
車中泊に特別な専用品を用意する必要はありません。私の愛車はごく普通のミニバン、標準仕様のままのHONDA フリードプラスです。後部座席はフルフラットにして、窓には遮光カーテンと網戸をつけています。
多少の段差はお風呂マットで調整して、ごく普通のマットレスを敷き、組み合わせで温度を調整できるように夏用と冬用の寝袋をふたつ備えています。また、車を覆える遮光シート(日除け)、ポータブルバッテリー、ランタン、水タンクを積んでいます。
まずは自宅の駐車場などでペットと一緒にお昼寝することから体験してみてください。大丈夫そうだったら車中泊できる場所に行って一晩眠ってみてください。事前に体験しておくことで、足りないものがわかったり、いざという時にスムーズに行動できたりします。
できるだけ街灯や水場に頼らず、自分の持ち物だけで過ごせるように試してみましょう。
「空振りになってもかまわない。車中泊を体験して楽しく避難訓練。キャンプ用品を全てそろえる必要はない。マットレス、湯たんぽなど家にあるものを使おう」。そんな気楽な、楽しい気持ちでトライしてみてはいかがでしょうか。
雨続きの6月、防災イベントに参加しました
私とコアは災害救助犬のチームとして活動していますが、救助犬が出動するような災害は、幸いなことに、そう多くはありません。そうした実際の災害での捜索以外に、こうした情報を発信することで、少しでも防災につながればと思っています。また、私たちの活動のひとつとして、防災イベントや防災訓練への参加があります。自分たちの訓練の場としてだけでなく、救助犬が登場することで、幅広い層に防災イベントに興味を持ってもらえたらと思い、積極的にイベントに参加をしています。
2023年6月10日には、東京都港区の桑田記念児童遊園で行われた『赤坂防災デー』のイベント(AKASAKA PARKS かたばみ・山本・GSグループ主催)で、コアと共に災害救助犬のデモンストレーションを行いました。内容はボックス訓練で、ボックスにかくれた要救助者を見つけて、吠えてハンドラーに知らせる(アラート)というものです。
雨の合間の曇り空。蒸し暑い日でコアはバテ気味でしたが、がんばってくれました。デモンストレーションの他に、先に述べた「ペットとの避難に必要なこと」もお話ししました。
こうした防災イベントが減災への一助になればと願っています。
災害救助犬としてがんばるコアのホームページはこちら。
子供の頃から動物とアウトドアが大好き。ロサンゼルスのアニマル・シェルターでボランティア・スタッフをしながら犬のことを学ぶ。コアとお互いに良いバディでありたいと日々奮闘中。