世界的な漁獲量の減少に加え、気候変動により水産資源の確保が大きな課題となっています。
養殖技術の研究は進み、海洋養殖のほか陸上養殖も行われています。
そんな中、国内市場流通量わずか0.3%という幻の高級魚であるサクラマスを、自然に近い環境で生産することに成功したのがスタートアップ企業の「Smolt」です。今回は、その取り組みと味に賛同したキハチの熊谷喜八さんによる特別メニューで、希少な「本桜鱒」を試食してきました。
Smoltがこだわるサクラマスとは?
養殖技術が進化する中でも、むずかしいといわれるサクラマスの養殖に取り組んだSmolt。
代表取締役CEOの上野賢さんが、大学在学中にサクラマスの研究に出会い、生産者の熱意や現場の課題を感じ、サクラマス養殖の事業化を目指したことをきっかけに、大学院在学中に設立したスタートアップ企業です。
サクラマスは、サケと同じで、川で生まれ、海で育ち、また産卵のために川に帰ってきます。そのサクラマスの生物としてのおもしろさや不思議な生態系、個体ごとの特性などを知れば知るほど興味深かったといいます。
さらに、ビジネスの観点として、純日本産のサクラマスは、レストランや食通の間で人気の魚であることからブランド化しやすいと考えたのだとか。
現在、サクラマスは環境省のカテゴリーでは準絶滅危惧種に分類されています。このままではサクラマスがさらに幻の高級魚になってしまうことから、日本の食文化を後世につないでいきたいという思いも込められています。
「サクラマスは、日本のみを周遊する魚です。稚魚のときは、ヤマメと呼ばれ、希少な高級魚。自然と同じ環境で養殖したいと考え、サクラマス本来の生き方に沿って、淡水と海水で育てる循環型完全養殖で生産しています」(上野さん)
淡水と海水を経験する過程で環境への耐性など優れた個体を代々選抜し、優れたサクラマスの開発を行っているのだそう。天然のサクラマスは、厳しい環境変化に適応する過程で魚体を大きく、銀色に変化させ、鮮やかで美しい姿へと成長します。そんな自然に近い環境で生産されているのが、Smoltが手がけるサクラマス「本桜鱒」です。
「遺伝子組み換えなどは一切行わず、宮崎の暑さにも耐える種を作りました」(上野さん)
なんと、10年もの歳月をかけ、交配を続けてようやく誕生したのだとか。農業でいうところの有機農法のように、餌にもこだわって大切に育てています。ちなみに、6月から8月が、脂がのって一番おいしい時期だそうです。
高級サクラマスを手軽に楽しめる「FISH FARM SAKURA」
Smoltは、ブランド魚である本桜鱒の生きものとしてのすばらしさを大切にしながら、自然豊かな環境で育った味わいを楽しんでもらいたいと、新ブランド「FISH FARM SAKURA」を立ち上げました。
魚を「商業的に養殖」するのではなく、「大切に育む」ことを大切にしているため、「FARM」と名づけられています。このブランドでは、サクラマスの身やいくらを余すところなく、素材本来の味を楽しめる商品を展開しています。
「桜鱒のソフトジャーキー」や「桜鱒のスモークコンフィ」、「桜鱒の炊き込みご飯」は、常温保存のため、キャンプやBBQに持っていくこともできます。
今後は、元気に育つサクラマスを眺めたり、餌やり体験をしたり、BBQを楽しんだりしながら、命をいただく食育の大切さを知ってもらいたいと、宮崎県延岡市に体験型施設のオープンも予定しているのだとか。
キハチ 青山本店で期間限定リゾットが登場
本桜鱒の養殖技術や活動に賛同したシェフの熊谷喜八さんによる特別メニューで、ブランド魚を試食しました。
マスは水分が多い魚であることから、少し燻すことで旨みが出るのだそう。
食材の中で気になったのは、「つきみいくら」です。黄色のいくらは、サケのいくらより粒々感が強い印象。試食会では、「本桜鱒の燻製、つきみいくら、生うにのそば粉クレープ」のメニューでいただきました。
つきみいくらだけを口に入れたときは、粒がしっかりしすぎているかもと感じましたが、クレープに包むことで、ほかの食材との食感の違いを楽しめる絶妙な粒々感に。つきみいくらだけで食べるのも楽しいですが、これはアレンジして食べたいと感じました。
試食会では、本桜鱒がさまざまにアレンジされたお料理をいただきましたが、期間限定でキハチのメニューに登場するのが、「本桜鱒と雑穀、つきみいくらのリゾット」です。
桜色のサクラマスの身とつきみいくらのキラキラ感に、食べる前から期待が膨らみます。雑穀とつきみいくら、さらに本桜鱒の柔らかさのハーモニーに驚きました。コースのしめとして追加オーダーできるとのこと。ボリュームはありますが、別腹感覚で食べられそうですよ。
100年先にもおいしいお魚を食べる文化を残したいと研究を続けているSmoltの上野さんは、「自然に近い形で育てる」ということにこだわっています。
陸上養殖の方が管理はしやすいのではないかと思いましたが、「メカっぽい感じはいやなんですよね」とのこと。マスたちが育っていく環境も知ってもらいたいからこそ、FARMと名づけ、体験することで、生物のすばらしさを実感してもらいたいという思いが伝わってきました。水産資源を大切に育むSmoltの取り組みに、これからも注目です。
Smolt FISH FARM SAKURA
https://www.smolt.co.jp/