東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。第2座目は、前回の愛宕山から縦走で「含海山」をめぐります。
第2座目「含海山」
手島宗太郎さん著作の「江戸・東京百名山を行く」を読むと、File.1で紹介した愛宕山の隣に含海山(がんかいさん)という山があるそうです。もしかして縦走できるかなと思って調べたのですが、縦走できそうな道がどこなのか、含海山がどの辺りなのか、はっきりしませんでした。
いつもなら近隣駅を登山口として、Google Mapを見ながら良さそうなルートを想定して歩きます。でも、Google Map上でも、含海山はおろか愛宕山から繋がる道が全く表示されていませんでした。
前回紹介した、愛宕山のNHKルートは、実は愛宕山に行く道と反対側に行く道の分岐になっていました。もしかして、隣にある青松寺が怪しいのではないかと思い調べてみました。
青松寺のホームページを見ると、「曹洞宗萬年山青松寺」となっており、曹洞宗のお寺のようです。どうやら含海山は同寺の敷地内の情報なので、Google Map上でも出なかったのかもしれません。もともと青松寺は、開山当初は麹町貝塚(今の国立劇場・最高裁判所の辺り)にあり、その後、慶長5(1600)年、徳川家康公が江戸城の外堀をつくる際に、愛宕山の南に続く丘陵「含海山」と呼ばれる現在地へと移ったそうです。
ここでようやく「含海山」を発見しました。つまり、小高い丘陵が含海山なのか…。ということで、今回は愛宕山−含海山縦走ルートを紹介します。
含海山−愛宕山縦走ルート
愛宕神社を出ると、すぐ目の前にNHK博物館がありますので、NHKルート方向へ進むと階段が現れます。前回紹介した車道ルート、男坂ルート、NHKルート、NHKエレベータールートのいずれからも接続可能です。
階段を下りていくと右にトラバースしていきます。すると、左側にNHK博物館に行くエレベーターが見えてきて、NHKルートとの分岐が現れます。今回は、ここをそのまま青松寺方向に進みます。
道なりにどんどん進んでいくと、お寺の敷地内に入ったことが実感できる景色に変わっていきます。とても静かで、墓地の奥には高級なマンションがそびえたっています。(マンションが視界に入らないよう上さえ見上げなければ)自然豊かな遊歩道です。道なりに進んでいくと、「精進料理醍醐」の看板が出ていました。高そうだなと思っていたらやはり、一番安いお昼の懐石で13,800円でした。さすが東京の懐石料理、ここは港区なんだと現実に引き戻されます。
「精進料理 醍醐」の目の前の階段を降りていくと、インド象らしき不思議な感じのモニュメントがあります。確か、台湾のお寺でも同じようなモニュメントを見た気がします。
建物沿いに進むと青松寺があり、その先にはまた墓地があるようです。ここで墓地方向には行かず、寺の建物沿いを道なりに進んでいきます。
歩いていると、ふと涼しげな水の音が聞こえてきました。建物の間の通路に入ると、瀧と龍のオブジェ。しかも龍の口からシャワーが出ています。球を握っていますし、なんだかドラゴンボールのシェンロンにも見えなくはありません。日陰とミスト。この日の気温は35度越えの酷暑日。しばし涼みながら休憩します。
愛宕グリーンヒルズMORIタワーの入り口が見えてくると、ファミリーマートがあります。まさに水場ですね。ドリンクを持参していない場合は、ここで冷たい飲み物で水分補給してください。そのまま歩いていくと、一気に緑が増え、ルートは石畳にかわり、ルート脇には水路が現れます。ここが港区であることすら、すっかり忘れそうになる景色が続いていきます。
水辺を過ぎると現れる急登。日陰なので、一気に登っていきます。そろそろ含海山が近いのだろうか。どんどん標高を上げていきます。
急登を登りきると、青松寺の智正庵(多目的に利用出来る広間と茶室)が現れてきました。とても趣のある建物です。この日は入り口が閉まっていました。智正庵の脇には石畳の道が続いています。導かれるようにそのまま進んでいくと、智正庵の裏手にまわっていきます。
そして、崖の小高い所に東屋がひっそりたたずんでいました。東屋に入り、辺りを見渡しますが、特に山頂を示すものはありません。見渡して気付いたのですが、どうやらここが一番高い場所のようです。
その昔、含海山は眺望の良い場所として知られていたそうです。もしかしたら、その名残りもあり、この一番高い位置に東屋を作ったのではないかと感じました。きっと、ここが含海山山頂なのでしょう。
含海山の東屋を後にして、道なりに下っていくと、こちらにもお寺がありました。同じ曹洞宗 萬年山の清岸院です。同じ宗派で隣同士なのに別々のお寺なんだと不思議に思いつつ、そのまま階段を下っていくと、なんと脇には登り専用のエレベーターがあるではないですか。日比谷線神谷町駅登山口からくると、逆方向なのでエレベーターが利用できます。この縦走路は逆ルートの方が、きっと楽かもしれません。エレベーター登山なんて、いかにも東京らしい。
階段を下りて神谷町駅登山口方向に曲がると、すぐに目に飛び込んできたのが(有)高木製麺所でした。ちょっとレトロな佇まいが気になったのですが、残念ながらこの日(日曜)は定休日。仕方なく通り過ぎました。後で調べると、立ち食いソバ屋さんで、価格もお手ごろのようです。次回行ってみたいなと思います。
そのまま高本製麺所を真っすぐ進むと、日比谷線神谷町登山口に到着します。なんと、思い付きで縦走を試み、そのまま縦走出来てしまったのでした。都会の山でも自然を楽しみながら縦走できるものですね。期待していなかっただけに大きな喜びがありました。
今回は残念ながら、含海山の明確な山頂は確認できませんでした。ただ、山頂らしき小高い丘があり、そこに山があったことは確かなようです。
何より、港区にこんなに緑と水辺があるとは思いませんでした。静かで木漏れ日のある含海山ルートは、まさに都会のオアシスルートです。港区のど真ん中にいることをしばし忘れてしまいます。東京の山、縦走でも楽しいです。ぜひ、空いた時間に歩いてみてください。
愛宕山へのルート 神谷町駅登山口
今回の含海山縦走で紹介した神谷町駅登山口から、別方向に歩くと愛宕山へ登るルートがあります。実は、愛宕山に登る最短ルートでもあります。総距離なんと500m。あっという間に登れますので、忙しい時間の合間に行けちゃいます。
含海山へ行く道と反対側に進みます。国道1号線をそのまま真っすぐ進むと、通りの向こう側に気になる洋食屋さん「キッチンダダ」が見えて来ました。登山の途中だし、どうしようと思いましたが思い切って横断歩道を渡ってキッチンダダの目の前に。ただ、今は時間の余裕がないので先を急ごうと、ドアを開けず、そのまま登山道へ復帰しました。「キッチンダダ」の情報をご存知の方はぜひ教えてください。
そこから、1階に宝石屋さんらしき店が入るビルを曲がり、少し歩くとトンネルが見えてきます。自動販売機の辺りに差し掛かり、右側には公衆トイレがあります。都会を歩くとトイレの位置って重要です。覚えていて損はありません。
急登の始まりは、「愛宕西参道」の銘板がある階段です。スイッチバックしながら急な階段を登ると、車道ルートの上部に合流します。すると、直ぐ左手に愛宕神社の入り口があるのでした。あっという間に登頂できるので、登山初心者や短時間で登山を楽しみたい人にオススメです。
次回は都会のど真ん中、港区にある「千石山」です。
なお、今回紹介したルートを登った様子は、動画でご覧いただけます。
・愛宕山から神谷町駅へ
・JR新橋駅烏森口登山口から神谷町駅登山口までの全縦走ルート[完全版]