モノにも時間・空間にもしばられない!「ムラブリ生活」からの学びとは?
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    2023.08.24

    モノにも時間・空間にもしばられない!「ムラブリ生活」からの学びとは?

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    狩猟採集民ムラブリと生活を共にした言語学者が日本でその暮らしを実践している。われわれが学べることを訊いた。

    話題のノンフィクション『ムラブリ』著者の言語学者・伊藤雄馬さんを直撃!

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    いとう・ゆうま 1986年島根県生まれ。言語学者、横浜市立大学客員研究員。富山大学人文学部時代からタイ・ラオスを中心に言語文化を調査研究する。「15年、研究しています」

    狩猟採集民ムラブリとは?

    タイやラオスの山岳地帯に住む少数民族。森の中で植物や動物、魚を狩猟採集しながら移動して暮らす。タイ側に多く住むが、それもわずか500名前後の集団だと考えられており、現在定住化が進んでいる。彼らの話すムラブリ語は文字がない「無文字言語」で、また、消滅の危機に瀕する「危機言語」に指定されている。

    考え方や生活も徐々にムラブリ流に変化

    小さなリュックから出てきたのは、1畳弱の布、タオル、褌、爪切り、髭剃り、水筒、塩、本、iPad……だけ。

    「日用品はこれで十分です。シンプルな生活をとても気に入っています。ふだんは島根の実家が持っている山にドームを立てて寝起きし、それ以外ではこのリュックを持って友人の家に泊まったり野宿をしたり。治安には気をつけますが、寝られる場所は意外に多いんですよ。横浜のフィールドとか。あそこはベンチが多くて快適です。食べ物もそこらへんに生えているものを食べたりもします」
     
    伊藤さんは多摩川河川敷を飄々と歩きながら、桑の実や野草を摘んでそのまま口に運んだ。

    「ムラブリのように、衣食住をできるだけ自分の力で賄えるようになりたいんです」
     
    伊藤さんはタイやラオスの山岳地帯に住む狩猟採集民ムラブリが話すムラブリ語を学生時代から研究している言語学者だ。ムラブリ生活を送っているのは、ムラブリ語が話せるようになってムラブリの身体性を獲得したからだという。

    「たとえば日本語では穏やかなのに、英語を話すときは自己主張できたりしますよね。これは、それぞれの言語を作ってきた人たちの経験の積み重ね、すなわち身体性が異なることによるんです。僕はムラブリ語によってムラブリの身体性を獲得し、考え方や生活も徐々にムラブリ流に変化してきました」

    伊藤さんが実践するムラブリ生活

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    「これだけあれば暮らしていけます」。着替えは褌1丁のみ。「服は夜のうちに重曹で洗濯すれば、朝には乾いています」。水筒は浄水機能付き。読み終わった本は棚貸し書店に置いて販売している。

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    「お腹が空いたときに、そこらへんの物を食べられたらベスト」。食用かどうかの見分け方は修業中とのこと。「カキドウシ、 美味いですよ」

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    いつでもどこでも履物は雪駄。真冬の雪の中でも雪駄で歩く。靴下がいらなくなった。

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    ムラブリは森の中でバナナの葉や竹を用いて寝場所を作る。それと同じように日本で「住」を自活するため、ひもと結束バンドだけで立てるドームを開発した。「僕が作った 寝床です」

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    1畳弱の布をシーツにして寝る。布は、1着しかないTシャツ・ジャージの洗濯中に腰巻きにもなる。実際に野宿するときは、交番が近くにあるなど治安面を考慮。「寝ようと思えばどこででも」

    空間や時間にもしばられない暮らし

    では、ムラブリ流の考え方・生活とは?

    「第一に彼らは持ち物が少ないです。森に行くときでも、腰に刃物を差しているだけ。食べ物も水も寝床もロープもすべて現地調達するからです。また、そもそも所有観が異なります。ムラブリ語では、『ある/いる』と『持つ』は『プ』という同じ動詞で表わすんです。たとえば、『ここにコップがある』も『僕が携帯を持っている』も『プ』を使います。これについてわかってきたのは、僕が勝手に日本語に訳し分けようとしているだけで、彼らにとって物の所有関係は気にしないということ。考えてみれば、コップも携帯もまず存在が前提で、物と人との関係性を頭の中で創り出したのが所有。ムラブリは否定しようがない部分だけを言語化していて、頭の中で起こっていることは言語化していないんです。物も人もただ存在しているだけなのに、僕たちは所有の関係性を気にしすぎなのかもしれません」
     
    ムラブリは空間や時間にもしばられないという。

    「近年定住化が進んできているとはいえ、もともと森の中を遊動する狩猟採集民です。いまでも危険なよそ者が来たり、いやなことがあったら、どこかへ移動します。それができるのは、彼らにどこででも生きられる力があるから。さらに、ムラブリは暦も持っていません。スケジュールにしばられることなく日々を暮らしています。森の生活に暦は必要ないからでしょう」

    「もちろん……」と伊藤さんは続ける。

    「もともと僕にムラブリっぽさがあったから徐々にムラブリに染まっていったのだとは思いますが、僕の中には日本語の身体性もあります。いまやっているムラブリ生活は、両方の身体性を持ったとき現代日本でどう生きていくのが心地いいのかの試行です。それは自分にしかできないと思っています」
     
    著書『ムラブリ』や伊藤さんも出演した映画『森のムラブリ』(金子遊監督のドキュメンタリー映画)には、「考えさせられた」や「楽になった」という感想が寄せられているという。「昔だったらただの変わり者で終わっていたと思うんですけどね」と伊藤さんは笑う。

    「大震災やコロナを経験してムラブリを自分ゴトとして見られるタイミングだったのかもしれません。ムラブリは日本人を相対化できる別の物差しだと思います。ただし、どちらがいい悪いではなく、どっちでもいいんです。僕の好きなムラブリ語は、『カラム ドゥ モイ』。『そいつ次第だ』という意味です」

    異端の言語学ノンフィクション

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    「自分の日本での生き方こそが僕なりのムラブリ研究の成果」という伊藤さんが成果を書き記した著書『ムラブリ』(集英社インターナショナル)。

    DVD発売中!

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    伊藤さん出演! 2年にわたってムラブリを追ったドキュメンタリー映画『森のムラブリ』(金子遊監督)。昨年公開された本作がDVDになった。

    ムラブリに学ぶ、目からうろこの生き方

    1 「プ」物の所有にこだわらない

    ムラブリ語では、『ある/いる』と『持つ』は『プ』という同じ動詞を用いる。物も人もただ存在しているだけだと気付かされる。われわれは、「所有する」という概念にしばられすぎているのかもしれない。

    2 「カラム ドゥ モイ」押し付けない

    ムラブリ語で、「そいつ次第だ」の意。意見が違う人がいたら、「それは違う」といいたくなるが、ムラブリは「そいつ次第だ」といって自分の意見を押し付けない。ムラブリを見習うとすごく楽になる。

    3 いやなら逃げる

    ムラブリはいやな人がいたら逃げる・離れる。我慢して同じ場所に留まろうとはしない。ただし、それは森の中ならどこへ行っても自分で生きていける力があることの裏返し。だからこそ自活できる力をつけたい。

    ※構成/鍋田吉郎 撮影/中村文隆、伊藤雄馬(ムラブリ)

    (BE-PAL 2023年8月号より)

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