徐々に気候がおだやかになり、美しい自然と向き合えるこれからの季節。これからも守っていきたいニッポンの景色、生態系について、良書を通じて深く考えてみたい。
BOOK01
自然の恵みとともに……山の暮らしを続けるには
『山に生きる 福島・阿武隈シイタケと原木と芽吹きと』
鈴木久美子著
本橋成一写真
彩流社
¥2,420
福島県田村市都路町。ここは12年前までは、シイタケを栽培するための「ほだ木」(原木)の産地だった。阿武隈高原に位置する都路町はコナラやクヌギなど上質な原木が育つ。全国有数の原木出荷を誇った福島県下でも一大拠点だったが、2011年3月11日の原発事故で放出された放射能によって山は汚染。シイタケ原木の出荷は今も止まったまま。伐り時を迎えた(あるいは過ぎた)木々は現状、薪にもできずパルプチップになるしかないのだという。
本書は、里山での生業を紡いできた人びとの暮らしを著わすルポルタージュだ。山は食料をもたらし、貨幣をももたらした。自然に対して所有という概念がなかった時代から連綿と続いてきた山の暮らしと営みがある。薪炭林からシイタケ原木生産へとシフトしていった歴史。木炭がエネルギーの中心だったころ、東京へ鉄道が走り多くの木炭を供給していた。今と変わらない構図にハッとさせられる。
山と共にどのようにして、ここで生きてきたのか。原木生産や原木シイタケ栽培の再開を見据えて動く人、キャンプ場を手作りする人、カジカを放流する人……。自分の代では難しくても誰かが紡いでくれるかもしれない、未来に意思と願いを繋ごうとしている。
BOOK02
断崖絶壁を越えて着く、待つ人も黒部の景色
『黒部の谷の小さな山小屋』
星野秀樹写真・文
アリス館
¥1,760
富山と長野の県境近くにある黒部の谷。国内屈指の山深い地に阿曽原温泉小屋は建つ。この小屋は盛夏から秋の数か月だけ現われる。その様子を、ときに登山者、ときに小屋番目線で写真と文で綴った本書。圧倒的な自然が美しくも恐ろしいほどに迫ってくる。そして小屋主人の温かい表情に和む。本物の黒部はどれだけのところなのだろうか─。心が躍らずにはいられない。
※構成/須藤ナオミ(BOOK)
(BE-PAL 2023年8月号より)