画家・写真家・ナチュラリストのおくやまひさしさんによる、美しいイラストと写真付きの自然エッセイです。
ヤブカンゾウの食べ方は?花もつぼみも根もおいしい
ヤブカンゾウは、春の新芽も、夏の花も、さらには地中にできる塊根(イモ)もおいしい山菜だ。
ヤブカンゾウはユリ科の多年草で、北海道から九州まで分布する。土手や道ばた、林のふちなどに群生し、40~60㎝ほどの線形の葉を左右に広げてのび、夏には株の中心から1mほどの太い花茎をのばして、てっぺんに直径8㎝ほどの橙色の花をつける。八重咲きのこの花は一日花だが、明くる日は別のつぼみが開花する。
ヤブカンゾウの春の新芽は、おいしい山菜として人気があるが、花やつぼみのてんぷらもおいしいし、秋から冬にかけて根につく紡錘状にふくらむ塊根も、煮ると甘みがあっておいしい。
八重咲きのヤブカンゾウは、オシベやメシベが花弁状になるのでタネができないが、一重咲きのノカンゾウだと、ごくまれにタネができる。
ヤブカンゾウの仲間には、海辺に育つハマカンゾウやトビシマカンゾウ、それに有名なニッコウキスゲなどがあるが、新芽や花や塊根は、どれも同じように食べることができる。
タネのできないヤブカンゾウが土手などに群生するのは匐枝をのばしてふえるからだ。
私たちが毎年のように通うヤブカンゾウの育つ土手には、少し時期をずらしてナンテンハギやツリガネニンジンなども育つのだが、大がかりな護岸工事のせいで様子が一変してしまった。
ところがどんな理由でか、カーブする川のよどみにクレソンが群生するようになった。
野草の命なんて、人間の手であっさりと消すことができるが、とつぜん新手が現われたりするのだから、自然とはなんとも不思議な力の持ち主なのだ。
ヤブカンゾウの花は八重咲き、ノカンゾウの花は一重咲き
イラスト・写真・文 おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
(BE-PAL 2023年8月号より)