20歳のアルマは気が強くてクセがあるけれど、おじいちゃんには確かな絆を感じ、その前でなら素直で心優しい女の子になれる。けれどオリーブ農園と共に生きてきたおじいちゃんは、アルマの父が樹齢2000年のオリーブの樹を売ってからしゃべらなくなっていた。ついには食事も口にしなくなったおじいちゃん。あのオリーブの樹を取り戻せば、おじいちゃんを救えるはず!――具体的な計画も資金もゼロのまま、変わり者の叔父アーティチョークと同僚のラファを丸め込み、ヨーロッパのどこかに移植されたはずの、オリーブの樹奪還の旅が始まる……。
ビクトル・エリセ監督の『エル・スール』でヒロインを演じた少女が映画監督に。映画『オリーブの樹は呼んでいる』はそんな彼女が、イギリスの名匠ケン・ローチ監督とのコンビで知られる脚本家ポール・ラヴァーティと組んで完成させた人間ドラマ。映画のそもそもの始まりは絶望的な不況が続くスペインで、樹齢2000年のオリーブの樹が大地から引き抜かれて売られているという新聞記事だった。自然を守りたい、けれど切り売りして利益を得なければ食べていけない。この映画にはそんな切羽詰まった農家を取り巻く状況と、環境を大切にしているという〝エコな精神”をアピールするために自然を破壊する企業という、笑えない皮肉も込められている。
一方でこれは、存在の核に訳のわからない怒りを抱えた女の子の成長物語でもある。そして長い長い不況の時代を生きる若者が、若さゆえのがむしゃらエネルギーを周囲へ無茶苦茶に発散しながら大騒ぎをして前へ進み、〝希望”をつかみとろうとする物語とも言える。そしてもちろん、明るい未来の見えない絶望的不況が続くのはスペインだけではない。
『オリーブの樹は呼んでいる』
(アット エンタテインメント)
●監督:イシアル・ボジャイン ●出演:アンナ・カスティーリョ、ハビエル・グティエレス、ペップ・アンブロス、マヌエル・クカラほか
●5/20~シネスイッチ銀座ほか
©Morena Films SL-Match Factory Productions-El Olivo La Película A.I.E
文/浅見祥子