今年の夏のある日、友人から引越しを手伝って欲しいと電話が掛かってきた。それが家そのものの引越しであることをすぐに告げられた。ふむ、面白そうじゃないか! 前回彼らの住む家ヤートを取り壊したのに続いて、今回はそれを建てていく。
前回の記事はこちら:https://www.bepal.net/archives/345870
ヤートとは?そしてその住人は?
モンゴルの「ゲル」というと想像がつく人も多いと思う。遊牧民の伝統的な組み立て式の家屋で、国によって呼び名が変わるようだ。僕の住むカナダ、ユーコン準州界隈では、大体の人が「ヤート」で意味が通じるように思う。
その住人が僕の10年以上の友人夫婦、上村知弘さんとその奥さんのタミーさん。ホワイトホースの街からクルマで10分ほどの静かな森の中のヤートに住んで、その生活の様子を動画配信している。https://www.youtube.com/@tntnaturecon
新しい場所にヤートを建てる!
今度の場所は、今までの場所からクルマで30分ほど離れた場所。森を切り開き、今後農地として開発される場所らしい。
新しい場所からはアイベックスバレーの山々が望めて、なかなか見晴らしが良い。
順番は先週行った工程の反対
新しい敷地に行くと、もうすでに二人が仕上げた基礎が出来上がっていた。この上に先週バラしたのとは逆の手順でヤートを組み立てていく。そう聞くと簡単に聞こえるかもしれないけれど、実際にやってみるのと色々違うもので……。
まずは防湿シートをシワができないように広げていって、ステープル(建築用のホッチキス)で止めていく。今度はその上から、元々使っていた厚い断熱材を隙間なく敷き詰める。
そして玄関のドアフレームをセットして玄関の位置を決めたら、アルミ箔が貼ってある薄いスポンジの断熱材をステープルと両面テープで止めていく。このスポンジシートはいくらかの厚みがあるから、重なると後々段差ができてしまう。でも隙間があると軟熱効果が落ちてしまうから、しっかり敷き詰めないといけない。この辺の塩梅が難しく意外と時間がかかった。
ここからは床板を敷き詰めていく。床板の裏面には数字が書かれているから、順番に並べていけば今まで仕上げてきた基礎の大きさにぴったり合うはずと思いきや、なぜだか床板を敷き詰めると基礎より大きい。
はみ出た床板はアングルグラインダーで切って基礎の大きさに合わせる。
基礎の周りをベニヤ板で囲う。この時ベニヤ板を床よりも少し高くすることで、床板の固定ができて、さらにはこの後に設置する格子状の壁、ラティス(Lattice)がそこに引っかかって固定されるという仕組み。
そうしたらラティスを広げていって、玄関のドアフレームに固定する。
その後はラティスの上面に輪状になったワイヤーを乗せて、ラフター(Rafter)と呼ばれる垂木の一端に入った溝にそのワイヤーをはめる。そしてラフターのもう反対側を天井最上部の木製のリング状に掘られた穴にはめていく。このリングは宙に浮いたかのように、何本もあるラフターに下から支えられている。ラフターとリングをはめていく時に、ヤート全体の前後左右をバランスを考えながらはめていかないといけないのが難しい。
それでも全て組み終わると、リングはきちんとヤートの中心に。近づくヤートの完成に喜ぶタミーさん。ラフターにぶら下がってもびくともしない!
後は屋根の上に断熱材とその上から強化ビニールのシートを乗せて、天頂部にはスカイライトを乗せてネジで固定。ラティスの外側には屋根同様に断熱材と強化ビニールのシートを巻きつけて、屋根のシートとナイロン製の細引きできつく縛って固定する。
玄関の扉を取り付けて、四人がかりで持ち上げてもまだまだ重い薪ストーブを搬入して設置。煙突を真っ直ぐに部屋の中心に設置するのがなかなか難しかったけど、これで最低限のヤートの設置が終わった。
ヤートの外にはすでにソーラーパネルが設置されて、太陽光発電で冷蔵庫も順調に動いている。
ヤートの設営を手伝ってからひと月以上経って、彼らから写真が送られてきた。作りたいと言っていたウッドデッキが完成した写真と、ヤートの上に舞うオーロラの写真。これから冬に向けて、彼らの新しいオフグリッド生活はどのように始まっていくのだろうか? また適当な頃合いを見て、彼らの新しい生活を訪ねてみようと思う。
ビデオグラファー
杉本淳(すぎもとあつし)
2008年にユーコン川下りで訪れて以来、ユーコン準州に通い始める。2011年に移住後も、ユーコンに生きる野生動物、風景、自然と共に生きる人々を引き続き撮影中。2019年First Light Image Festivalにて最優秀賞受。Canadian Geographic、カナダのテレビ番組、イギリスBBCなどに作品を提供。ユーコンから色々なトピックをお届けします!