森の中の家
僕の住む街カナダのユーコン準州ホワイトホースの中心地は、車で10分も走れば一周できてしまうくらい小さい。街の中をユーコン川が流れていて、周囲は山と森に囲まれている。そんな環境でも街中の住宅地からさらに離れた森の中にキャビン(小屋)などを自分で建てて、自然の中で静かに暮らしたいという人たちがたくさんいる。
僕がユーコンに引っ越してきた十数年前からの友人夫婦も森の中に住んでいて、近々引越しをするから手伝って欲しいと連絡があった。
それは普通の引っ越しではなかった…
その友人とは上村知弘さんとその奥さんのタミーさん。彼らもそんな環境に好んで暮らしつつ、そのユニークな生活の様子を動画配信している。https://www.youtube.com/@tntnaturecon
彼らの住んでいる家はいわゆる普通の一軒家ではなくて、「ヤート」と呼ばれる組み立て式の家。「ゲル」というと想像できる人も多いかもしれない。調べてみるとヤートとゲルは同じもので、国によって呼び方が変わるらしい。ちなみにユーコン界隈でヤートと言えば、大体の人に意味が通じる。
彼らのいう引越しの手伝いとはそう、このヤートをバラして新しい場所に移動させる、家そのものの引越しを手伝って欲しいということだった!
解体作業開始!
週末の朝9時頃に森の中のヤートを訪れると、友人たちやご近所さんが集まっていた。ユーコンの夏も時期によっては雷雨になることがしばしば。この日の天気予報は夕方から雷マーク。約10人もいたらそれまでに解体は終わるかな?ということで、早速作業を開始する。
まずはてっぺんにある薪ストーブの煙突の解体から。煙突がスカイライトの木枠に、その木枠がその下にある円状の木製の骨組みに、それぞれねじ止めされているので、それらを外して慎重に下ろす。
次は屋根と外壁のシートを剥がす。それぞれのシートは丈夫なナイロンの細引きで縛ってあるだけ。
それを全て解くと屋根と外壁が別々になって、外壁もその下にある断熱材も簡単に外せる。
同じ要領で屋根も解体していく。
すると見事にヤートの骨組みだけになった。
屋根の骨組み、垂木はラフター(Rafter)と呼ばれ、一端が壁面上部にはめられたワイヤーに、反対の端が天井最上部の木製のリング状に掘られた穴にはまっている。このリングは何本もある垂木に下から支えられているだけで、宙に浮いているかのよう。屋根はたったこれだけで構成されていて、重いスカイライトや煙突を支えていた。なんとも絶妙なバランスで成り立っていながら、強度もしっかりとある。しかもネジも釘も使われていないことにさらに驚く!
壁面の格子はラティス(Lattice)と言って、木製のアコーディオン状になった構造になっている。
広がっていたラティスを縮めると、こんなにも小さくなってしまう。これを取り外してしまうと、もう床のみ。
床材を丁寧に外しながら、順番が分からなくなってしまわないように、裏面には番号や注意事項を書いていく。
床材を外し終わったらその下の断熱材を解体すると、もう土台だけになってしまった。
バラしたヤートをトレーラーの荷台に載せて雨よけカバーを掛けたら雷が鳴り出した。今週末のミッションはギリギリで果たすことができた。
来週末はまたみんなが集まって、新しい場所にヤートを建てる予定だ。解体は1日だけでできたけど、建てるのも1日で終わらせることはできるだろうか?
ビデオグラファー
杉本淳(すぎもとあつし)
2008年にユーコン川下りで訪れて以来、ユーコン準州に通い始める。2011年に移住後も、ユーコンに生きる野生動物、風景、自然と共に生きる人々を引き続き撮影中。2019年First Light Image Festivalにて最優秀賞受。イギリスBBC、カナダのテレビ番組、雑誌Canadian Geographic、などに作品を提供。ユーコンから色々なトピックをお届けします!