「1週間でパタゴニアを味わい尽くす」なんて言いながら、前回の記事に書いた通り、ボクはパイネ国立公園行きのバスを1日に2度も乗り損ねてしまったわけです。
チェックアウトを済ませたボクが、トホホな感じで戻ってきたので、宿のおばちゃんもビックリ。ボクは「2度もバスを逃した」という、恥ずかしい事実の告白を迫られていました。
「またバスに乗り損ねたよ、エヘヘ」
「あんたどこのバス会社のチケット買ったのよ?」
「Buses JBってとこのだけど」
「その会社は詐欺師ってんで有名よ、あんた」
え?
と一瞬思ったものの、原因がボクの時計の狂いにあったことはすでに明々白々。仮にサギ会社だとすれば、どうして立派なターミナルに店を構えるができましょう。
「いや、俺の時計が狂ってたみたいでさ」
「騙されてるわよ!そうやってウソの時間を教えるんだから」
(もうこれ以上説明させないで、おばちゃん!)
極悪JBバス(実際はそんなことありません)の話を、ウンウン、と聞いているうちに、どういうわけか明日は早朝おばちゃんと出発することに。
ついに到着!パイネ国立公園!(2016.3.26)
予定時刻になっても現れないおばちゃんをおいて出発。
3度目の正直、ついにボクは国立公園行きのバスに乗ったのです。ウキウキでバスに揺られながら、ようやくパイネ国立公園入り口、アマルガに到着しました。
ここアマルガで旅行者は入園手続きをして、公園内での注意事項などのガイダンスを受けます。
公園内には2つの主要なトレッキングルートがあります。
1つは「Wコース」。
パイネ山群の南側をWの字を描くように歩くルート。
2つ目は「パイネサーキット」。
パイネ山群をまるっと一周するルート。
件の凡ミスにより滞在日数が1日少なくなったボクが選んだのは「W
コース」。
風つよし、されどみやびなパタゴニア
公園入り口からパイネ・グランデというキャンプ地までバスと船を乗り継ぎ、そこから北西へ約11km、グレイ氷河が初日の目的地。
船にぎっしり詰まっていた旅行者は散り散りになり、そこにあるのは静かなパタゴニアだけ。草原の中に刻まれたか細いトレイルを歩み始めます。
トレールには、現在地や次のポイントを記した案内板があります。所要時間やルートの勾配なども記してあるので、自分の体力やその時の状況に合わせてプランを調整することもできます。
ときおり現れる湖には氷河の片われが浮かんでいます。想像以上の青!
一瞬の風に舞い上がった湖水が、しぶきになって虹をつくります。その露骨に幸せな配色にボクの網膜は歓喜するのであります!
毎日が暴風警報。そんなイメージを勝手に抱いていたので、ときにしっとりとした温もりのある一面に出会うたび、
「かあぁ、こんな幸せなのか、パタゴニアってところは」
そう思わずにはいられないのでした。
片われではない氷河が見えてきました。
「写真撮ってくださーい」
フランスからきたという女性2人組は氷河をバックに十数ポーズを決めたあと、
「ムチャス・グラシアス!(どうもありがとう!)」
と言って氷河へ向けて去って行きました。
終わりの見えない氷河を眺める。ザックを背負い歩き出せば、あとはひたすら下り道。
明日は湖でカヤックができるかな・・・。そんなことを思いつつ、ボクは再び歩きはじめたのでした。
つづく
【プロフィール】
■文・写真=志田岳弥(しだたけや)
1991年、東京都八王子市生まれ。大学進学を機に沖縄へ、カヤックを始める。2014年、青年海外協力隊としてペルーへ。同国では自然保護区管理局へ配属され環境教育に従事。現地の子供達と川で遊んだ日々は一番の思い出。2年の任期を終え帰国するも、南米へトンボ帰り。パタゴニア北部をカヤックで放浪。最近、一番の感動は岐阜県で釣ったアマゴの美しさ。そりゃ、もう。