画家・写真家・ナチュラリストのおくやまひさしさんによる、美しいイラストと写真付きの自然エッセイです。
ムクゲの花は、なんとも行儀のいい花だった
仕事や学校で余裕がない日々を過ごしていると、自然の移ろいをつい見逃してしまいがち。心に余裕を持ち続けるためにも、身近な自然に目を凝らしていたい。今回は1日で花を終えてしまうムクゲのお話だ。
ムクゲの花は一日花で、朝開いた花は夕方にはしぼんでしまうが、翌日には傘をたたんだようにきれいに巻き込んだ形で散り落ちる、なんとも行儀のいい花だ。
ムクゲはアオイ科の落葉低木で、中国原産の木だが、日本には平安時代に入ってきた。3~4mほどに育つ木で、主に生け垣などに利用される。
夏から秋にかけて6~8cmほどの花を次々につけるが、花の色は白や紅、赤や紫などさまざまで、八重咲きのものもある。同じアオイ科に南国のハイビスカスがあるが、この花も一日花で、翌日にはきっちりとまかれた形で散り落ちる行儀のいい花だ。
ムクゲの花は食べられる
ムクゲは韓国の国花だが、根皮にはタンニンと粘液質、花にもサポニンと粘液質があり、また果実も朝天子という名で薬用にされる。
芭蕉の句に《道辺の木槿は馬にくはれけり》というのがあるが、ムクゲの花は食べられる。薬用のほかに山菜として利用する地方もあるのだ。
ためしに花をひとつ食べてみたら、かすかに甘く粘りがあった。ただ落ちるだけではもったいないね……と、家内に天ぷらにしてもらったが、粉着きが良くなくて、なんだか透明っぽく揚がった。塩をふって食べてみたら、粘りはあるが、特別な味はなかった。
夜咲く花で有名な月下美人の派手な花も、わずか2時間ほどでしおれてしまう。大きな花弁はうまそうだと思い、天ぷらにしてみたものの、何の味もしなかったことを思い出した。
ムクゲのつぼみは「木槿花」、樹皮は「木槿皮」という生薬で、漢方では下痢止めや解熱、水虫やたむしなどの薬にされるが、つぼみや樹皮などの処理は素人の手には負えないから、われわれは生け垣で摘んだ花の天ぷらぐらいでがまんするとしよう。
白や赤、紫など、花の色はさまざま。
花はとても行儀良く散り落ちる。
粘りはあるが特別な味はしなかった天ぷら。
きれいに巻いて散り落ちたハイビスカス。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
(BE-PAL 2023年9月号より)