福岡から鹿児島まで、鉄道や高速バスは使わずにローカルな路線バスだけを乗り継いで九州を縦断した。
3日間の旅で乗ったバスの数は23本。
日常生活でバスに乗る機会がほとんどないものだから、たくさんのバス停に立ち寄るスローな速度が新鮮だったし、読み方が難しいバス停の名前にも旅愁を感じた。
福岡県は西鉄バス、熊本は産交バス、鹿児島は南国交通というようにそれぞれの県内を網羅するバス会社を乗り継ぐ旅でもあったが、地域に根ざしたコミュニティーバスに乗車した時間が印象に残った。
痛快! 路線バスの旅
コミュニティーバスが運行している区間は、観光地とは無縁のローカルな土地ばかりだから、旅人はほとんど利用しない。バックパックを背負って見るからに旅人風の自分が乗車すると、運転手さんも乗客も不思議そうな表情を浮かべるものの、こちらから話しかけると温かく受け入れてくれて、とっておきの話が聞けたりする。それが痛快だった。
かつて僕は村営バスで日本の村を巡る旅をしたことがある。始発から終点まで村営バスに乗り、再びその村営バスに乗って出発点に戻るローカル色の濃い旅だ。バスにずっと乗っているわけだから、運転手さんと親しくなって会話が弾んだし、地元の人たちとも仲良くなれた(宮崎県の西米良村を旅したときは、言葉の意味が半分くらいしか理解できなかった)。普通の旅では通ることがない集落に入り込んでいけて、村の風景にも温かみを感じた。
乗り継ぎ時間を楽しむのもバス旅の醍醐味
ローカルな路線バスの旅は、待たされる旅でもある。効率よく乗り継ぎができず、バスを降りたら次のバスは2時間後、なんてことがざらにある。
次のバスまでどう過ごせばいいのだろう? 僕はスマホもケータイも持たない人間だから、時間を持て余す展開を覚悟していたのだが、実際はそうでもなかった。バス停周辺をふらふら歩くのがおもしろくて、気がつけば時間が経っていた。「何もしないぜいたくな時間」とでもいおうか、ボーッと過ごして次のバスを待つ自分に幸福を感じた。
JOMONさんのいる鹿児島へ到着
路線バスを乗り継いで鹿児島をめざす旅の目的は、JOMONさんこと縄文大工の雨宮国広さんとの再会だ。
縄文時代がそうだったように、JOMONさんは石斧だけで巨木を丸木舟に加工する体験教室を日本各地で開催している。北海道から沖縄まで、毎週末に47都道府県の各地で子供たちと丸木舟を作るプロジェクトを1年間続けていて、その46番目の開催地である鹿児島県を訪ねようと僕は考えた。
丸木舟にする巨木は、愛知県の山奥で育った樹齢200年を優に超えるスギだ。その巨木を石斧だけで寝かせる(木こりは木を倒すとは表現しない)作業にほんの少しだけ参加した僕は、沖縄に渡る前に全国各地のみんなの手で作られた丸木舟を見ておこうと、鹿児島県を訪ねることにしたのである。
みんなで作った丸木舟を見て沖縄へ行くことを決意
体験教室が開かれた鹿児島県の会場は、霧島市にある上野原縄文の森だ。縄文の遺跡があり、土器の展示や復元集落もあって、縄文の丸木舟づくりに最適な場所ともいえる。
駐車場の一角に設置された丸木舟を目にした瞬間、胸が震えた。愛知県の山奥で育った巨木が日本全国を縦断し、みんなの手で機械に頼らず丸木舟に進化したことに、素直に感動した。
丸木舟は鹿児島の体験教室が終わったあとは海を越えて沖縄に渡り、そこで最後の体験教室を終えてついに海に浮かぶ。山の神から命を授かったスギの巨木が、沖縄で海の神に迎えられるのだ。その瞬間をこの目で見たくなり、僕は沖縄まで出かける決意を固めた。
丸木舟を体験しに西湖へ行こう!
丸木舟が沖縄の海に浮かんだ瞬間を、僕がどう感じたか? それに関してはBE-PAL10月号の『シェルパ斉藤の旅の自由型』を読んでもらいたい。予想外の展開だった、とだけ記しておこう。
日本全国のみんなの手で作られた丸木舟は「ミンナ」と命名され、JOMONさんによって神聖なる進水式が行われた。進水式後はみんなが交代で「ミンナ」を漕ぎ、僕も体験させてもらったが、前後左右のバランスも、安定感もすばらしく、これなら次のステップである日本全国を航海するプロジェクトも成功するだろうと確信した。
さて、「ミンナ」がどんな舟か見てみたい。実際に乗って漕いでみたいと思った方。望みは叶いますよ。山梨県の西湖にあるキャンプ場、キャンプビレッジGNOME(ノーム)で9月9日から10月までの毎週末に試乗体験教室が開かれます。
予約申し込みは『JOMONさんがやってきた!プロジェクト事務局』(TEL090-8773-8173)まで。
またJOMONさんのプロジェクトへの支援もこちらからよろしくお願いします。