画家、写真家、ナチュラリストの奥山ひさし氏が美しいイラストと写真で身近な植物を紹介するコーナー。今回はマニア以外にも有名なトリカブトだ。
トリカブトとは
学名:Aconitum
キンポウゲ科の多年草。有毒。花は左右相称。青紫色の5枚の萼片の内部に蜜腺に変形した花弁がある。本州の山地や林縁に生えるヤマトリカブトは草丈60~150㎝、花柄に屈毛が生え、葉は五角形。
トリカブトは日本に30種ほど分布するが、種名の判別はとても難しい
毒草の代表とされるトリカブトは、アイヌの人たちが矢毒として狩猟に用いたことでも知られている。植物全体が有毒だが、もっとも毒性が強いのは根だ。
息子の友人で生き物好きの渡辺一生さんの案内で、日光の霧降高原近くの山へトリカブトを探しにいった。長野県の美ヶ原や、山形県の月山湖近くの山中で見たことはあるが、残念ながらここというたしかな場所は覚えていない。
だから、渡辺さんの案内で林縁に群生するトリカブトを見たときは、思わず歓声をあげた。ところが、山道の反対側の小さな沢のふちにも群生していて、あらためて渡辺さんの土地勘の良さに感謝した。
ここで見たトリカブトはヤマトリカブトで、草丈は1~1.5mほどあり、弓なりに曲がる茎の葉のわきに2~3輪ずつ青紫色の美しい花をつけていた。
トリカブトの名は、雅楽で使う帽子の「鳥兜」に似ていることからつけられたという。青紫色の美しい花は、じつは萼片で、本当の花は萼片の奥に隠れていて見えない。
春の山菜シーズンには、ニリンソウとトリカブトの若葉を間違える事故がときどきあるが、よく似た若葉の区別ができない人は、ニリンソウがつける白い花で見分けるといい。
トリカブトの毒はアコニチンというアルカロイド成分に由来する。根はもちろん、葉や茎や花、それになんと花粉や蜜にまでアコニチンが含まれることを覚えておこう。その毒性は強力で、量にもよるが、飲み込むと数分で呼吸が止まったり、心臓がおかしくなったりして死んでしまうという。
中国では、地下にできる根茎のうち地上部に直結する母根を、烏の頭に似たその形から「烏頭」と呼び、わきに育つ子根を「附子」と呼ぶ。どちらも漢方薬として、鎮痛や強壮、新陳代謝亢進などの薬にされる。
トリカブトの花や葉はどんな形?
青紫色の大きな花はじつは「萼片」だ。
なんと花粉や蜜にまで毒があるのだ。
山菜のニリンソウによく似た若葉。
白い花をつけたニリンソウ。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
(BE-PAL 2023年10月号より)