ファッション業界に一石を投じるエイミーの旅が始まる
1980年代と比較して、人々は3倍以上の服を購入。毎年、千億もの服がつくられ、その5分の3が購入した年に捨てられる。
ファッション産業がひとつの国だとすると、二酸化炭素排出量は、中国・アメリカについで世界で3番目に多い。ファッションは環境問題に直結している――。映画『ファッション・リイマジン』はまずファッション業界に関しての、驚きの事実を提示する。
そんな現状に、NO!を突きつけたのがエイミー・パウニー。現代美術家ダミアン・ハーストの妻だったマイア・ノーマンによって設立された「Mother of Pearl」のクリエイティブ・ディレクターだった。2017年、英国ファッション協議会と雑誌「VOGUE」によって英国最優秀新人デザイナーに選ばれた彼女は、その賞金である10万ポンドで、サスティナブルなコレクション「No
Frills(≒‟飾りはいらない”)」を立ち上げる。
オーガニックで追跡可能な原材料で、最小限の化学物質だけを使用し、最小限の地域で生産する。そんなコレクションは如何にすれば可能に? コレクション発表まで18ヵ月。エイミーの旅が始まる。
環境活動家の父親と「ひとりじゃ世界は変えられない。自分に何が出来るか見つけるの」と娘の背中を押す母親のもと、イギリスの片田舎で、電気やガスなどのインフラがない農場で育ったという彼女。新たなコレクションのために理想の原材料を求めるのも「やるなら徹底的に」。決してあきらめず、世界のあちこちを飛び回る。
でも、道のりはどこまでも厳しい。コットンシャツを例にとっても、綿花の種の遺伝子組み換え、綿花を育てるための農薬や化学肥料、染色のための化学染料、製品の輸送などなど。その工程すべてに目を凝らすと、ファッション業界が地球環境にどれほどの負荷を与えるかを思って気が遠くなってくる。なんとなく自然に優しいような気がするジーンズも「デニムは水を汚染する素材」とエイミー。1本を洗うのに1500リットルの水が必要で、それは一人の2年分の飲料水にあたる、と言われると、嘘でしょ!?みたいな気になる。
それがウールならヒツジの飼育の仕方、羊毛の刈り取り方、刈り取った羊毛を洗浄する方法にまで目を配る。ここまでくると、エイミーの挑戦が、もはや狂気の沙汰に思えてくる。同僚に、「出来ると思う?」と投げかけるエイミー。ぎりぎりの調整が続く。
つまり彼女の挑戦はファッションの造形だけでなく、原材料から流通まで、購入者の手元に届くまでの構造そのものを‟デザイン”すること。なんてクリエイティブ!
そうして出来上がったコレクションは、もちろんデザインそのものもステキ。グウィネス・パルトロウやシアーシャ・ローナン、エマ・トンプソンらハリウッド女優も顧客リストに名を連ねる。猛スピードで無限に生み出される服の中から、そうした一着を選びとって着る。一着一着が出来上がるまでの‟物語”に、それいい!と共感して身につけるという行為までが、創造的な作業だと思えてくる。
『ファッション・リイマジン』
(配給:フラッグ)
●監督/ベッキー・ハトナー ●9/22~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
©2022 Fashion Reimagined Ltd
文/浅見祥子