旅をしたり自然と触れ合うことを欲していても、なかなか時間が取れないことも。そんなときは、映画で心を満たしてみよう。この秋必見の、自然や生き物のドラマが楽しめる3本をご紹介!
CINEMA 01
人生に迷うミュージシャンの息子と、認知症で子供に戻ったような母との温かい旅
『草原に抱かれて』
(配給:パンドラ)
●監督・脚本/チャオ・スーシュエ
●出演/バドマ、イデル
●新宿K’s cinemaにて公開中、ほか全国順次公開
内モンゴル。都会のライブハウスで、ヒップホップと馬頭琴を融合させた音楽を奏でるミュージシャンのアルス。終演後、携帯の着信履歴に母の番号が。折り返した電話口から、「アルス? って誰?」と尋ねる声。離れて暮らす母は、認知症だった……。
故郷を舞台に映画を撮った、女性監督のデビュー作。まずは主人公のアルスが、認知症が進んだ母の、兄夫婦との暮らしを目撃する描写が。誰もが疲れきったさまを見かねて、母を故郷である草原の家に連れ帰ることを決意するアルス。「私の家には不思議な木があるのよ」、母の"思い出の木"を探す旅が始まる。
旅の風景はどこまでも続くモンゴルの草原。ゲル(天幕)での移動の生活は、ヤギやウシやヒツジがいたり、ときに地元の人と焚き火を囲んで音楽を奏でたりして優しい時間が流れる。そうする間も母の認知症は進み、アルスはあれこれ振り回されるハメに。母の最期が近づいたとき、アルスは旅の本当の意味合いを知る︱︱。夜空に浮かぶ星と焚き火の火の粉、アルスの奏でる音楽。幻想的で物悲しく、美しい余韻が待っている。
CINEMA 02
イラっとくるのに共感。知的で人嫌いな主婦が真の自分を取り戻す旅
『バーナデット ママは行方不明』
(配給:ロングライド)
●監督・脚本/リチャード・リンクレイター
●脚本/ホリー・ジェント、ヴィンス・パルモ
●出演/ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、
エマ・ネルソン、クリステン・ウィグ
●9/22~新宿ピカデリーほか全国公開
一流IT企業勤務の夫と中学生の娘と、シアトルで年代物の一軒家に暮らす主婦のバーナデット。人付き合いが苦手で旅行嫌いの彼女が、卒業祝いは南極旅行! と言い出す娘に右往左往。さらにイライラを増す事件が続発、心の病を指摘された彼女は姿を消す……。
実力派の監督&女優によるコミカルで奥深い人間ドラマ。肝はヒロインが実は、過去に天才と騒がれた芸術家であること。そんな彼女が南極に!? グリーンランドでロケを敢行。カヤックから見上げる氷山は本物!
CINEMA 03
パリに暮らす少女と子猫のルーの物語。猫ってカワイイ!
『ルー、パリで生まれた猫』
(配給:ギャガ)
●監督/ギヨーム・メダチェフスキ
●出演/キャプシーヌ・サンソン=ファブレス、
コリンヌ・マシエロ
●9/29~新宿ピカデリーほか全国順次公開
10歳のクレムは屋根裏でキジトラの子猫を見つけ、ルーと名づけて一緒に暮らし始める。夏、クレムは両親とルーと別荘へ。深い森でキラキラした時間を過ごすも、両親の不仲の気配が。やがて父が家を出る……。
ルーがしゃべったり、心の声が人間の言葉で聞こえたりはしない。フツーの猫同様に無邪気に遊び、人間のいろいろをじっと見つめるだけ。それで人間は、ウィンクした!? 返事したよね? と猫の心を深読みすることに。家族みたいな親友みたいな猫のいる幸せ。
※構成/浅見祥子
(BE-PAL 2023年10月号より)