東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。第12座目は、東京都品川区にある「品川富士」です。
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第12座目「品川富士」
江戸時代 、富士山を信仰する富士講(ふじこう)が盛んになります。しかし、現在と違って当時は、簡単に富士山に行くことも富士登山を行うこともできません。そこで、江戸とその周辺地域に富士山に似せた人工的な山がたくさんつくられました。それが「富士塚(ふじづか)」で、江戸時代には「お富士さん」などと呼ばれて親しまれていたのだとか。現代では「ミニチュア富士」(ミニ富士)などとも呼ばれることがあるそうです。
富士塚は、もともとあった丘や古墳を利用して富士山に見立てたり、富士山から持ち帰った溶岩を積み上げてつくったものなどがあります。時代とともに姿を消した富士塚もありますが、今なお健在のものもあり、実際に登れるところもあります。また、富士塚の名称は、地名などの後ろに富士をつけて「〇〇富士」と呼ばれることが多いようです。そして、品川区には、その名も「品川富士」が存在します。今回は、そんな品川のミニ富士を登攀したいと思います。
滑落注意な急登の先に広がる景色
今回も登山口は、JR品川駅高輪口。八ツ山橋周辺までは、FILE.11の権現山、FILE.12御殿山と同じ道のりになります。八ツ山橋を渡り、京急線の踏切を超えて旧東海道をしばらく歩き、再び京急線の踏切を超えて第一京浜の歩道橋を登るまでは権現山と同じ道のりです。
今日も休みか…。実は前々回の権現山を歩いたときに、歩道橋のすぐ近くにある「喫茶・軽食 この路」さんが気になっていたのです。その日は日曜で休みかと思っていたので、品川富士は平日に来てみることにしたのですが、残念ながらこの日もお休みでした。いつ開いているのかな…、「この路特製梅酒」がとっても気になります。「この路」に関する情報ご存じの方はお知らせください!
さて、第一京浜を真っすぐ進んでいきます。「東海七福神」の案内板が立っていました。そんなのもあるのですね。権現山に行く途中で通った品川女子学院の生徒さんが整備しているようです。さすが東海道のおひざ元。探してみるといろいろな発見もあるのかもしれませんね。
そのまましばらく歩くと、品川神社の大きな鳥居と急な階段が見えてきます。品川富士は、この品川神社の敷地内にあります。平坦な道から一転、急登が始まります。
急登を登っていくと、中腹あたりでしょうか、一息つきたくなる場所に富士塚の山門がありました。当初は気付かず、登り切ってから左にトラバースして富士塚入り口へ行ったのですが、そこからだと5合目からの登りになります。中腹の山門からだと、きちんと1合目から登ることができます。
5合目から更に斜度が急になっていきます。道幅も狭く、人がすれ違えるスペースはありません。滑落に要注意です。
山頂からは北品川の景色が一望できます。かつては、この富士塚の山頂からも、本物の富士山を眺めることが出来たそうです。標高約15mの品川富士ですが、立派に「山」でした。
ナイトハイクのススメ
品川富士の山頂に立ち、ふと思いました。ここって夜景がキレイじゃないかな?
次の用事があったため、夕方に出直すことにしました。品川駅からだと15分ほど歩くため、夜はより近い登山口である京急本線北品川駅から歩くことにしました。薄暗くなるころ、動画撮影用のINSTA360xを長い棒に取り付けて歩きます。歩行者にチラチラ見られるのは夕方でも一緒です。徐々に暗くなる中を歩くのですが、大通りがルートなので安心です。
品川神社に入ると、やはり薄暗い感じです。カメラのライトをONにし、参道を登っていきます。
おおっ、めっちゃキレイ!
何だか郊外から町を眺めるような景色です。でも、ここは東京都心の品川。目の前を時おり通る京急の列車も、第一京浜を走る車も、全てが夜景として山頂からの眺めに溶け込んでいます。微風が吹いて適度に涼しい品川富士の山頂は心地よく、しばらく眼下の夜景を見つめていました。かつては、ここから東京湾も見通せたのかな。
気軽に安全にナイトハイクや都会の夜景を楽しむことができるのも、東京の山だからこそ、ですね。なお、登山道は急で明かりもありませんので、ナイトハイクをされる際にはしっかり足元を照らすライトをご持参ください。
次回は「中央区にひしめく5座」を予定しています。
なお、今回紹介したルートを登った様子は、動画でご覧いただけます。