シンプルな車中泊仕様車が人気
イタリアの商用車、フィアット・デュカトの上陸でワンサイズ上の新型バンコンが多く登場する一方、日産の車中泊コンセプトカーの市販化が話題となるなど、居住性に特化したシンプルな車中泊仕様車も注目を集めています。
キャンピングカーを構成する二大要素、ベッドとギャレー(キッチン)ですが、旅のスタイルによって優先度や使用頻度がまったく異なるのが後者の炊事設備です。
8ナンバーにこだわらず、ギャレーを不要と考えるならコストカットにつながり、より自由なレイアウトが可能となります。今回は水道設備の必要性について考えてみたいと思います。
8ナンバー登録には水道設備が必須
キャンピングカー(特種用途自動車)として8ナンバーを取得するには、平坦なベッドや加熱調理設備などいくつかの条件がありますが、水道設備もそのひとつです。
構造要件として各10リットル以上の給排水タンクを備え、障害物などなく人がシンクに向かえるレイアウトになっていなければなりません。使用時に人が立てる天井高(1,600mm)も求められていましたが、2022年の法改正で850mm以下の背の低い調理台なら1,200mmの天井高でOKとなり、コンパクトサイズのキャンピングカーが造りやすくなりました。
8ナンバー登録を考えるなら、選択の余地はなく水道設備が必要となります。上記の配置基準のほか、水タンクは簡単に交換ができる位置になければ不便ですから、車内レイアウトは一定の制約を受けます。
キャンピングカーの水道設備の特徴
バンコンや軽キャンパーではポリタンクを取り外しでき、家庭の水道などから水を補充するタイプが主流です。災害時などには水を汲む容器として流用できるほか、汚れたらポリタンクだけ簡単に交換できるのが利点です。サブバッテリーから電源をとり、電動ポンプで水を汲み上げます。
輸入車や温水シャワーつきモデルなど、多くの水を必要とするキャンピングカーでは備えつけタンクの場合もあります。床下などに100リットルを超える大型タンクがあり、車外から給排水します。
ノズルを車外にまで伸ばせるシャワーヘッドもよく見かけます。キャンプ時など、車外にアウトドアキッチンを展開するときや、外遊びの後始末に便利です。
ただし、国産モデルの場合は特別な記載がなければ水シャワーです。温水シャワーを希望する場合は、湯沸かし設備が別途必要となるなど、かなり大がかりな装備になります。
容量は前述のとおり10リットル以上必要ですが、手で持ち運ぶことを考えると20リットル程度が現実的でしょう。
東京都水道局によると洗顔のため1分間、蛇口を開けた場合の水使用量は約12リットル。キャンピングカーでは家庭用ほど水圧が高くないためここまで早くはありませんが、10リットルの容量はあっという間に使い切ってしまいます。
必要な分だけさっと使い、さっと止める。流しっ放しにはしない、というのが基本の使い方になります。
旅行後は排水の処理が必要です。シンクにつながる生活排水タンクのことをグレータンクと呼び、トイレの排水であるブラックタンクと区別しています。グレータンクであっても公共の洗面所や側溝などに流すのはNG。自宅やRVパークで処理するのが原則です。
なお、汲み置き水となるため飲用は推奨されていません。構造上、ポンプやホース内を完全に洗浄したり乾燥させたりすることは容易ではなく、使用のたびに分解清掃するのも現実的ではありません。
とくにキャンピングカーでは、使用から次の使用まで期間が空くことも多いので、飲用水や調理用水は別途用意するのがよいでしょう。
水道設備のメリット
具体的な使用シーンを考えてみましょう。前述のとおりタンク容量が限られるので流しっ放しにはできません。また、処理できるタイミングまで排水を溜めておくことを考えると、タンク内に腐りやすいものが流れるような使い方も避けた方がよいでしょう。
主な用途としては手洗いや歯みがき、シャワーヘッドを車外に伸ばせるタイプならペットや子どもの足洗い。サンダルなどちょっとした小物の砂を流してから車内に持ち込みたい場面にも重宝するはずです。
食器を洗うなら、事前に食べかすなどを拭き取って仕上げ洗いに留めるか、水切りネットをかけるのがおすすめです。野外調理をするユーザー向けに、車外にギャレーを引き出せるユニークなモデルもあります。
ただし、ここに挙げた用途はほとんどが市販のミネラルウォーターやウェットティッシュで代用できるもの。水道水を溜めるならキャンプ用のウォータージャグがたくさん市販されていますし、所定のボトルに給水できるイオングループの会員向けサービスなどもあります。
私の考えでは、キャンピングカーで真価を発揮するのは排水タンクです。たとえば車内で歯みがきをしたときや、コンタクトレンズを装着したとき、コンビニエンスストアで買ったカップドリンクの氷が溶け残ってしまったとき。
私はポータブルトイレ「ラップポン」で排水を固めたりもしますが、何リットルもは対応できません。水量を気にしながら、ペットボトルからちょろちょろと水を流してコンタクトレンズや歯ブラシを洗うのはなかなかストレスでした。
排水タンクに水を溜めて、後で一気に処理できるなら便利です。外が悪天候だったり、冬季だったりすると、より恩恵が感じられます。
ただし、給水量と排水量が一致する通常の使い方と違い、ペットボトルなどから水を流すとどれくらい排水が溜まっているかわかりにくくなるので、タンクの残量に気を配る必要があります。
水道設備をなくした場合のメリット
逆に8ナンバーにこだわらず、シンクをレスにするメリットはどこにあるでしょうか。
前述のとおりシンク、電動ポンプ、2つの水タンクで構成され、正面に人が向き合うスペースを必要とする水道設備は、それなりの面積を必要とします。キャビネットがひとつ占有されるイメージです。
ビルダー各社でも、使わないときはフタをしてカウンターとして使えるようにするなど工夫を凝らしていますが、ボディーサイズの小さい軽キャンパーやバンコンでは影響は少なくありません。
まったく使用予定がないなら、思いきってシンクをカットした方が空間を有効活用できます。
また、水回りは汚れやすく、使用後には必ず手入れが必要であることも見逃せません。こまめに洗浄・消毒することが求められるほか、よく乾燥させることも大事です。
長期休暇などたまにしかキャンピングカーに乗らない、帰宅後の手入れが面倒に感じる、といった人はメリットよりもデメリットが上回るかもしれません。
排水の処理ができない環境だと水の使用量に上限があることにも注意が必要です。長旅では定期的にキャンプ場やRVパークに立ち寄る必要が出てきます。ガソリンスタンドで処理してもらえたという例もありますが、あくまで厚意であり必ず可能なわけではありません。
人によって必要性がきっぱり分かれる水道設備
いずれにしても10リットル程度の容量だと、水を出しっ放しにして身体やキャンプギアをざぶざぶ洗うような使い方はできない点に注意が必要です。アウトドアレジャーや食器洗いなどでの本格使用が目的なら、タンク容量アップも検討したいところ。
車内で歯みがきを完結させるなど、ちょっとした身支度が目的なら10リットルサイズでも実用可能です。手入れの手間や、車内スペースと天秤にかけて搭載を検討したいです。
逆にフットワーク軽く車外の公共トイレや炊事場などに出かけられるタイプの人にとっては無用の長物となるかもしれません。就寝機能に特化し、水道設備を置かない車中泊仕様車は今後も一定のシェアを占めると思われます。
私は長らく「シンクは必要ない」「搭載していても使わない」という考えだったのですが、最近になって排水タンクの便利さに開眼。手入れの手間と利便性、どちらを優先するか悩ましいところです。