救助犬の仲間たちのものがたり~エムとクレア編【災害救助犬コアと家族の日記 Vol.7】
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    2023.10.22

    救助犬の仲間たちのものがたり~エムとクレア編【災害救助犬コアと家族の日記 Vol.7】

    コアと私は、キャンプに行ったりトレッキングをしたり楽しい時間を一緒に過ごす家族。そしてまた、災害救助犬とハンドラーとして、日々、訓練を重ねるパートナーです。

    (これまでの「災害救助犬コア」の記事はこちら

    そんな私たちと同じように、規模の大きい団体などに所属 しておらず、目立たないけれど頑張っているハンドラーと救助犬のペアはたくさんいます。それぞれのペアにリスペクトするところがあり、ドラマがあります。

    この連載では、そんなペアにスポットを当てた「救助犬の仲間たちのものがたり」も書いていきたいと思っています。

    今回は、ハンドラーのつるみゆきさんとべテラン救助犬のエム(ドーベルマンミックス)、新米救助犬のクレア(ラブラドールレトリーバー)を紹介します。

    瓦礫捜索訓練中のエム。

    エムの名前の由来はマグニチュードのエム

    この連載の第1回で、私とコアが災害救助犬の訓練を始めるきっかけは、友人の救助犬の訓練のお手伝いに行ったことだと書きましたが、その友人の犬がドーベルマンミックスのエムです。

     エムはコアよりだいぶ年上ですが、大の仲良し。コアはボールが宝物ですが、エムにだけは自分のボールを譲ってあげます。ひっぱりっこも自分より力の弱いエムに合わせて、最後は負けてあげることがあります。つるみさんと私はそんな様子を見て「エムちゃんは美魔女だね」と笑っています。

    訓練の合間に仲良く遊ぶコアとエム。

    エムはもともと工場の空き地で放浪していた生後半年くらいの野良犬で、当時、保護犬の一時預かりボランティアをしていたつるみゆきさんが保護していました。 見目麗しく、最初は「レナ」と名付けられた子犬は、実はとてつもなくハイパーアクティブで、クレート、 カーテン、家具、窓ガラス、シートべルト、リードと何でも破壊する様子から、マグニチュードのMから取って「エムちゃん」と呼ばれるようになります。

    エムはとにかくエネルギッシュで美しい!

    つるみさんが都内で保護犬のセミナーを受講するため、私が前日からエムを預かることになったのが2011年3月10日のこと。その頃まだコアは生まれておらず、我が家にはシェパードのミックス犬、ルーキーがいました。犬見知りのルーキーでしたが、元気いっぱいで屈託のないエムを気に入り、とても可愛がっていました。そして翌日、3.11東日本大震災が起こります。

    私はルーキーとエムにリードを着け、広い空地へ避難しました。電柱や停めてある車がぐわんぐわん揺れ動き、私もルーキーも恐ろしく心細い思いでしたが、エムはみんなで外に出られたのが嬉しいらしく、ルーキーにキャッキャッとじゃれついていました。

    揺れが収まってから自宅に戻るものの、大きな余震が続き、その度に空き地に避難しました。つるみさんとも家族とも全く電話が繋がらず、近所も騒然としていていましたが、我が家ではエムがカーテンをびりびりに破いたり、ふすまをつき破ったり、台所のシンクに飛び乗ったりと大暴れ。

    私はそんなエムの対応に追われ、震災への不安をあまり感じずに過ごせました。 まさか、エムが災害救助犬になるとはこの時は思いもしませんでした。

    3.11当日のルーキーとまだ子犬っぽさの残るエム。

    出会った頃のつるみさんは、いつも温和で、優しい表情でふんわりしたりロングスカートをひらひらさせて、保護犬たちと公園を散歩していました。仕事は絵本作家であると聞いて、ぴったりの雰囲気だと思いました。

    そんなつるみさんはハイパーアクティブなエムが来てからというもの、毎日がてんてこ舞い。散歩に来ている公園で、 無邪気過ぎるエムの行動に対し、いつも誰かに「ごめんなさい」と謝っていたのを覚えています。 そんなつるみさんが、紆余曲折の末、エムと災害救助犬を目指すことになります。

    エム、災害救助犬を目指す 

    預かりボランティアとして、それまで30頭近い保護犬の面倒を見てきたつるみさん。その経験から、ハイパー過ぎるエムをこのままでは里親さんに譲渡することはできないと思い、いろいろトレーニングを試みたと言います。

    半年ほど経ち「この子は私が責任持って育てよう」と正式に譲渡手続きをして、エムはつるみさんの家族になりました。

    「このエネルギーを良い方向に向けなければ、ただの問題犬になってしまう」。と思案していたところ、通っていたドッグランに来ていた訓練士さんが、救助犬の初歩のレクチャーをしていました。参加してみたところエムがとても楽しそうだったので、救助犬をやってみようと思ったそうです。

    訓練中のエムは生き生きして楽しそう。

    始めたきっかけはエムのためでしたが、つるみさん自身もとても楽しくて、いつの間にかどっぷりはまってしまいました。

    「犬がどう鼻を使っているか、訓練のときに要救助者役になってくれるヘルパーをどう隠したら犬がどう行動する か、答えを知らないものを探求して、みんなで考えて、いろいろチャレンジすることにわくわくしました。また人間にはできないこともできる犬に教えてもらうこともとても多く、犬を尊敬することもできました」。そう話すつるみさんの顔は輝いていました。

    そして、「救助犬を始める前は、エムが知らない犬に遊びたくて勢いよく飛びかかったり、他の犬のおもちゃを取ってしまったりいつも『ごめんなさい』と謝ってばかりでした。それが救助犬を始めてから、ありがとうと言う機会が増えたのがとても嬉しかったです」とも。

     訓練で私たちをサポートしてくれるヘルパーに「ありがとう」。ハンドラーから一緒に捜索してくれた犬に「ありがとう」。ヘルパーから見つけてくれた犬に「ありがとう」。そんな現場でかけられる「ありがとう」という心からの感謝は犬にも伝わり、犬が自信を持つことができるのだと思います。

    つるみさんの表情に犬への尊敬と感謝と愛を感じます。

    現場で大活躍するハンドラーとエムと、後継犬クレア

    エムの初めての実働は2014年8月、豪雨による広島市の土砂災害でした。エムは現場の空気を察知し、しかし、その張り詰めた空気にのまれることもなく、訓練時以上にしっかり捜索し成果を残しました。

    「初めての現場では自分が行ってもいいのかとも思いました。でも何とかして見つけてあげたいという気持ちが強かった。そんな初めての実働でいちばん感じたのは自分の未熟さで、もっと学んでいきたいと思いました」とつるみさん。この時の思いから、犬との捜索訓練だけでなく、つるみさん自身も捜索について学んできました。

    私とコアの初めての実働となった熱海市伊豆山土石流災害(2021年7月)では、先輩ハンドラーであるつるみさんが事前に捜索のための地図を作成し、地形や天候を考慮して作戦を練っており、同じエリアで活動をする消防隊の方とも自信を持って話していて、すごいなと思いました。

    ベテラン救助犬のエムも、たくさんの救助隊員たちに囲まれて緊迫した空気の中でも全く動じず、落ち着いて捜索をしました。

    広島市土砂災害の捜索に出動したエム。

    熱海市伊豆山土石流災害の捜索現場で捜索するエム。

    災害救助犬は10歳前後で実働を引退します。救助犬として活躍してきたエムが8歳になった頃、エムの後継となる犬を探していたつるみさんは「クレア」と出会います。

    盲導犬候補生として頑張っていたクレアでしたが、元気がありすぎて盲導犬には向いておらず、 キャリアチェンジ犬として、『いばらき盲導犬協会』からつるみさんが譲り受けました。 先住犬のエムに鍛えられて救助犬を目指し、2 歳で認定試験にみごとに合格。現在すくすく成長中です。

    瓦礫捜索訓練中のクレア。

    ラブラドールレトリーバーのクレアはかなりの食いしん坊。つるみさんの庭でたけのこ狩りをした時のこと。掘り出した生のたけのこをガジガジかじり始めました。それを見たコアが「おいしいの?」とひと口かじりますが、エグかったようですぐにペッと吐き出していました。

    そんなクレアの捜索訓練のごほうびには茹でたお肉を使っています。特別なごほうびに食いしん坊なクレアの捜索モチベーションはうなぎ上りです。

    食いしん坊なクレア。生のたけのこは消化に良くないので、私たちが美味しくいただきました。

    生き生きできる場所を探して 

    クレアはキャリアチェンジをし、盲導犬としては向いていなかった”元気すぎ”の資質が、救助犬としては”意欲的”と評価され、能力を発揮。つるみさんと実働に向けて訓練をがんばっています。 そんなクレアに『いばらき盲導犬協会』からメッセージをいただきました。

    「心底楽しそうに作業をしているクレアの様子を拝見すると、クレアが自分の好きな道を見つけられたことをとても嬉しく思うと同時に、クレアを導いてくださったつるみさんにとても感謝しています」。

    人も犬も何かにつまずいても、それぞれの適性にあった場所、自分の好きなものに巡り合うことで、生き生きと輝くことができるのだと思います。これからのクレアの活躍がとても楽しみです。

    小学校で救助犬のデモンストレーションするクレア。

    取材協力:いばらき盲導犬協会

    シニアになったエム、現場は引退しても大事な家族

    災害現場の他、行方不明者捜索などで活躍したエムもこの秋13歳。実働こそ引退していますが、今もコアやクレアと一緒に捜索訓練をしたり、防災イベントに参加して、防災に関する普及・啓発活動をしています。

    「作業犬は可愛そうと言われることもありますが、捜索する時はとても生き生きしています。13歳になったエムは、やはり体力は落ちてしまいましたが、捜索訓練を続けているので気持ちと頭脳はしっかりしています。

    現場は引退しても最後の日が来るまで、エムがやりたいと思っている限り、安全な場所で捜索訓練を続けてあげたいと思っています。そして、長生きして私たちのそばにいてほしいです」とつるみさん。

    「救助犬は引退後どうなるの?」と聞かれることがありますが、作業犬である前に家族なので、引退しても変わらず家族として過ごします。犬は大昔から人間とともに狩猟をするなど、良きパートナーでいてくれました。私たち人間も犬達にとって良き友人、家族でありたいと、つるみさんとエム、クレアを見ているとあらためて思います。   

    自然いっぱいのおうちで姉妹として暮らすエムとクレア。

     つるみゆきさんを紹介します! 

    ここまで読んでいただけた方は、つるみさんのやさしいお人柄を感じられたと思います。絵本作家であるつるみさんはたくさんの絵本を描いていらっしゃいますが、私のいちばんのお薦めは『おじいさんとクリスマスのほし』。美しい絵と、おじいさんと動物たちの紡ぐやさしい世界は読むたびに心が温かくなる一冊です。

    おじいさんとクリスマスのほし(至光社)

    絵本作家・つるみゆきHP

    そしてもうひとつ。たくさん遊んで勉強したある夜のこと、つるみさんの足もとに眠るエムとクレア。いつもはクレアを リードしているエムが、クレアに寄り添っているところが愛おしくて、思わず絵筆をとったという素敵なイラストで始まる災害救助犬の活動を綴ったHP 『エムクレとならどこまでも~エム姉さんと妹クレアの救助犬ライフ』もぜひご覧ください。

    青山防災デーにコア、エム、クレアが参加します!

    近くにお立ち寄りの際は、ぜひ会いにきていただけるとうれしいです!

    日時 :2023年10 月 28 日(土) 災害救助犬デモ 13:00~13:30
    ※雨天の場合は 29 日(日)に延期 

    場所:東京都立 青山公園北地区、港区立青葉公園

    交通案内:東京メトロ銀座線・半蔵門線、都営地下鉄大江戸線「青山一丁目」 徒歩5分
    ※駐車場はありませんので、公共交通機関でお越しください

    遊びにきてくださいね!

    私が書きました!
    救助犬ハンドラー
    かとう まさみ

    子供の頃から動物とアウトドアが大好き。ロサンゼルスのアニマル・シェルターでボランティア・スタッフをしながら犬のことを学ぶ。コアとお互いに良いバディでありたいと日々奮闘中。コアのHPはこちら。https://white-search-and-rescue-dog.jimdosite.com

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