「お~い、有紀夫。なんでこんなところにきちゃったんだよ~」私の頭の中でサブ人格の柳沢有紀夫Bが文句を言い続けています。
「しょうがないだろ。画像とかビデオを見たときには無茶苦茶楽しそうだったんだから」
柳沢有紀夫Aこと、メイン人格の私も言い返します。
「ここに登ってくるまでも無茶苦茶大変だったじゃないか」
「だけどあれ、3分くらいしかかかっていないぞ」
「えっ、そうなのか?」
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。なんで私が日曜劇場『VAVANT』(TBSテレビ系)の主人公・乃木憂助ばりに別人格とバトルを繰り広げているかというと……。
はい、こういうところに来ちゃったんですよ。
場所は、私が住むオーストラリア第3の都市ブリスベンの港から船で75分のところにあるモートン島の「ザ・デザート」。「うわっ、グルメレポ?」のほうじゃなくて「砂漠」のほうのデザートですね。ここで「砂すべり」ができると聞いてやってきたわけです。
ダイビングヘッドばりの「サンドボード」
みなさん、「砂すべり」と聞くと、「あっ、砂の上で雪上のソリすべりみたいなことができるわけ?」と思うかもしれません。半分正解で半分不正解。というのは着座の仕方が違うというか……そもそも着「座」しないんです。
はい、のんきに座るのが基本のソリとは違い、サッカーのダイビングヘッドばりに頭から突っ込むわけです。
事前に画像や動画を見てわかってはいたのですが、いざその場に立ってみて、その様子を目の当たりにすると、やはりビビるわけです。
では、ここで実際の砂すべりではなく、その前の様子をご紹介しましょう。「現実逃避」ではありません。「状況説明」ってやつです。
この砂すべりのアクティビティを催行しているのは、このモートン島にある「タンガルーマ・アイランドリゾート」。
で、ここで「デザートサファリツアー」というものに申し込むと、この「砂すべり」が楽しめます。というか「サファリツアー」というと「ほらっ、あそこに〇〇がいますっ!」みたいな「野生動物発見」を想像する方も多いと思いますが、そういう要素はなくひたすら「砂すべり」を満喫するのがこのツアー。
ちなみに、砂すべりのことは「サンドボード」と称されています。はいつくばって波に乗るボディボードのような感じだからかもしれません。
さて、ツアーのスタートは4WDのバスへの乗車。なんで4WDかというと、ここは世界で3番目に大きな砂でできた島だから。四輪駆動でないとスタックするんですね。
バスのドライバー兼ガイドのウェインさんの説明によると、この島の97パーセントは砂でできていて、残りの3パーセントは火山性の溶岩とのこと。ちなみに、世界で1番目と2番目に大きい砂でできた島もオーストラリアにあって、「砂の島王国」というか、オリンピックなら表彰台独占状態です。
そして、この4WDのバスに揺られること(はい、文字通り揺られます。なんたって途中までは舗装道路ですが、そのあとは砂地の道ですから)15分。いよいよ、砂漠に到着です。というか砂丘?
怪我の功名と興奮の滑空体験
ここで、「砂漠と砂丘ってどう違うんだろ?」という疑問が砂嵐のように巻き起こりました。メイン人格の柳沢有紀夫Aだと「まっ、いっか」で過ごしちゃったりするのですが、サブ人格の柳沢有紀夫Bは意外と勉強家だったりするので調べてみたところ、「砂丘」というのは風で運ばれた砂が堆積して「丘」状になった「地形」のこと。
一方の「砂漠」というのは、降水量が極めて少ないため、植物がまったくまたはまばらにしか生えていない「場所」。ちなみに、砂漠というと「砂」をイメージしがちですが、岩だらけの「岩石砂漠」のほうが多いそうです。
さて、バスが到着したあと、ドライバー兼ガイドのウェインさんが注意事項を説明してくれます。
「サンドボードはこの薄い板です。メガネやサングラスがある方はそれでいいですが、お持ちでない方は水中メガネも無料で貸し出します。すべっているうちに目に砂が入るのを防ぐためです。ただし、大切なことがひとつあります。水中メガネは丘の上に登って、すべる直前につけること。最初からつけていると、みなさんがすべっている途中に見るものは砂や景色ではなく、汗だけになりますから」
ここで爆笑。ウェインさん、なかなかの話し上手です。
「ボードにはこういう感じで腹ばいになって乗ります」と、実際に乗って見せるウェインさん。
「このとき大事なのは、ボードの先端ではなく手前に顔が来るようにしてください。そうやって乗ると、手で持ち上げて反ったボードがガードになって顔に砂が当たるのが避けられますが……」。ここでウェインさん、体全体をボードの先端のほうに移動。そして……。
「こうやって先端に乗ると、ボードが砂をガードしてくれないので、こんなふうに」と、砂を自分の顔にかけるウェインさん。「顔中砂だらけになります」。説明を聞いていた参加者みんなで大爆笑。ガイドさんはエンターティナーであることが重要です。
そして、いよいよ砂丘の上に向かいます。ウェインさんによると「隊列を乱さず、前の人の踏み跡に足を乗せるようにしてください。そのほうが何倍もラクですから」。雪山のトレースの要領ですね。
ただ、それでも斜面が急になるにつれ、「30cm前に出した足が25cmずれ落ちてくる」という「365歩のマーチ」状態に陥ったりします。……若い読者のみなさん、毎度毎度たとえがわかりにくくてすみません。
そんなわけで「這う這うの体(ほうほうのてい)」で砂丘のてっぺんに到着したわけですが、あとで確認してみたところ、登頂に要する時間はわずか3分ほど。
それで「這う這うの体」という気分になるのは、やっぱり「30cm前に出した足が25cmずれ落ちてくる」という「全然進まないじゃん感」がボディーブローのように効いてくるからだと思います。まるでサンドバッグになった気分です。…うまいこと言ったような気分に一瞬なりましたが、そうでもなかった。笑
さてさて、砂丘のてっぺんに到着したので、再び冒頭の場面に戻りましょう。
「お~い、有紀夫。どうするんだよ。おまえ、高所恐怖症でパニックになるってほどではないにせよ、高度感があるところ苦手だよな」
私の頭の中でサブ人格の柳沢有紀夫Bが、他人にはほとんど伝えていない私のトップシークレットをズバズバと指摘します。さすがは別人格とはいえ本人です。
「…うん。けど眺めはいいし…」
「あとスピード感があるものも苦手だよな? 時速30kmくらいになるって話だぞ!」
「時速30km…。あっ、けど新幹線の10分の1くらいだね」
「新幹線と比べてどうすんだよ! っていうか、この先、どうすんだよ!」
「歩いて戻るっていう手もないわけじゃない」
「恥ずかしいだろ、それ! 小学生くらいの子も平気でやってるのに」
そんな感じで砂丘のてっぺんでパニック界の頂点に立っている間に、とうとう自分の番に。判断力がまさに砂上の楼閣のように消え去ってしまった私、柳沢有紀夫A。持ってきたボードをそこで待っていたウェインさんに渡し、彼がボード裏面にろう(ろうそくの「ろう」です)を塗りたくるのを黙って見つめ、砂の上に置かれたボードに言われるがままでうつぶせに乗っていました。
「はい、ボードの先端を反らせて、肘をあげて。オッケーオッケー。じゃあ行くよ~」
うわ~~~~っ! ウェインさんに両足を押された私は、いつのまにか中森明菜さんのヒット曲「DESIRE –情熱–」のように真っ逆さまに落ちていたわけです。いや、真っ逆さまじゃないか。あと、相変わらず例がわかりにくくて、若い読者のみなさん、すみません。
ただ、ここで私はお得意の大失敗をしてしまいました。事前の説明の際、ウェインさんはこうも言っていました。「キャップ(帽子)はすべっている最中に風圧で飛んでいっちゃうから、ボードと体の間に挟むようにしてください。あっ、だけどあなたのような」。ここで私のほうを指さします。「あご紐がついたハット(つばあり帽子)なら飛んでいかないのでだいじょうぶです!」
なんか珍しく褒められたような気分になって(実際は全然褒められていないです。笑)、私はハットをかぶったまますべったわけですが…ソフトタイプのハットだから風圧でつばが下側に折れ曲がって視界を完全にさえぎった~。笑
というわけで、15秒ほどの落下の最初の2秒くらいを除き、あとはずっと何も見えない「お先真っ暗」状態でした。ボードの先端を手で反らせていないといけないので、つばが折れる方向を上側にするわけにもいかないし。
ただし、これは「怪我の功名」でもあったのです! 視界が遮られたので苦手な高度感はまったく感じられない。スピード感はそれなりにあったのですが、「ちょっとスリリング。だけど無茶苦茶楽しいじゃん! 最高じゃん!」と思えるレベル。
…あたりまえです。ちゃんとしたリゾートがヘルメットや防具もなしに体験させるアクティビティですから、危険なことはないのです。というわけで。
はい、すぐに2回目の登頂を始めました。制限時間内であれば何度すべってもいいので。
今度は帽子をボードとおなかの間に挟んでゴー! きちんと何が起こっているのかを見ながらすべったのですが、視界が遮られた1回目よりもさらに楽しめました。時速30kmとは思えないスピード感! なんというか、海の表面近くにいる魚を見つけて滑空していく鳥になったような気分?
興奮冷めやらぬまま、気がつくと3回目の登頂の列に。笑
てっぺんでウェインが「今度は逆向きやってみる?」。そう、今までの「うつぶせ」は基本形ですが、「あおむけ」という応用編があるのです。ボードを背にして両手は頭の後ろでボードを持って反らせて、両脚は地面から少し上げて。床から両足を10cm浮かせて、しばらくその姿勢を保つ腹筋運動がありますが、ちょうどそんな感じです。
「じゃあ行くよ~」
ウェインさんに両足を押されて滑降開始。うわわわわっ、なんじゃこりゃあ! 視界に入る空の景色は変わらないので、すごいスピードですべっていく。「うつぶせすべり」とは違った不思議な感覚に、終わったあと爆笑していました。
というわけで、最初は怖かったのに、やってみたら無茶苦茶楽しかった「砂すべり」でした。まさに『VAVANT』級のどんでん返しです! ちなみに、1時間ほどの滞在時間中には何度でもすべっていいので、参加している若者の中には5回もやる猛者もいました。
このあと日暮れから野生のイルカの餌付けを体験したのですが、しっかり紹介するスペースがなくなったのでいつかまた別の機会に。
「タンガルー・アイランドマリゾート」には、他にも「四輪駆動バイクでビーチや砂地を疾走する」とか「沈没船の周辺でそこをすみかにしている魚たちを見ながらシュノーケリングする」とか、「BE-PAL」読者のみなさんが気になるアクティビティが盛りだくさん。ぜひ下記のホームページをチェックしてみてください。
しかし、以前の「乗馬ならぬ乗ラクダ」の記事同様、最近なんだか『VAVANT』づいている私です。あと、やっていないアクティビティと言えば…公安にマークされるくらいかな?
タンガルーマ・アイランドマリゾート(Tangalooma Island Resort)日本語ウェブサイト
https://www.tangalooma.com/?lang=ja-jp
オーストラリア在住ライター(海外書き人クラブ)
柳沢有紀夫