③川に入って仕掛けの回収
魚を刺激しないようススキの穂を手繰り、獲物を回収する。心地よい引きにどきどきわくわく……する瞬間だ!
熱田さんは忍者のように姿勢を低くして川に近づき、ススキの穂をそっと淵に投げ入れる。のぞき込むと、ススキがぴくぴく揺れたかと思うやいなや、きゅーっと水底に引き込まれた。仕掛けの先には15㎝ほどの立派なカワムツがついている!
サルのように奇声をあげて川に入り、ススキを回収。穂を揺らす魚信が心地いい。そうしてカワムツを手にとると、懐かしい川魚のにおいがした。
「これは、竿を買ってもらえなかった小学2年生のときに編みだした技なんです」と、熱田さん。
人影を見ると逃げるカワムツも、流れくるススキの穂には驚かない。そこに小さな針を仕込んだエサを流したら……。この釣技には少年のアイデアと夢が詰まっている。
「相手の気持ちを汲みながら、頭と体、感覚を駆使して、生き物に遊んでもらう。釣るだけなら竿を使うほうが早いけど、単純化したぶん、深く考える。そうすると、一匹の重みが違うんですよね」
熱田さんが教えてくれたのは、短時間で大量の獲物を合理的に調達する方法ではない。相手の目線で近づき、警戒心という名の本能をかいくぐり、自然の仕組みに従い、獲物をそっと手にする。そんな生き物との付き合い方だった。
熱田安武さん
ハチの子獲りと巣の駆除、罠猟と獣肉の販売を本職とする国宝級の野生児。
海川山の生き物の捕獲と処理、料理に精通している。
著書に『これ、いなかからのお裾分けです。』(南の風社)。
http://atsutaya.com/
◎構成/麻生弘毅 ◎撮影/柏倉陽介