「2〜3時間ゆっくり登りたい」「やりたいことに合わせて山を選ぶ」「山での楽しみ方を深めたい!」……。そんなあなたにぴったりの低山スタイルをご紹介!
のんびり登りながら楽しめる妙法ヶ岳にトライ!
のんびり派
モデル・ジュエリー作家 吉岡更紗さん
登山歴は1年ちょっとだが、時間ができると山や自然のある場所へ。低山ハイクでは、麓の街でおいしいものを食べることが楽しみだという。山での出会いをYouTube『さらさらDays』で発信中!
今回登った山:妙法ヶ岳(みょうほうがたけ)
コースタイム:3時間
標高:1,332m
総距離:3.2㎞
茶屋:あり
温泉:なし
神社:あり
乗り物:なし
三峯神社の本殿と奥宮をぐるっと巡ると、約4時間。奥宮への道中、ベンチや東屋の休憩スポットは3か所あり。トイレはないので二之鳥居そばの三峰ビジターセンターか駐車場で。
更紗さんの道具
「山での時間に没入できるULアイテムを愛用しています」。ごみをにおいなく持ち帰れるモンベルのガベッジバッグ、レッドレンザーのヘッドライト、OMMのレインウェアは必携。
ネイチャーガイド 小川泰裕さん
ツアーコンダクターとして世界の約25か国をまわり、スイスでトレッキングガイド、北海道ではスノーシューガイドとして活動。現在は高尾を拠点にする。
のんびりペースで登りながら丹念に自然観察を
山を登ることに慣れてきたら、『山と○○』というふうに+αの目的をもつのもいい。
「いつか雲取山に登りたい」という吉岡更紗さんと目指したのは妙法ヶ岳。雲取山と尾根つながりで、昔ニホンオオカミが生息していた山だ。登山口にはパワースポットとしても知られる三峯神社があり、山頂にはその奥宮がある。そこでネイチャーガイドの小川泰裕さんに同行してもらい、自然観察と神社詣でを楽しむ欲張り登山を計画!
池袋から特急で1時間20分。さらに秩父市内から山道を揺られ1時間半。標高約1100mにある三峯神社は、美しい杉林に囲まれている。ここは全国でも珍しい三ツ鳥居があり、神の使いは、日本武尊を道案内したとされる狼だ。
本殿へお参りしたら、少し早いが昼食にする。というのも、三峯神社は参拝客で年中大賑わい。食事処は門前に2つあるが、午後には売り切れることもあるそうだ。今回は『三峯 大島屋』へ。案内されたテラス席の絶景も相まって、まだ山を歩いてもいないのに心もお腹も満たされ……ハッ! いかん。出発だ! 急ぐ一行に「熊鈴はある? 杖は?」と、店のおかみさん。そう、この一帯は熊が出るのだ。
いざ山へ。二之鳥居をくぐると、杉の根や石灰岩が顔をのぞかせる緩やかな山道が延びていた。手入れされた杉林を秋風が通り抜け、「大地の感触を確かめながら歩くのが好き」という更紗さんは、すいすい登ってゆく。10分ほど歩くと「あった、あった」と小川さん。その手には、ギザギザとした葉が握られていた。
「乾燥した場所を好む落葉樹のミズナラの葉で、標高600〜1600mの場所に生えます。10月下旬には黄色く色づきます」
このほかにも、朴葉味噌で知られる朴の木の葉、香りの良いヒノキの枝葉、ドングリなど、様々な枝葉や実が落ちている。
「東京、山梨、長野、群馬と4都県境に近い妙法ヶ岳は、杉、ブナ、ミズナラ、さらに自然林のヒノキもある珍しい場所なんです」
山では足元に気をつけながら歩くから、下を向く時間が自ずと長くなる。そんなときに“自然の落とし物観察”はぴったりだ。
三之鳥居をくぐると、雲取山へ続く霧藻ヶ峰へのルートを示す看板が。「次はあっちへ行こう」と約束しながら、一歩一歩。木の根に生えるキノコや見事に広がるシノブゴケなど。その後も続々と出会う自然に観察が忙しく、のんびりペースで登る。
四之鳥居の横には「妙法ヶ岳まで0.6㎞」の看板と東屋があった。小川さん曰く、ここからは尾根をトラバースする平坦な道で、山頂周辺には自然林のヒノキも見られるという。「ご褒美ルートですね。行きましょう!」と更紗さんは上機嫌で進む。
心も体もゆったり1時間45分ほど登ったころ、手すり付きの階段が現われた。地図を見ると間もなく山頂。ここまでさほど厳しくなかったのに、フィナーレは壁のような十数段の階段と10mほどのクサリ場まで待っているなんて。奥宮はやはり甘くないってこと……!? 噴き出す汗。「着いた〜!」。先頭を進む更紗さんの歓声が降り注いだ。
標高1332m。妙法ヶ岳の山頂には石作りの奥宮と石碑があり、小さな狼の像も並ぶ。手を合わせて奥へ進むと、大人1人がやっと立てる岩があった。ここからは秩父の山々を見渡せるが、文字どおり断崖絶壁。1人ずつ、他の参拝客と譲り合いながら風景を楽しんだ。
下山は1時間ほどで「今すぐにもう一度登りたい」と、更紗さんは余裕の表情だ。すると「10月下旬に紅葉狩りもいいですよ」と小川さん。同じ山でも、四季折々、日毎の天気でも表情が変わるから、登るたびに新たな出会いがあるのだ。ただ登るだけでも、山はいい。でも+α目的を持つと、一座で何度も楽しめる! 次は、どこで何しよう?
10:45
登る前に三峯神社を参拝
三ツ鳥居をくぐり、狼に見守られながら隨神門、拝殿へ。「境内では秋にカエデが紅葉しますよ」と小川さんが教えてくれた。
三峯神社
住所:埼玉県秩父市三峰298-1
電話:0494(55)0241
営業時間:9:00〜17:00
三つの峰がそびえるのを讃え「三峯」。伊弉諾尊と伊弉册尊を祀り、狼が神の使い。秩父三社のひとつ。
11:15
人気店の名物で腹ごしらえ
24席のテラスは、相席必至の人気。秩父の山並みを眺めながら、更紗さんは冷たい「くるみ汁そば」900円、小川さんは「わらじかつどん」1,100円で満腹。
三峯 大島屋
住所:埼玉県秩父市三峰297-2
電話:0494(55)0039
営業時間:10:00〜15:00(土日祝~16:00)
定休日:不定休
創業140年。1967年から三ツ鳥居前で営む。
Start!
12:00
二之鳥居から山の中へ!
一礼し、二之鳥居をくぐる。ここが妙法ヶ岳をはじめ、更紗さんが憧れる雲取山へ縦走するルートの出発地点。入山届はここで出す。
「こんな山と思っても」と、油断禁物を促す看板も。
Must item
「もしも」に備える道具
妙法ヶ岳は参拝客も登る低山だが、熊が出たり、分岐も多い。「念のため熊鈴をつけましょう。ルートが確認できる地図もあると安心です」(小川さん)
12:30
心地よい風がそよぐ中、落ち葉観察
ふっとひらけて景色が見渡せる岩場も。すっと風が通り、思わず足を止める。
抗菌作用のある朴の葉はとても大きい。古来、器や食材を包む材料として用いられてきた。「柏餅の香りがする」(更紗さん)
登山道にはブナ科のミズナラが多く生えている。その葉はギザギザした形状。「初めて見る変わった形!」(更紗さん)
13:00
三之鳥居を過ぎシノブゴケ発見
三之鳥居から20分。見事な苔の森が広がっていた。「秩父山域で湿った石灰岩に生息するシノブゴケで、日陰を好みます」(小川さん)
三之鳥居は霧藻ヶ峰との分岐。進路に注意しよう。
13:30
四之鳥居の先に自然のブナの大木も
紅葉したモミジ。標高の高い奥秩父は市街地より季節が一歩進んでいた。
四之鳥居を正面に見て右側には、ギザギザ尾根の山が見える。
落葉樹のイヌシデに囲まれた道。「植物で『イヌ』と付くのは2番目という意味なんですよ」(小川さん)
壁のような斜度の十数段の階段と、クサリの付いた10mほどの道を越えれば山頂だ!
14:15
奥宮がある山頂へ!
山頂からは雲取山、両神山などが望める。奥には大血川を見下ろす岩も。「風が気持ちいい。神様のお使いの狼が迎えてくれたみたい」。
登りはじめて2時間弱、奥宮へお参りする。
15:15 Finish!
「登山も自然観察も堪能できました〜」
下山は1時間ほど。「ひとつの山でいろいろ楽しめたから、今すぐにもう一度登りたい」と更紗さんは余裕。
のんびり派向け 低山の選び方
1 公共交通機関で行け、程よい歩きごたえ
2 四季折々の草花や自然現象も目的のひとつ
3 寺社仏閣など歴史を知るスポットも
※構成/ニイミユカ 撮影/後藤武久