「今晩は幻想的な世界へとお招きしましょう」
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。今回の話も、10ヵ国からなる世界各国メディアの取材チームの一員として参加したパースツアーでの出来事です。
ある日の夕方、コーディネーター氏が口にしたのが冒頭の言葉。幻想的な世界? さてさて、それってなんでしょう?
で、連れられてきたのは、「エバーナウ(EverNow)」というフェスティバルです。説明してもらったところによると、現地に住む先住民アボリジナル(よく知られた「アボリジニ」という言い方は蔑称に感じる人もいて使わないようになっています)のヌガー族の文化を、従来の「音楽やダンス」に加えて「光や炎などの視覚効果」を加えることで、よりドラマティックかつ現代的かつ幻想的に表現したものだとか。
そしてもう一つの特徴が「ナイトフェスティバル」、つまり夜に開催されるものという点です。
音と光で伝統のダンスが幻想的に
この「エバーナウ」には3つのメインイベントから構成されているとのこと。まず連れてこられたのが「ソング・サークル」です。
これはアボリジナルたちのダンスを、伝統的なディジュリドゥではなくより現代的なライブミュージックに乗せて(とはいえアボリジナルの音楽の雰囲気は残しています)、カラフルにライトアップしながら見せるというものです。
つまり単なるダンスを超えた「音と光のダンスショー」。これを見てて思ったのが、日本のテーマパークで見られる「夜のパレード」みたいに華やいだ雰囲気だなあということです。まあ、パレードは通路を練り歩きながらなのに対して、こちらは土俵のような砂の円形舞台の上で行われるという違いはあるにせよ。
あと、中央でミュージシャンが乗っている部分はずっとゆっくり回転し続けるので、「どこでもS席」です!
で、気がつくとなぜか私の目からは涙が流れていました。なんかこう、原初の力みたいなものが私に何か訴えかけてきたというか。
じつは、アボリジナルの人たちは「森羅万象それぞれに精霊が宿る」という考え方をします。はい、そうなんです。巨岩や巨木に神が宿るとか、「八百万の神」と考えたりする日本人の自然観とすご~く似ているんです。
あと、この「ソング・サークル」の舞台もどこか「土俵」みたいで、相撲もそもそもは神に捧げる神事で…。そんな感じで、このパフォーマンスを見ながら、自分の心の奥底に隠れていたものがあれやこれやと掘り出されてきたのだと思います。
そんなふうに繊細な心を持つ私が思わず滂沱(ぼうだ)を禁じずにいたら…それを目ざとく見つけたのが、はい、このシリーズを彩ってくれているシンガポール在住の中華系ジャーナリストで山ガールでもあるヤエン(英語でYa En/中国語で雅恩)です。
「ユキ。なっ、なに泣いてるの?」
若い女性に涙を見られるのは、オヤジとしては恥ずかしいものです。だから思わず。
「なっ、泣いてねえし。ただ涙が目に入っただけだし」
「……それを泣いてるっていうんだよね?」
…あっ、「涙が目に」じゃなくて「汗が目に入った」でしたね。笑。そして汗。
でも、今回の同行したチームの一員である中国人の女性ジャーナリスト(ヤエンじゃない人)も涙したというから、国籍を問わずに心に突き刺さるものがあるのかもしれません。
メインじゃないイベントも見どころいっぱい
さて、次のイベントに行く前に「ソング・サークル」が行われた最高裁判所前庭園(というか雰囲気は広場)で腹ごしらえ。フードトラックがたくさん出ていました。
そして、先ほどの「ソング・サークル」を見た広場では、他にもアボリジナル関係のイベントが行われていました。
「ドラゲナイ」な「炎の世界」に突入した
さて、食事を終えて、次に向かうのは隣の敷地……というか、どこが境目だったかわからない「州総督邸庭園」です。ここで「エバーナウ」の3つのイベントのうち、2つ目が見られるというのですが…会場に入った瞬間に思ったこと。それは…。
「うわっ、ドラゲナイじゃん!」
「ドラゲナイ」とはロックグループSEKAI NO OWARIの2015年のヒット曲「Dragon Night」の歌詞のDragon Nightという部分が、そう聞こえるという一種の「空耳」ですね。そのミュージックビデオが巨大なキャンプファイヤーのまわりで彼らが演奏するというものなのですが、それと似た感じの「炎の世界」が目の前に広がっていたのです。
「なんかドラゲナイのミュージックビデオみたいじゃない?」
たまたま隣にいたヤエンにつぶやいていたのですが…相手は当然ポカ~ンですわな。「ニッポン大好き」を公言する彼女でも、やっぱり知らんでしょうな。
ちなみに、これは「ファイヤー・ガーデンズ」、つまりは「炎の庭」または「炎の広場」というイベント。サッカーグラウンドよりも少し広いくらいの広場のあちこちで、「炎を用いたアート」的なものが陳列されています。その一つひとつに吸い寄せられるように思わず見入ってしまいます。
という感じで、あっちの炎やこっちの炎に吸い寄せられていると…は~い、見事に他のメンバーとはぐれました。まあ、この暗さじゃ無理もないんですが…困ったな。
と、そこで声をかけてきたのはヤエン。「地獄に仏」とはこのことです。
「ユキ、迷子になったの?」…かなり毒舌な仏ですが。
「いや、みんなとはぐれただけだよ」
「それを迷子っていうんじゃないの?」
…確かにな。するとヤエンは私を無視してスマホを操作し始めました。
「何してんの?」
「ワッツアップでみんなに連絡取ろうと思って。はぐれちゃったって」
ここで一つ豆知識をお伝えすると、今回のように世界中から人々が集まったときに用いるグループチャット用アプリは、ほぼ確実にワッツアップ一択です。ラインは多分知られてもいません。
…っていうか、そんなことはどうでもよく。
「ヤエン。今、はぐれちゃったって言わなかった?」
「うん。見ればわかるでしょ?」
…なるほどな。ってことはキミも迷子だろうがっっっ!
そして「炎と森のカーニバル」へ
さて「エバーナウ」のもう一つのイベントはちょっと場所が離れているので、翌日の夜に向かいました。その会場とは以前「点描画」の記事で紹介した「キングスパーク」です。
そして、イベントの名前は「ブーナ・ワンガニー:ザ・ツリーズ・スピーク」。後半部分を日本語に訳すと「木々のささやき」といったところでしょうか。前半部分は、このパースに住むアボリジナルのヌガー族の言葉で「メッセージスティック」という意味だそう。無茶苦茶端折って説明すると、異なる部族間の交流で用いられた棒です。
そして。ここではそのヌガー族の季節感や土地に関する物語をテーマに、これまた光と音を駆使した幻想的な手法で見せていきます。
前夜の炎の祭典「ファイヤー・ガーデンズ」は、広場の中をあちこち自由に動き回るというスタイル。一方、こちらは「順路」が一応決まっている「回廊型イベント」。総距離1.4キロメートルだそうです。その途中でいくつかのインスタレーション(彫刻などの一つの物体だけでなく、空間や光や音なども含めた総合的なものを一つの作品とする手法)を楽しむことができます。
スタート地点から始まるのが、木々の梢が上部を庇状に覆い隠す並木道での大迫力の「プロジェクションマッピング」。
プロジェクションマッピングというと、通常は建物の壁など比較的フラットなところに映されることが多いですが、ここでのスクリーンは幹と枝と梢。と書くと「うまく映るのか」とか「湾曲したりしないのか」といった心配が出てきそうですが、平面でない分だけ、自然な感じとある種の妖しさが出ていてよかったです。こちらは日本のテーマパークでの「夜のレーザー&花火ショー」みたいな大迫力です。
次は音やナレーションのない静かな小道。ライトアップされた紅葉をふと思いだしました。
池を利用したインスタレーションもあります。こちらも幻想的ですが、音楽やナレーションも含め、一転して静かな雰囲気。
この「エバーナウ」の3つのメインイベントをすべて体験して思ったのは、こんなことです。
今までもオーストラリアでは先住民文化を、伝統そのままの形で見せる場はあれこれありました。もちろん伝統の継承は大切です。
でも、この「エバーナウ」のように、より現代的にアレンジして、先住民の文化に興味がない人でも「すごい!」と思わせる内容のものもあるべきだと感じました。
別の言い方をすると「社会科見学的ではなく、観客自らが積極的に見たくなるかっこいいパフォーマンスやインスタレーション」。そういうものを通して積極的に発信することで、先住民文化への興味を持つ人が増えるような気がします。
まだまだ旅は続きます。あっ、ヤエンも含めてこの旅の画像や動画をアップしているんで、良かったらインスタ(@yukioyanagisawa)をフォローしてください。
エバーナウ(EverNow)公式サイト
次の開催は2024年10月だと思います。内容が変更になる可能性もアリ。
西オーストラリア州政府観光局
https://www.westernaustralia.com/jp/home
オーストラリア在住ライター(海外書き人クラブ)
柳沢有紀夫