「これから向かうインド洋のロットネスト島に最強の生物がいるんですよ」
どうも。オーストラリア在住ライターの柳沢有紀夫です。今回の話も、10ヵ国からなる世界各国メディアの取材チームの一員として参加したパースツアーでの出来事です。(前回の記事はこちら「音と光と炎が織りなす‟ドラゲナイ”な幻想的イベントに潜入してみた【オーストラリア・パース旅vol.3】)
で、そのツアーで「デンジャラス(?)なワイルドフラワー」とか「幻想的な夜」とかを紹介してくれたコーディネーター氏が、今度は冒頭のような言葉をつぶやきました。
「最強生物? それってなに?」
「ふっふっふっ。行けばわかりますよ」
不敵に笑うコーディネーター氏。その最強生物とはなんでしょう? ネッシーのように湖に潜む未知の巨大生物? 逆に体は小さいのに自分たちの何千倍もの体重を誇る牛なんかも平気で襲って食べつくしちゃうピラニア系? はたまた、頭部はナントカで胴体はカントカな摩訶不思議生物でしょうか? 「川口探検隊世代」の私としては心が躍らずにいられません。
出立前の緊張の瞬間…のはずなのですが
ちょうどそのとき目に入ったのが、はい、このシリーズの主演女優を務めてくれているシンガポール在住の中華系ジャーナリストで山ガールでもあるヤエン(英語でYa En/中国語で雅恩)です。
なあ、ヤエン。私たちは今から最強生物とやらに会いに行くんだぞ? もしかしたら命の危機にさらされるかもしれないんだぞ? 緊張感なさすぎないか?
「ヤエン。これから向かうロットネスト島に最強生物がいるってこと知ってるか?」
顔出しパネルでの撮影を終えてご満悦の彼女に、注意を促すために訊いてみました。6日間のツアーも終盤にさしかかり、なんだかもうじつの姪っ子のような気分になっています。ところが。
「えっ? ユキ、知らなかったの?」
あきれたような目を返してきます。
「しっ、知らないわけないだろ。私はキミの年齢と同じだけオーストラリアに住んでいるんだ」
あわててごまかしましたが、どうやらロットネスト島の最強生物とやらは、かなり知られた存在らしいです。
というわけで、私と愉快な仲間たちはパースの衛星都市であるフリーマントルという港町から、船に乗りました。ちなみにこのフリーマントル、日本の南極観測船が昭和基地に向かう直前、最後に寄港して物資の補給をする場所だとか。南極、いつか行ってみたいです。「BE-PAL」編集部、予算出してくれないかな?
さてさて、今回私たちが向かうロットネスト島は南氷洋ではなく、インド洋に浮かぶ島。インド洋、広いです。海の向こうはアフリカです。
そこに浮かぶロットネスト島。果たしてどれくらいかかるのか? 大海原を眺めながら咸臨丸に乗る勝海舟のようにこれから始まる冒険を夢見ていたら……あっけなく30分で到着しました。笑
コーディネーター氏によると、到着後すぐに私たちは先住民の長老の一人から「煙のセレモニー」を受けるといいます。と書くと「川口探検隊」度が高まりますが、普通に西洋風の服を着たアボリジナルの方が邪気を払いながら歓迎をしてくれるというものです。
「最強生物」を求めて大海原へ
歓迎セレモニーで清めてもらったあと、我々は30人乗りくらいのジェットボートに乗り込みました。モーターボートを大きくしたものという感じで、かなり速度が出ます。
荒波を突き進みます。…というか船長が乗客を楽しませようと「急カーブして360度旋回」したり、「S字走行」したりして勝手に荒波をつくっていたのですが。笑 とにかく絶叫マシンもビックリの暴れっぷりです。
いや、絶叫マシンはレールに縛られているけど、こっちは大海原で暴走し放題。スピード好き、スリル好きにはたまらんでしょうな。
そんな船長ですが、ただ遊んでいたわけではなく、しばらくすると「右手2時の方向を見てください」と船内アナウンスが入ります。そして船は徐々にスローダウン。
そこに現れたのはクジラです!
私、オーストラリアに長いこと住んでいながら、きちんとクジラを見たのはこれが初めてなのです。でかいです。いや、どでかいです。
こっ、これこそが「最強生物」なのでしょうか? ところがコーディネーター氏のほうを見ると「いやいや、こんなもんじゃないですよ」とでもいいたげな謎の笑みを返してきます。
まあ確かにクジラはシャチに襲撃されたりするしな。……ってことは、これから見る「最強生物」はシャチなのでしょうか? この小さなジェットボートで遭遇してもだいじょうぶなのでしょうか? 緊張感が増します。
第2のチェックポイントへ。そこで我々が見たものは…
さて、そんなジェットボートはまた爆走を始めます。いよいよシャチのお出ましでしょうか。と思っていたら出発した港からはかなり離れた島の別の地点に到着。そこにいたのはなんと……ユーモラスな姿(だなんて本人はまったく自覚していないでしょうけど)で佇むペリカンたちと、だらしない姿でゴロゴロしているアザラシたちです。
ただ…どちらもそれなりに大型動物ではあり、魚たちにとっては脅威かもしれませんが、人間の視点に立てば「最強感」は全然ありません。コーディネーター氏に「まさか…これ?」と視線で問うと、「慌てるな」という笑みが返ってきました。
そして、また私たちを乗せたモーターボートは動き出すのですが…なんと出発した港に戻るとのこと。全然「最強生物」とやらに遭遇できなくて、釈然としない私です。
「ちょっと時間が押してきちゃったんで爆速で帰りますよ~」と船長が船内アナウンス。そして確かに行き以上の猛スピードで進んだのですが…そのわりには途中でサービス精神を発揮して相変わらず「360度急旋回」やら「S字走行」やらを交える船長でした。
我々は心地よい疲労感を携えながら、再びロットネスト島に上陸しました。それで気づいたのです。なんと「最強生物」とは船長のことなのではないかと。コーディネーター氏に「あいつか?」と目で合図してですが、返ってきたのは両方の手のひらを上に向け、肩をすくめる「そんなわけにないじゃん」ポーズ。まあ、そうでしょうね。
とうとう「最強生物」を発見!!!
そのコーディネーター氏が「足元を見てみろ」と自信ありげにうなずきました。「最強生物はそこにいる」と。
…げっ、ヘビかっ! 爬虫類系はマジで苦手だぞ。中学2年生の理科の時間、カエルの解剖の実習で一人耐えられなくなって教室から逃走したのは、当時群を抜いて背が高くてついたあだ名が「センパイ」だった私だぞ。いやいや、カエルは両生類で爬虫類じゃないか。などとパニックになりかけながら足元を見てみたところ…。
ギャ~~~ッ! かわいすぎて完全なパニックに陥りました。人間を恐れることなく、葉っぱをくわえてモグモグタイムなんかしちゃっているではないですか。
これは「クオッカ」という有袋類。「クオッカワラビー」とも言います。ワラビーというのは小型のカンガルーのことなので、このクオッカも生物学的な分類では有袋類の「カンガルー科」に属します。しっぽを除いた体長は40~55センチメートルとのことで、そう書くとそれなりに大きそうに見えるかもしれませんが、本当に小さな動物です。
しかし…これが最強生物なの? そんな疑問を持ったのはたった一瞬でした。そのかわいさに、私のようなオヤジでも完全にハートを射抜かました。たぶん全人類が芯を抜かれてデレデレになってしまうでしょう。地球に君臨する人類をもしのぐ存在。そう、だから彼らこそが「最強生物」なのです!
聞いたところによると、このクオッカ、口元が上がって笑っているように見えることもあるので、「世界一幸せな動物」と呼ばれることもあるとのこと。というか「世界一幸せな気分にしてくれる動物」と言うべきでしょうが。
ああ、やっと会えたぞ最強生物。そんなふうに感動していたのですが、ふと気づくとクオッカの他に私のそばでうごめいている生物がいました。ヤエンです。なんとしゃがみこんで「クオッカとの自撮りツーショット」を撮影中。
ちなみにこのロットネスト島。自転車で回れるくらいの小さな島ながらビーチが20ヵ所もあって、サンゴ礁がそばにあるところも多いとのこと。今回は時間がなくて私も水に足をつけただけでしたが、シュノーケリングなんかしたら最高でしょうね。
というわけで、「最強生物」に出合えた私たちは無事に帰路につきましたとさ。
まだまだ旅は続きます。あっ、ヤエンも含めてこの旅の画像や動画をアップしているんで、良かったらインスタ(@yukioyanagisawa)をフォローしてください。
西オーストラリア州政府観光局
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オーストラリア在住ライター(海外書き人クラブ)
柳沢有紀夫