非日常の刺激を求めて、あるいはちょっとした暮らしのヒントにも……。映画には人生を豊かにするパワーがある。そのためにも、五感に響く劇場での鑑賞をおすすめしたい。現在公開中の注目作品を紹介しよう。
CINEMA 01
田舎と都会の対立は全世界共通!? 恐るべき人間ドラマ
『理想郷』
(配給:アンプラグド)
●監督/ロドリゴ・ソロゴイェン
●脚本/イザベル・ペーニャ、ロドリゴ・ソロゴイェン
●出演/ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイスほか
●Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開中
©Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.
アントワーヌと妻のオルガはフランスの都会を離れ、田舎暮らしを夢見てスペインの小村に移住する。育てた野菜を市場で販売し、「村の活性化のため」と空き家を修繕する日々。けれど村は閉鎖的で、慢性的な貧困の問題が。村育ちの隣人兄弟はフランス人夫妻を歓迎せず、やがて嫌がらせを始める。イラ立つアントワーヌはビデオカメラで兄弟の行動を撮影、証拠を押さえようとするが……。
オランダ人夫婦による実話を元に、フィクションとして再構築。脚本は二部構成。まずは夫の視点で、田舎と都会の対立をじっとり描く。スローライフに夢を抱くインテリ都会人の暮らし、それを苦々しく見る村人の歪んだ目線。有機栽培での野菜づくりに口を出す村人や風力発電誘致に関する対立と、その確執はそのまま日本の移住者問題に置き換えられるよう。決定的な何かが起こる予感が、緻密なスリラーみたいに観る者の心を揺さぶる。そして二部、視点は妻のオルガへ。これが愛を巡る物語と気づく。さまざまなドラマを重層的に描き、どれもがパンチの利いた強烈さ。しかも最後まで結末が見えない!
CINEMA 02
アホアホ兄弟と漫画家。笑いと涙の家族の再生
『さよなら ほやマン』
(配給:ロングライド/シグロ)
●監督・脚本/庄司輝秋
●出演/アフロ(MOROHA)、呉城久美、黒崎煌代、津田寛治、澤口佳伸、園山敬介、松金よね子
●新宿ピカデリーほか全国公開中
©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
宮城県石巻の離島で、古い一軒家に暮らすホヤ漁師のアキラと弟のシゲル。そこに東京から漫画家の美晴がやってくる。1千万円を手に「この家、売ってくんない?」、奇妙な共同生活が始まる……。
障害のある弟を持つ兄の苦悩、それを揺り動かすガサツな美晴の暴走。この兄弟、漫画キャラみたいにカワイイ!
CINEMA 03
クラフトウイスキーの世界と迷える男子の成長物語が融合
『駒田蒸留所へようこそ』
(配給:ギャガ)
●原作/KOMA復活を願う会
●監督/吉原正行
●脚本/木澤行人、中本宗応
●キャスト/早見沙織、小野賢章、内田真礼、細谷佳正
●11/10~全国公開
©2023 KOMA復活を願う会/DMM.com
夢もやる気もないニュースサイトの新人記者・高橋光太郎は、取材で気鋭のブレンダー、駒田琉生の元へ。彼女は亡き父が遺した蒸留所を立て直し、家族の絆を取り戻し、幻のウイスキー「KOMA」復活を目指していた……。
好き! をまっすぐに生きる琉生と出会い、道の定まらない光太郎の心が動く。
CINEMA 04
日本人監督が3年かけて追ったドキュメンタリー
『アダミアニ 祈りの谷』
(配給:アークエンタテインメント)
●監督・撮影・編集/竹岡寛俊
●撮影/山内 泰
●12/1~YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
©2021 ADAMIANI Film Partners
鳥の声、咲き乱れる花、素朴な暮らし。天国? みたいなジョージアのパンキシ渓谷。そこはチェチェン紛争で「テロリストの巣窟」と呼ばれた地だった─。
ゲストハウスを営むレイラは戦争で息子を失い、寡黙なマッチョのアボは元戦士。日常に潜む暗い影の気配を丹念に積み重ね、ハイレベルな人間ドラマのよう。
※構成/浅見祥子
(BE-PAL 2023年12月号より)