あまりの人気で生産が追いつかなかった「ST-310」や、世界で初めてマイクロレギュレーターを搭載した「ウインドマスター」など、数々の傑作ストーブを生み出してきた国産ブランドが『SOTO』だ。今回は愛知県豊川市の本社工場に潜入し、人気の秘密を探った。
あの大人気ストーブ工場に潜入!
行ったのは…全天候型フリーライター ホーボージュン
業界きってのギアオタクで、製造現場や工場見学が大好き。SOTOブランドが創設された’92年以降の全製品を持つSOTOマニアでもある。
SOTOはアツくてマジメだった!
まず最初に驚いたのは工場がめちゃくちゃキレイなことだ。元々が工業用トーチや野焼き用のバーナー製造を稼業としているメーカーなので、油にまみれた町工場的な現場を想像していたのだが、空調の効いたピカピカの工場内では、最新のマシニングセンターが低い唸りを上げて真鍮部品を削り出していた。
できたての部品を見せてもらうと、箸先ほどの細いスピンドルに緻密なネジが切ってある。まるで時計の部品のようだ。
「じつはこのマシンは日本の時計メーカーが開発したもので1000分の1㎜という精度で精密機械加工ができるんですよ」と生産部部長の冨永さんが教えてくれた。3年前に工場を新設するに当たって各種の最新マシンを導入し、動線を研究しつくしてレイアウトを組んだそうだ。
「創業以来積み重ねてきたモノ作りのノウハウをすべてこの新工場に込めました。ゴトクなどのプレス部品は外部の協力工場さんに生産委託していますが、流路(ガスや灯油など燃料の通る場所)はすべてこの工場で内製しています」とのことだ。
現在は24時間フルオートメーション化されていて、マンパワーは溶接作業や組み立てなど専門技術を必要とする部門に振り分けられている。
その組み立て工程には多くの若いスタッフがグループごとに分かれて作業をしていた。各スタッフは組み立て、点火試験、梱包など多岐にわたる作業工程のすべてに対応できるよう、訓練されているそうだ。いうなれば全員がすべてのポジションに入れる遊撃手なのである。
組み立て作業の中でも驚いたのはLPG(液化ガス)を噴出させて空気とまぜるジェット部分の組み立て工程。1㎜に満たない細いニードルに砂粒サイズのOリングをはめ、筒型パーツに入れるのだが、作業は顕微鏡越しに行なう。僕のような不器用な人間はピンセットで部品をつかむことすらできない緻密さ。まさに精密機械を作っているのだ。
SOTOってどんな会社?
1978年設立のSOTOこと新富士バーナーは、工業用バーナーの専門メーカー。東京2020オリンピックの聖火リレートーチの燃焼部を担当した。
草焼きバーナー
生産部部長 冨永主幸さん
さっそく突入するぜ!
2020年に建てられた新工場。1階はパーティションを設けず、工程全貌を見渡せるようになっている。
マシニングセンターやNC旋盤などが40年間の製造ノウハウに従って配置されている。
広報 坂之上丈二さん
SOTOの名物広報で、僕とはもう20年以上の付き合いだ。普段は金髪ロン毛なのだが、取材日はカメラを意識して黒髪に染めてたぞ。
SOTOストーブはこうして作られる!
SOTO Factory Tour 01
生産工程
1/1000mmレベルの高精度金属加工
精密機械の象徴でもある国産時計メーカーが開発した最新鋭のマシンを導入し、1000分の1㎜レベルで精密な削り出し加工を行なっている。
工場1階では最先端の加工マシンによってフルオートマティックでパーツ製造が行なわれている。このときは真鍮の丸棒から燃料の流量調整に使うスピンドルバルブが削り出されていた。
SOTO Factory Tour 02
組み立て工程
匠の技が至る所に生きている
最新マシンだけでなくベテラン社員の職人技もSOTOを支える大事な要素。緻密な溶接やプレス工程ではこんな職人さんたちが活躍していた。
燃料パイプの曲げ加工やロウ付け溶接などはすべて手作業!
SOTO Factory Tour 03
組み立て工程
社員は全員が優れた「遊撃手」なのだ
生産はライン方式ではなくブロック方式で行ない、社員全員がすべてのブロックと工程を経験して、どこのポジションにも入れるようにしている。
組立課 近田結希さん
組立課 新山翔一郎さん
社員はどんな工程もこなせるマルチプレイヤーだ。この日も複数のモデルの異なる作業が次々行なわれていた。
組立課 上原萌花さん
シルエットクイズ
機械課 佐竹伸二郎さん
SOTOではマイクロレベルの品質管理のため、拡大スコープを使ってパーツのシルエット検査を行なっている。これはみんなも知っている「あの製品」の「あのパーツ」。ぜんぶ当てられたら君はウルトラSOTOマニアだ!
A
B
C
正解は最後に!
安全のために検査に次ぐ検査を敢行!
ストーブは万が一の炎上や爆発の危険がある道具だけに「安全性」が何より重要。
SOTOでは120%の安全を担保するため、苛酷ともいえる燃焼テストを繰り返し行なっている。
組立課 加藤喜久さん
また、試験ブースも凄かった。実際に点火し、火口(ほくち)の状態や炎の形状を確かめる。同時にバルブやハンドル周辺に炎を近づけ、ガス漏れによる引火がないか入念にチェックするのだ。
「製造したすべての製品の燃焼試験を行なってます。ガス器具はお客様の安全に直接影響するので徹底して検査します」と組立課の坂井さんが教えてくれた。
ちなみに不具合はどのくらいの頻度で出るのか正直な数を聞いてみたら、なんと年に2~3個しか発生しないそうだ。
「喜んじゃいけないんですけど、見つけたときにはクジに当たったみたいな気持ちがします」
こうした社内検査に加え、第三者機関による検査も厳しい。
ちょうどこの日は臨検の日で、日本ガス機器検査協会(JIA)の検査官が工場を訪れていた。その様子を取材させて貰ったが、まあ厳しいのなんの! ガス漏れ検査では1000台を超える体から無作為に抜き取り水槽の中に沈め、燃料パイプから窒素ガスを送り込んで流路やバルブからの漏れがないか検査する。さらに燃焼テストでは点火した検体を暗い部屋に入れ、徹底的なチェックを行なうのだ。
こうして検査に合格すると初めて製品にJIAの認証タグが付けられる。そのアルミの小さなタグが僕にはまるで金メダルのように思えた。
SOTO Factory Tour 04
燃焼テスト
製造した全製品を燃焼させチェック!
工場2階のテストブースには簡易的な暗室がいくつもあり、ここで炎の形や噴き出し状態、ガス漏れを厳しく全数チェックする。すべて人の目による直接目視だ。
完成品の燃焼テストでは、実際にユーザーが使用するのとまったく同じガスカートリッジを使用し、同じ手順で点火する。点火後はバーナーまわりだけでなく、ハンドルやボンベの連結部にも検査用トーチの炎を近づけて、ガス漏れがないなども細かく確認していた。
修理もばっちり!
工場には修理部門も完備している。担当の坂井華さん(右)と山本涼太さん(左)によると、一番多い修理部位は点火装置の不具合や交換、2番目がゴトクの曲がりや歪みだそうだ。
SOTO Factory Tour 05
第三者機関による検査
世界一厳しいといわれる日本のガス検をクリア
ストーブを販売するには液化石油ガス器具などの安全に関する法律で厳しい基準が課せられている。温度上昇や一酸化炭素排出量など項目は多岐にわたる。
JIAによる試験と形式認定を受けた後も、各モデルは生産ロットごとに安全検査を受けなければならない。この日は工場臨検が行なわれていたが、内容は検体を水没させてのガス漏れ試験や点火燃焼試験など、非常に厳しい内容でびっくりした。
開発担当者に直撃インタビュー
開発部 西島丈玄さん
ガス業界では常識だった整流技術をアウトドア機器に持ち込んだんです
SOTOを代表するテクノロジーが「マイクロレギュレーター」である。その開発の経緯を開発部の西島さんに聞いた。
西島さん(以下・西)「2008年に発売して以来、当社最大のヒット作になっているのがST-310です。人気の秘密は家庭でもお馴染みのカセットガスを使えること。買える店も多いし、初心者にも受け入れられやすい。ただ、問題は強火で連続燃焼を続けていると気化熱でガス缶がどんどん冷えてしまい、最終的には火力が弱まってしまうんです。そこで燃料の流量を細かく調整して、常に最適の量だけを流すような仕組みを設けました。こうすると出力低下がある程度防げるんです。これは家庭用プロパンガスでは当たり前の機構で、ガス業界ではレギュレーターと呼んでいます」
ホーボー(以下・ホ):「整流器とか減圧器って呼ばれているパーツですよね?」
西:「そうです、そうです。あれを超小型化して流路に組み込んだんです。具体的にはコイルスプリングとボール、ダイヤフラム(ゴム弁)を使って自動的に流量を調整するようになっています」
ホ:「それをさらに小型化したのがマイクロレギュレーターですね?」
西:「はい。2009年にOD缶を使用した山岳用モデルを発売するにあたり、さらなる小型化を行ないました。でも当初はいまいち良さを理解されなかった。そこで海外進出に打って出たのです」
これが好評で『バックパッカーマガジン』のエディターズチョイスを獲得。それが逆輸入される形で、日本の登山愛好者にも名を知られるようになった。
西:「最近は火口を大型化して使いやすくしたST-340やツーバーナーも発売しました。これで寒い季節のキャンプをもっと楽しんでもらえると思います」
ST-310
ウインドマスターのカットモデル。レギュレーター部の精密な作りに驚愕。
すり鉢型ヘッドで耐風性が向上(奥)。
バーナーが大型化したST-340(手前)。
SOTO製品ピックアップ・HOBO’S FAVORITE
僕は歴代のSOTO製品をすべて所有し、ガンガン実用している。そんなマニア目線で選んだベストモデルはこれ!
OD缶を使用した最強モデル
マイクロレギュレー ターストーブ
FUSION Trek
¥9,900
分離型で低重心なので大きな鍋が安心して使え、すり鉢型バーナーヘッドは横風にめっぽう強い。ハードな登山や遠征ではいつもこれを使っている。
火口の大型化で実用性アップ
レギュレーター 2バーナー GRID
¥29,700
レギュレーター搭載の2バーナーだが、初代は垂直に炎が上がる小さな火口が扱いづらかった。それが今夏から大口径になり、使いやすくなった。
SOTO工場の見学の旅を終えて
「いつか工場見学に来てくださいね」。もう10年以上前からお誘いを受けていたのだが、今回初めてその夢が叶った。見学してみてとにかく印象的だったのが精度の高い部品加工とテストに次ぐテスト。この厳しさこそが品質と安全性を高めているのだと実感しました。
クイズの答え
みなさんわかりましたか~?
A 「ST-310」の燃料器具栓
B 「FUSION Trek」のゴトク
C 「ウインドマスター」の弁本体パーツ
※構成/ホーボージュン 撮影/早坂英之
(BE-PAL 2023年12月号より)