画家・写真家・ナチュラリストの奥山ひさし氏が、野山で見つけた植物を紹介。今回は誰もが知っていて、でも正確な種類を見分けるのが難しい菊の仲間について。
ノコンギクとは?花や葉の形は?
キク科の多年草(学名:Aster microcephalus var. ovatus)。日当たりの良い山野に生え、葉は互生で、両面に毛がある。秋に、直径2.5㎝ほどの花をつける。花の中央は黄色で、周辺に舌状花を多数つける。庭に植えるコンギク(紺菊)は、ノコンギクから選抜育種された園芸品種。
松本市の郊外を歩いていたら、頭に赤トンボが止まったお地蔵さんがあって、牛乳瓶に野菊を生けたのが添えてあった。
ノコンギクはキク科の多年草で、本州から九州まで分布する。草丈は50~100㎝ほどで、たくさんの枝を分けて、夏の終わりごろから晩秋にかけて淡い青紫色の花をたくさんつける。
海辺から山地にかけて、日本の野山ではさまざまな野生の菊を見ることができるが、果たして何という名前の菊なのか……となると、正しい名前を知る人はほとんどいない。
ヨメナ、キクタニギク、シオン…よく似た仲間の野菊たち
ノコンギク、ユウガギク、ヨメナ、ヤマジノギク。それにシロヨメナ、イナカギク、コンギク。さらに花の色の黄色いアワコガネギク、海辺に多いイソギク、シオギクなどなど、よく似た仲間がじつに多いのだ。
お地蔵さんのとなりに座っておにぎりを食べていると、私の脱いだ麦わら帽子にも赤トンボが止まった。
そよそよ吹く風に運ばれて、どこからか野菊のいい香りがする。
「野菊」といえば、伊藤左千夫の純愛小説『野菊の墓』を思い出す。この小説の主人公・政夫が、「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」という場面があるが、読者はここで何という名前の野菊だろう……などとは思わない。数えきれないほどある品種の野生の菊をひとまとめにして「野菊」と呼ぶのには誰も違和感をおぼえない。
山野の菊だけでは満足せず、庭や畑にも小菊などを植え、葬式や墓参りにも菊は欠かせない。煌々とライトをつけて育てる電照菊があるし、針金などを添えて育てる大輪の菊にはコンクールまである。日本人はつくづく菊の花の好きな人種なのかもしれない。
田んぼの畦などに育つカントウヨメナ。
葉の形が栽培菊に似るリュウノウギク。
茎先に固めて花をつけるキクタニギク。
大型のシオンは花壇でも見かける。
イラスト・写真・文 おくやまひさし
おくやまひさし プロフィール
画家・写真家・ナチュラリスト。
1937年、秋田県横手市生まれ。自然や植物に親しむ幼少期を過ごす。写真技術を独学で学んだのち、日本各地で撮影や自然の観察を開始。以降、イラストレーター、写真家として図鑑や写真集、書籍を数多く出版。
(BE-PAL 2023年12月号より)