東京23区内、特に山手線の内側はビル街や飲食店街、住宅街ばかり。そう思っている人が多いかもしれません。でも、目を凝らせば東京都心にも「山」はあります。そんな東京の山の世界を、日本で唯一のプロハイカーである斉藤正史さんが案内します。第18座目は、東京都文京区でミニチュア富士をめぐります。
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第18座目「白山富士」
前回に続いて、今回も都営三田線白山駅登山口を出発する道のりです。
学生時代、一度も下りたことがなかった白山駅に再び降り立ちました。
地下鉄の白山駅から地上に出ると、すぐ裏手に細い路地がありました。「喫茶映画館」、なんとも昭和の香りに包まれた雰囲気とネーミング。匂いに誘われるように路地を入り階段を下ると…準備中。そうです、今回は早朝からTokyo山頂をあちこち巡る予定で、時刻は午前8時。さすがに開いていませんでした。残念。
さらに、この先の路地は私道と書いてあるコーンが立っていたのですが、その奥に「家庭料理だんだん」という看板が!だんだんとは、出雲弁で「ありがとう」の意味だそうです。何だか面白そうな通りだなと興味をかき立てられます。いつか遅い時間に出直します。
いざ、千年以上の歴史がある駅チカ神社へ
実は、白山駅から歩いて2分もかからない場所に、今回の目的地である白山富士を擁する白山神社があります。もしかしたら、登山口(最寄り駅)から最短で登れる山かもしれません。そんなに早く着くと書くネタがなさそうで困るなと思いつつ、気づけばすでに白山神社の大きな石の鳥居が見えていて、仕方なくそこを目指して歩いていきます。
白山神社は、947~957年に加賀一宮白山神社を現在の本郷1丁目に勧請(かんじょう=神様を迎えること)し、後に巣鴨原(現在の小石川植物園内)に移されたそうです。その後、五代将軍綱吉が将軍職につく前、屋敷の造営のためにまた現在の場所に移ったそうです。そんな経緯もあり、白山神社は綱吉と生母の桂昌院の厚い信仰を受けました。
白山神社の大きな石の鳥居をくぐると、すぐ左側に孫文の記念碑が立っていました。ん?なぜと思ったのですが、境内に中国の革命家・孫文が座ったとされる石が残されており、その記念碑だそうです。
それはさておき(孫文先生、申し訳ありません)、今は山を探さなくてはいけません。きょろきょろ辺りを見渡しますが、山らしきものは見当たりません。ヤバイ、もしや白山富士はガセネタだったのだろうか。焦りながら、周辺を探索します。すると、いくつもの倉庫が見えてきました。すぐに、お神輿の倉庫だと気づきました。
もしや…。倉庫に記されている町名をみると、春日三丁目町会の文字がありました。
実は、学生時代にここから近い小石川の学生寮に住んでいるころ、寮生だけがバイトをする居酒屋がありました。そこは春日の町内会の豆腐屋さんやお肉屋さん、八百屋さんなど地元の方々が集まる居酒屋で、毎晩ご近所さんで賑わっていました。
当時から春日町内には若い人が少なく、私たち寮生に神輿を担いでほしいと、居酒屋のマスターから毎年依頼され、法被を借りて1日だけ江戸っ子になって神輿を担いでいたのでした。その神輿が、まさにこの倉庫に保管されている神輿だったのです。
山を探しているのをすっかり忘れ、なんだかうれしくなってきたのでした。
ガセネタかとあきらめかけたその先に!
お神輿の倉庫が建ち並ぶ道を進んでいくと、白山神社の裏手に出るようでした。
やっぱり、これは山がないパターンかもしれない…。今までも何度か、山も痕跡も見つからず空振りに終わったことがあり、そんな経験から白山富士ガセネタ説に気持ちが傾いていきました。
重い足取りでどうにか歩いていくと、なんと白山神社の本当にすぐ隣に、関東松尾神社の名前と鳥居が見えてきました。あれ、同じ敷地に違う神社があるなんて、と思いつつも、軽く写真を撮って先を急ぎました。
すると、境内を過ぎ、公園に出てしまいました。やはり、山はないのか…。諦めて公園を出ると、まさかの表示が目に入ったのでした。看板に「出口」とあります。ということは、「入口」があるはず。しかも、遠目には山っぽい感じです。
出口と記された看板からグルッと反対方向に進むと、ようやく白山富士の入口が見えたのでした。
が、入口の表示に近づくと門が閉まっていました。看板を読むと、日付などの詳細は書いていませんでしたが、アジサイの咲く時期だけ登れるようです。後で調べると、ここでは例年6月に1週間ほど「文京あじさいまつり」が開催されるそうです。
つまり、年に1度だけ登れる山、それが白山富士だったのです。周りを見渡すと民家に囲まれています。白山富士に登ると周辺の家が丸見えになってしまいます。そんなこともあり、期間限定で登れる山になったのかもしれません。ともかく、山が見つかりホッとしました。
ちなみに、白山富士は人工的につくられた富士塚です。富士塚の詳細は、以前紹介した品川富士の記事を参照してください。
白山神社境内から白山富士にかけては、約3000株のアジサイが咲くそうです。駅から近いし、今度は山を登れる季節に来てみよう。帰りは「喫茶映画館」でコーヒー、夕方に来て「だんだん」で一杯楽しむのもいいですね!
次回は「石川啄木と関係の深い文京区の山」を予定しています。
なお、今回紹介したルートを登った様子は、動画でご覧いただけます。