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    2023.11.29

    六甲山でトレッキングしながらワーケーション、なんていかが?

    ROKKONOMAD

    六甲山山頂近くの標高780m地点に位置する「ROKKONOMAD(ロコノマド)」。本館(左側)が1965年に企業の保養所として建てられ、別館(右側)は1973年に完成した。2棟は内部で繋がっている。(写真提供/ROKKONOMAD)

    観光地やリゾートで休暇を満喫しながら働く「ワーケーション」。働き方改革のひとつとして、昨今耳にすることも多く、すでに実践されている方もいるだろう。

    2021年春、瀬戸内海国立公園の一部でもある六甲山山上に誕生した「ロコノマド」は、宿泊できるシェアオフィスとして、ワーケーションには最適な施設。基本的に会員制ではあるが、ゲスト利用も可能。そこで1日だけのお試しプラン「トライアル利用」を使って、実際に六甲山上でワーケーションをやってみた。

    クルマやケーブルカーもいいが、トレッキングで目指すのが醍醐味

    六甲ケーブル下駅

    起点となる六甲ケーブル下駅までは、阪急六甲駅またはJR六甲道駅からバスや車を利用する。ここからケーブルカーに乗車すれば約10分で最寄りの六甲山上駅にたどり着ける。

    六甲山と言えば関西屈指の人気トレッキングスポット。その山頂近くにあるロコノマドを目指す場合、神戸市中心部から車なら約40分。あるいはケーブルカーを使う手もある。しかしどうせなら登山道を歩き、自然と触れ合いつつ自力で向かうのが、六甲山らしいワーケーションではなかろうか。

    今回ロコノマドまでのコースは、六甲ケーブルの線路の東を沿うように山上駅まで続く「油コブシ」と呼ばれる約1時間40分の登山道を経由する。山上駅からロコノマドまではさらに徒歩約15分だ。

    トレッキングをするなら仲間もいた方が楽しい。そこで最近山登りに目覚めた地元ライター/編集者の穴田佳子さんに同行していただくことにした。何をかくそう、そもそも「ロコノマド」の存在を教えてくれたのは彼女であり、「”下界”でイライラしていると何事も悪循環。たまには山の上で静かに仕事がしたい……。」と、このワーケーションを発案したのも彼女。今回そのささくれだった心が癒やされ、仕事もはかどることを祈るばかりである。

    大都市に隣接するとは思えない豊かな自然のなかを進む

    静かな山歩き

    平日であれば登山客も多くなく静かな山歩きが楽しめる。

    六甲ケーブル下駅スタートは午前8時半。10分ほど舗装道路を歩くと登山口に着く。ここから本格的な森へと入り、濃い緑のなかを進む。深い森には遠くから街の喧騒が届くものの、ここが150万の人が暮らす神戸市内であるを忘れさせてくれる。

    その一方で高度が上がるたびに傾斜が増し、息も上がる。それもそのはず、コース名にある「油コブシ」とは、かつて菜種油売りが六甲山を越えて有馬などへ向かう途中、あまりの急な斜面のために油をこぼしたという「油こぼし」が由来の一つとも言われている。

    トレッキング初心者の穴田さんもそんな急登に苦悶の表情。休憩スポットとして予定している油コブシの展望台までの道のりが、思いのほか長く険しいせいか「むうぅ……。一体いつたどり着くんや!?」とその語気も強い。この時点では、心はますます荒れ模様と見受けられる。

    油コブシの展望台

    油コブシの展望台からは神戸の町並みから遠く大阪まで見渡すことができる。

    スタートからおよそ1時間で急登を攻略し、無事油コブシの展望台に到着。ここはベンチが設置され、眺望を愛でながら休憩するにはもってこいの場所だ。行動食として当方が持参したみずみずしい梨を食べたことで、穴田さんも少しばかり気力も体力も回復した様子。

    しばしの休憩ののち、改めて上を目指す。まもなく「きつい道」「ゆるい道」とふたつの標識が掲げられた分岐が現れる。穴田さんが迷わずチョイスしたのは、もちろん「ゆるい道」。自らの体力に合わせてコースを選べれるのも、初心者から上級者まで楽しめるこのコースの特徴でもある。

    緩やかな道

    油コブシから先は比較的に緩やかな道となる。途中「きつい道」を選べられる分岐もある。

    油コブシから40分。車道へと続く急な階段を登りきれば六甲山上駅はすぐそこ。ここからは山上駅とは逆の方向へ車道を進み、看板を目印に再び森の中へ入り、近畿自然歩道を歩くこと15分。今回の目的地であるロコノマドのエントランスが見えてきた。

    石の表札

    この石の表札の奥にロコノマドがある。クルマで来る場合は、ここから徒歩8分の車道沿いにある共用駐車場を利用する。

    鳥のさえずりと静かな風の音がBGM。高原の爽やかな空気のなか仕事に取り組む

    ロコノマド

    天気の良い日にはテラスで仕事をしたり、気分転換に周囲の森を散策することもできる。会員のグループがBBQなどを楽しむこともあるという。

    ロコノマドの出入口は2階。入館したら受付を済ませ、施設内の説明を受ける。受付時に手渡されるカードキーは、オートロックの出入り口で必要なため、途中外出する場合など忘れずに持ち歩きたい。

    本館2階のソーシャルルーム

    食事や休憩などに利用できる本館2階のソーシャルルーム。コーヒー(100円)やビールなどの冷たい飲み物も販売している。

    別館1階に大小2部屋ある会議室

    別館1階に大小2部屋ある会議室(最大10名)は事前予約で利用可能。ホワイトボードやモニタなど会議に必要なアイテムが揃っている。

    別館2階ワークスペース

    仕事をするための別館2階ワークスペース。すべてフリーデスクで好きな場所を選ぶことができる。もちろん全館高速WIFI完備。

    窓際の席

    木々の先に青い海を望める窓際の席。窓を開けると爽やかな風を感じる。

    早速ワークスペースで仕事を始めたいところだが、トレッキングでかいた汗をシャワーで洗い流したい。しかし残念ながら、会員や長期滞在者ではないゲストの場合は、シャワーの利用は不可。そこで汗をタオルで拭き取り、着替えを済ませ、それなりにさっぱりした状態で仕事を進めることにする。

    この日、市街地では汗ばむほどの気温ながら、標高700m以上あるロコノマドは下界より4〜5度気温が低い。窓を開け網戸にすれば、クーラーを使う必要もなく、外から流れ込む風が実に心地よい。ここまで登れば、さすがに街の喧騒は届かず、静かな環境で仕事に集中できる。

    またワークスペースの天井は高く、開放感もある。床には六甲山の杉の間伐材が使用され、木のぬくもりを感じつつ、精神的にもゆとりを持って作業に打ち込める。

    広々としたテーブル

    広々としたテーブルと周囲の視界を遮るパーテーションで仕事に没頭できる。

    1人用のフォンブース

    WEB会議や電話する時に便利な1人用のフォンブース。予約は不要で好きな時間に使える。使用中の場合でももう一つブースが用意されている。

    同館を管理するヤンセン尚子さんによると、現在利用者の多くは大阪〜神戸間に在住するリモート勤務の会社員やフリーランスのほか、東京在住や世界中を飛び回って働くビジネスマンの利用もあるらしい。そのうち4割がクルマで足を運び、残りはケーブルカーやトレッキングで登ってくるという。なかには自転車で登ってくる猛者もいるとか。

    「パソコンに目を向けていても、ふと顔を上げると、街や海が見えるのもリフレッシュできます。霧の中に入る時間も多いのですが、幻想的で素敵です。ミストもお肌に良いはず」とこの環境の魅力を語るヤンセンさん。

    ROKKONOMADでの会議風景

    企業やチームの合宿で利用できるプランもある。日常とは異なる環境で集えば、新たなアイディアはもちろん結束力も生まれるはずだ。(写真提供/ROKKONOMAD)

    午後からの仕事にもパワーを与えてくれる日替わりランチプレート

    ランチプレート

    この日のランチプレートは、さつまいもご飯、ひよこ豆の醤油麹煮、酢の物サラダ、ししとうとこんにゃく炒め、2種類のじゃがいもと空芯菜の味噌炒め、とき卵スープが並ぶ。大人数での利用の場合、季節野菜のカレーが提供されることもある。

    仕事で頭を使うとお腹も減る。ここで一旦仕事を中断し、ソーシャルルームでランチタイムとしよう。同館周辺には徒歩圏内で気軽に行ける飲食店がないため、利用者は各自で食料を持参するか、会員限定の日替わりランチプレートを事前に予約しておく必要がある。1日だけのトライアル利用でも予約しておけば、同ランチプレートが味わえるのはありがたい。

    ランチの内容は地元神戸の野菜をふんだんに使ったメニュー。いずれも優しい味付けで、食べることで体の中から浄化されるような料理ばかり。天気が良ければテラスで食事すれば、より一層美味しく感じるはずだ。

    ヘルシーなランチでパワーチャージしたら、午後からの仕事もより一層身が入る。トライアル利用は9:30〜19:30なので昼食後もたっぷり時間がある。

    さらにじっくり腰を据えて仕事に取り組むなら宿泊プラン利用を

    ダブルベッドを備えた個室

    8畳ほどの部屋に広々したダブルベッドを備えた個室。直接テラスに出ることもできる。シャワー、トイレ、キッチンは共用となる。現在は2週間以上の長期滞在者向けの部屋として利用されている。(写真提供/ROKKONOMAD)

    シェアベッドルーム

    シェアベッドルーム。カーテンで区切られるため十分なパーソナルスペースがある。折り畳み式のテーブルがあり、ちょっとした作業や読書もできる。女性専用部屋もあり、安心して過ごせる。(写真提供/ROKKONOMAD)

    帰りのケーブルカーの時間や暗い夜道を心配せず、自然の中でじっくりと作業に取り組むなら、やはり宿泊プランを申し込むのが良さそうだ。会員でなくとも同館の個室や隣接するコテージの部屋を利用できる素泊まり、連泊、合宿向けのプランが用意されている。コテージ素泊まりプランなら一人6900円〜、シェアベッドルームのトライアル宿泊一人8800円〜。

    一度利用してみて、その後も継続的な利用を希望するなら、やはり会員になるのが賢明だろう。入会金11000円で、様々なパターンのプランがあり、人気は3300円で月一回利用できるライトプランだ。宿泊料金もリーズナブルな会員価格になるので、詳しくは問い合わせを。

    さて、当方の存在はもはや眼中になく仕事をしていた穴田さんに、今回利用してみた感想を伺った。

    「私にとってこの環境はトレーニングも兼ねられるのがいい! 今回は行きは歩いて、帰りはケーブルで。体力に合わせた自由なアクセスもいい。
    仕事は自宅より集中してできたような……。ネット環境もストレスナシ。ちょっと疲れたらソーシャルルームにコーヒーを淹れに行ったり、外の空気吸いに行ったり。それにいちいち動かなくても、視線を窓へやれば緑と海があるし、鳥の声や風の音に癒される。とても気持ちがいいところでした。
    頑張れば月一で通えるかも……。次はおやつ持ってこようっと!」

    そう語る穴田さんの晴れ晴れしい表情が、快適な空間で仕事が進んだ達成感を物語っているようだ。心配していた心にも癒やし効果が十分にあったと見る。そして後日、穴田さんが会員になったと聞く。
    身近な場所にありながら、六甲山の豊かな自然環境の中で仕事ができるロコノマドは、神戸ならではの贅沢なワーケーションスポットと言えるだろう。

    ROKKONOMAD
    兵庫県神戸市灘区六甲山町西谷山1878−48
    https://rokkonomad.org/

    私が書きました!
    ライター/カメラマン/編集者
    藤川満
    大雪山山中での勤務、札幌の情報誌編集長などを経てフリー。現在は神戸を拠点にして、六甲山に点在する茶屋の酒を目当てに登り、時に仁淀川や四万十川まで足をのばしカヌーで川を下る。全国各地の低山にも出没し、下山後の地酒に目がない日本酒党。「にっぽん百低山 吉田類の愛した低山30」(NHK出版)の執筆・写真・編集担当。

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